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『堕ちる楽園』上
素足にひたりと血の海が広がって俺の足が汚れるのを俯いて見ていると障子が開く音に反応して素早く振り返る。
「君は素晴らしい」
幼い頃から育ててくれた村の人たちは俺を生贄として殺すつもりだったことを知った夏にあの人は俺の前に現れた。
銀髪に白いスーツ姿は村の人間ではないことは明白で「だれ?」と育ててくれた人たちを殺した虚無感に襲われながら聞いた。
「俺の邪魔するならアンタも殺すぞ」
「邪魔なんてしないよ」
死体を躊躇いなく踏みながら俺に近付く男は真夏の季節とはかけ離れたような儚さ、美しさを感じる。読心の超能力で心の声を聞こうとすると男は俺の目の前に跪く。
「っ」
「怪我をしているね。それに・・・痩せている」
「・・・俺を利用してる奴らを殺そうとしたら大人たちに囲まれて殴られたあと数日間独房に閉じ込められていた」
「そんなひどいことをするなんて許せないな」
初めて会った人間なのに、俺の姿を見ても驚かなかったのが不思議だ。妖狐の子供として育てられた俺は狐の耳と尻尾が生えて他の人間とは姿が違うのに、男は俺を見ても殴られた頬に触れて心配する。
──不思議なひとだ。──
触れた頬が温かい。そうだ、俺は本当は殺したくなかった。いつもみたいに愛を注いで欲しかったのに全ては村のつまらない掟の為に俺を利用して殺そうとしたから俺はこんなにも怒りに満ちて殺したんだ。
「君は何も悪くないよ」
スーツの胸ポケットからハンカチを取り出して俺の頬を拭ってくれたから「だれ?」と聞くと男は薄く微笑んだ。
茹だるような暑さなのに男が微笑んだときだけ、ひんやりと冷たい空気が流れる。
「有月だ。これから僕たちと生きてみない?」
「・・・?」
「一緒に来て欲しい」
人殺しの俺を、人間でもない俺を優しく抱き締めてくれた有月という人に俺は再び心臓が動き出した気がした。
この人のことを何も知らない、だけどこのまま虚無に襲われて自害するよりも、もう一度人を信じてみてもいいのかもしれないと思った。
「いいの?」
「もちろん。君の名前が知りたいな」
「・・・シン」
今まで村の人たちは俺のことを『シン様』と呼んでいたから有月さんが「シンくんだね」と何の隔りもなく呼んでくれたのが嬉しかった。
「行こう。これは尊い正義への一歩だ」
手を引いて暑くて血の匂いが充満した部屋を有月さんを出た俺は、初めて村の外に出た。
ボスが妖狐の子供とかいう謎の生き物を拾ってきてから一週間が経過した。何故か妖狐の子供、シンは俺に懐いて毎日ゲームを邪魔してくる。
「がーく!遊ぼ〜!」
ピンと立った耳に大きな尻尾は狐そのものだが、それがなければ金髪の5歳くらいの幼い少年だ。尻尾を揺らしながらゲーム中の俺の腕の中に入ってきたから思わず舌打ちをする。
「邪魔」
「うびゃっ!」
両耳を掴んで寝転んでいたベッドの外に放り投げると情け無い声を上げるもすぐに着地して再びベッドによじ登って来た。
「楽〜!」
上半身に乗っかってきたシンは小さいから軽い。ただ騒がしいから「ボスんとこ行け」と冷たくあしらうと無視して俺の腕の中に入り込む。
「うづきさんは仕事!楽に遊んでもらえって」
「はぁ〜〜俺にガキの世話押し付けんなよ」
仲間にすると言われた時は皆んな驚いていたけど一週間も経てば人懐っこいシンはすぐに俺たちに馴染んだ。だが俺にとっては面倒なガキがひとり増えたくらいで明らかに弱いシンを仲間にするのは足手纏いでしかない。
──ボスと出会った時に村の人間全員殺してたって聞いたけど・・・ほんとか?こんなガキが?──
「・・・む!俺はガキじゃない!」
心の声が読める超能力を持っていることを忘れていたからシンが俺の思考を呼んで睨んできたから「うざ」と文句を言って体を起こした。
「俺は高貴な妖狐だぞ!700歳なんだぞ!」
「クソガキ」
「んぶ」
分かりやすい嘘をつくシンの柔らかな頬を軽く抓るとモチモチとした滑らかな頬は触り心地がいい。ふと、頬を抓られて嫌がるシンが不機嫌そうにブンブンと尻尾を振るのが目に入った。
「お前尻尾汚くね?」
「びゃっ!」
無遠慮に尻尾を掴むと急所なのかシンが叫ぶ。暴れる前に膝上に乗せてベッド横のテーブルの上に置いてあったブラシを手に取る。
よくボスが念入りにシンの尻尾をブラッシングしていて、シンは尻尾は触られたくないのかボスに懐いているけどブラッシングの時だけは不機嫌になるのを度々見ていた。
「触るなっ」
「どうせアジト探索して尻尾汚してきたんだろ」
アジトは大抵廃墟が多いからシンの身長と大きな尻尾のせいでいたるところから埃やゴミが毛に絡み付く。
この状態で俺の寝床でウロウロされるのは不愉快だから仕方なく嫌がるシンの尻尾をブラッシングする。
「うゔ〜離せぇ〜」
暴れるシンの体を腕でホールドしながら雑にブラシで梳いているとシンは更に不機嫌を露わにして俺の腕を噛み始めた。
──これが甘噛みってやつか?──
よくボスが嬉しそうに「シンくんの甘噛み、可愛いんだよ」と言ったのを思い出しながら大して痛くないから続行するとシンは歯を更に俺の皮膚に食い込ませる。
「痛くないのかよ!」
「?・・・甘噛みだろ」
「本気で噛んでるんだぞ!」
──甘噛みじゃなかったんだ。──
全く痛くなくて、もしかしてボスの言っていた甘噛みもシンにとっては抵抗して本気で噛んでいたんじゃないかと察した。
「楽のブラッシング雑!宇田さんのがいい!」
今度は尻尾を振ってブラッシングの邪魔をするから次第にイラついて片手で尻尾を握るとシンは「ぴゃ」と情け無い声を上げる。
「我儘言うな。次言ったら遊んでやんねーぞ」
「え!ブラッシング終わったら遊んでくれるのか?」
さっきまで暴れていたシンがパッと顔を上げて俺を見た。とても人殺しをしたとは思えないほど明るくてキラキラ光って見える無邪気な笑顔にきっとボスたちも絆されているのだろう。
「・・・仕方ねーな」
「やった〜!楽だーいすき!」
「ハイハイ。まだゴミついてるからブラッシング続けるぞ」
「うぶぶ」
ブラッシングしていくうちにシンは大人しくなって気づいたら俺にピッタリくっついて寝息を立て始める。
非常に気まぐれで、生意気で苛立たせることも多いし未だにボスが仲間にしたのも謎だけど無防備な寝顔を見ていると胸の奥が少しだけ暖かくなった。
それは今後の俺には必要ない感情だと分かっていても、今は小さな温もりを起こさないように柔らかな頬を優しく撫でた。
本を読み終えて膝上で丸くなって寝ていたシンくんがいないことに気付く。
──楽に遊んでもらってるのかな?──
最近はシンくんも楽に懐いているし楽も最初こそは冷たくあしらっていたけど今では弟のように可愛がっているところを見ると微笑ましい。
部屋を出て歩いていると別室に宇田くんがしゃがんでいたのを見かけて室内に足を踏み入れる。
「何してるの?」
「あ、ボス」
近付いて覗き込むと宇田くんの目の前にはダンボールが置いてあって、すっぽりとダンボールに入ってシンくんが眠っていた。
「狭いところが好きそうだったので試しにダンボールに毛布を敷いたらすっかり気に入って昼寝中です」
「・・・猫みたいだね」
猫みたいに背中を丸めてダンボールに収まって寝ているシンくんに思わず笑みが溢れる。
出会った頃は全身返り血塗れで今にでも僕を殺しそうな殺気を放っていた幼い妖狐とは別人みたいだ。
「ボス、なぜシンを仲間に?確かにエスパーの能力も動きも幼い割にはいいですが、アルカマルにいた子らと比べたらシンはまだまだです」
養護施設アルカマルで育てられた僕や楽を昔から見てきた元職員である宇田くんが聞いてきたから僕はシンくんの寝顔を眺めながら考える仕草をした。
「んーなんとなく・・・僕の友人ならそうするかなって」
「友人・・・以前一年ほど共にした奴ですか」
「うん」
きっと彼女なら、シンくんの孤独や絶望を汲んで一緒に連れて行く筈だと思った。その場で僕が殺した方がシンくんも幸せだったのではないか?と思ったのは最初だけで僕らの中でシンくんは大切な存在になりつつあるのも、宇田くんは感じていたのだろう。
「そうっすか。それにしても最近シン大きくなりましたね」
「やっぱそう思う?妖狐の成長って早いのかな?」
「物覚えも早いし勉学ならアルカマルにいた子たちより優秀だ」
一番面倒を見ている宇田くんが褒めるから何だか僕も嬉しくなっているとダンボールの中で寝ていたシンくんがモゾモゾと身動ぐ。
「んん・・・」
「起こしちゃったかな?ごめんね」
ピンと立った耳をピクピクと震わせて「うづきさん」と舌足らずに呼ぶ声が可愛くて頭を撫でると目を閉じたままシンくんはふにゃふにゃと笑う。
「ほんとに猫みたいだな」
思わず口に出てしまった宇田くんの本音にシンくんは寝起きの瞳でムスッと睨むも全く怖くない。
「む・・・俺は高貴な妖狐だぞ・・・んむむ」
「ふにゃふにゃじゃないか」
強がった口調も頭を撫でられながらでは気持ち良さそうに目を細めてしまうから形無しだ。ノロノロと体を起こして僕に両手を広げるから苦笑して抱き上げる。
ちょうど日が当たる場所にダンボールを置いていたからか、シンくんからお日様の匂いがして暖かい体温が心地いい。
「あんまり甘やかしすぎると大人になったら大変ですよ」
「ふふ、シンくんはどんな大人になるか楽しみだ」
首に手を回して尻尾をゆらゆらと揺らすシンくんはこれから先、どんな風に成長するだろうか。
『お前にもさ、人生をかけて守りたい奴見つかるよ』
ふと思い出したのは友人の言葉だった。逃避行のように宛てもなく2人だけで廃れた建物で暮らした一年。
元々同じ学校の同級生だったけど彼女とはあまり話したことがなかったから一年間、僕は彼女がどういう人間なのか理解し始めていた。
遠いようで近い、だけど触れ合う距離ではない場所でお互い背中を向けて寝ていた時に友人はそんなことを言い出したのを覚えている。
寝返りを打って「どういう意味?」と聞くと友人は背中を向けたまま「そのままの意味」とだけ答えた。
今、僕が大切にしているのはアルカマルに残された家族だ。血は繋がっていないけど苦楽を共にした大切な存在は僕の人生をかけて守りたい存在だと言えるのに友人はそういう意味で言った訳ではないらしい。
もし僕が『人生をかけて守りたいのは君だよ』なんて冗談を言っていたら、その友人に殺されていただろう。
──この子が、僕の人生をかけて守りたい存在なのかもしれない。──
今更になって友人の言葉の意味を理解できて自然と頬が緩む。
眠そうにウトウトしていたシンくんが僕を見上げて「有月さん何で泣いてるの?」と短い手を伸ばしてくるから僕は背中を丸めてシンくんの額と自分の額をくっつける。
「──なんでもないよ」
数年後。
今日のアジトは山奥のホテルの廃墟だ。都会と違って空気も美味しいしビルの中にいても聞こえる人の思考で頭痛に悩まされていた俺に有月さんは新しいアジトの移動を提案してくれたらしい。
早朝、俺はなかなか起きてくれない楽の部屋から抜け出して有月さんの部屋にこっそり入った。
あの頃は子供の姿だったけど、今じゃ狐の耳も尻尾も成長して見た目は十代後半か二十代前半でストップした。
殺し屋殺しもたまに手伝っているけど、やはり楽たちの強さは俺にとって異次元だ。楽曰く「エスパーの方が異次元だろ」と言うけど俺は納得していない。
セミダブルのベッドで眠る有月さんの寝顔は無防備でいつもカッコいい姿を見ているから新鮮だ。ドキドキしながら履いていたスウェットを脱いでベッドに四つん這いになって入る。
「・・・シンくん?」
「おはようございます」
僅かな物音で起きるのは殺し屋の基本だろうか。有月さんが目を閉じたまま俺の名前を呼ぶから近付いて体に跨った。
「楽を起こせなかったんだ?」
「・・・別に」
「ふふ」
基本いつも楽と寝てるけど一度寝たら起こすのに一苦労だ。今朝も頑張って起こそうとするもイビキをかいて眠って相手にして貰えなかったことは有月さんには筒抜けだ。
不貞腐れたように唇を尖らせると有月さんは薄く瞳を開けてクスクスと笑って俺の頬を撫でるから擦り付けながらキスをする。
「ん・・・」
抵抗なく俺のキスを受け入れてくれた有月さんは俺の体の形を確かめるように耳や首元に触れながら啄むようなキスをした。
「もしかして発情期が来ちゃった?」
「・・・はい」
唇から離れると有月さんは俺を押し倒して体に跨る。すっかり形勢逆転されてしまったけど、素直に発情期をきたことを頷くと優しく頭を撫でてくれた。
精通してから時折俺は発情期がくるようになった。体が熱くなって大体1日〜6日の間は狐の本能なのか発情してしまう。
そんなとき、1人で苦しんでいた俺に手を差し伸ばしてくれたのが有月さんとボスだった。
「朝だから・・・皆んなが起きないように声抑えられる?」
「っ」
──有月さんの声だけで勃っちゃった。──
耳元で囁いた甘い声に全身がゾクゾクするのはこの先の快感を体も心も知っているからだ。小さく頷くと有月さんは薄く微笑んでキスをしてくる。
「ぁ・・・っ♡」
ぬるりと有月さんの舌が入り込んできて体を震わせると有月さんは瞳を細めて俺のシャツのボタンを外してきた。
「発情期のせいかいつもより敏感だね」
「あっ、ッ♡・・・はい」
舌を絡ませながら有月さんの手が俺の胸元を優しく撫でてくる。楽とは違う優しい触り方はもどかしく感じるけどドキドキして顔が熱くなった。
──有月さんとのキス・・・気持ちいい。──
すっかり興奮した俺を焦らすように指先で乳房を抓るから敏感に反応すると勃起した自身から先走りが溢れる。
発情期になると2人に相手してもらうのが定番になったけど、頻繁に発情期以外でもセックスするよになった。
『えっちって好きな人とするんだろ?だから2人と俺、ドラマで観たぞ』
初めて2人にセックスを教えてもらった時に当たり前みたいに言えば2人が驚いたのは今でも不思議だった。
有月さんたちは身寄りのない妖狐の俺を大切に愛情を注いで育ててくれたんだ。そんな皆んなが俺は大好きだから、この身を捧げるくらい大した問題ではない。
「ん、有月さんも気持ち良くなりましょう」
「・・・フェラしてくれるの?」
「はい」
キスを堪能したあと俺が体を起こすと有月さんは頭を撫でながら「いいよ」と言ってくれたから四つん這いになる。
「今日も尻尾フワフワだね」
「んっ」
有月さんの履いていたズボンと下着をズラすと反応してない自身が外気晒されて見つめていると有月さんが手を伸ばして俺の尻尾に触れてきた。
昔は触られるのに抵抗はあったけど、今では信用している人に触られたら気持ちいいしブラッシングではうたた寝してしまうことも暫しある。
なるべく歯を当てないように気をつけて両手で包み込んだ有月さん自身を口に含む。
──ちんこが一番有月さんの匂い、強いから好き・・・♡──
唾液を絡ませて丹念に舌で奉仕すると頭を撫でてくれたから上目遣いで見上げると有月さんと目が合う。
硬くなる有月さん自身が嬉しくて先端を軽く吸ったり裏筋を舐めると僅かに息を詰める有月さんに俺は既に欲情していた。
「俺の口の中でイきますか?」
「・・・いいや、シンくんのナカでイきたいな」
耳を撫でられて思わず尻尾がピンと立つと分かりやすい俺に有月さんは小さく笑う。「仰向けになって」と言われて俺は素直に有月さん自身から口を離して仰向けになって足を開く。
「やっぱり、もう濡れてるね」
「ぁ・・・っ」
勃起した俺自身に触れながら空いた手で濡れている秘部に指を押し込まれて腰が浮いた。いつもはローションで秘部を慣らしてもらうけど、発情して有月さんと楽に相手してもらってから何故か発情期間中は異性のように秘部が濡れるようになった。
「有月さ・・・っ、も、挿れてください」
「念の為慣らさないとね」
──意地悪だ。──
早く挿れて欲しい俺の気持ちを理解しているのに有月さんは俺の秘部に指を挿れて動かす。くちゅ、といやらしい音と中に有月さんのしなやかな指が入っていることに俺は興奮して息が荒くなった。
「ぁ、あ・・・っ♡」
「柔らかいね。昨日楽とシた?」
「ん゛っ、一回だけ・・・しました」
一緒に寝ることが殆どの楽とは頻繁にセックスをしていることは有月さんも知っているから然程驚いていなかった。
中を広げるように指が動いて俺の感じる場所に当ててくるから喘ぐと有月さんが俺自身を上下に擦ってくる。
「あ゛っ、うづきさ、イく、イッちゃう・・・」
「いいよ。僕に見せて」
「〜〜っ」
興奮した体が従順に有月さんの手の動きに反応して絶頂を迎えると指を引き抜いた有月さんが自身を当てがう。
まだ達したばかりだから待ってください、と言う前に有月さんは昂った有月さん自身を秘部に押し込むから体が震えて目の前がチカチカする。
「あ゛っ♡」
「っ、最高の体だな」
達したばかりの敏感な体に大きな有月さん自身が中を掻き混ぜるように入って、ゆるゆると律動を始めた。
言葉なんて出せずに俺はただ喘いでいると有月さんは噛み付くように俺にキスをしてきた。強引に舌を絡ませてきて酸素を奪うようなキスが気持ち良くて俺は無意識に有月さんの腰に足を絡めてホールドする。
「ん、ぁ、あ゛っ、うづきさん、好き・・・♡だいすき・・・っ」
「うん、僕もシンくんが好きだよ」
「ッ♡」
低い優しい声に全身がゾクゾクして俺は気付かないうちにまた絶頂を迎えてしまった。声だけで感じる俺に有月さんは薄く微笑んで更に奥に挿れる。
「シンくん、このままだと外に出せないよ」
「ぁっ、ナカ、ナカがいいです・・・!」
縋るように有月さんの腕に触れて涙目で訴えると有月さんは一度も俺の我儘に抗えないことは知っていた。
「分かったよ。だから泣かないで」と瞳に溜まった涙に弱い有月さんは苦笑する。
緩やかだった律動は激しいものに変わって前立腺を抉るように突いてくる度に目の前がチカチカした。
「あ゛っ、あっ、あっ、うづきさん、好き・・・っ♡」
「うん、僕もだよ」
涙を流しながら喘ぐと有月さんも興奮した様子で俺にキスをしながら眉を寄せる。いつだって温厚で優しい有月さんの余裕のない顔を見るのが密かな楽しみで「中に出してください」と強請ると有月さんは息を詰めた。
「──っ」
「ん゛・・・♡」
中にじんわりと熱い精液が注がれる感覚に震えていると有月さんは荒い息を整える間もなく俺に触れるとだけのキスをしてくる。
「・・・まだできるよね、シンくん」
「ッ♡」
伸びた前髪から覗く優しいのに、猟奇的に感じる有月さんの瞳と目が合って俺は無意識に口角を上げて「はい」と頷いて今度は俺からキスをした。
「あ、やっぱボスに構って貰ったんだ」
「!・・・楽」
ノックのせずに僕の寝室を入ってきた寝起きの楽は僕の下に四つん這いに組み敷かれているシンくんを見つけると近付いてきた。
僕らがセックスするのは何度も見てきているし、僕も楽とシンくんがセックスしているのは何度も見ていたから、お互い気まずくならない。
「発情期?」
「うん。楽も起こしたんだけど相手にして貰えなくて僕の元に」
「はぁ?もっとちゃんと起こせよ〜」
文句を言うけどシンくんが頑張って起こしても起きなかったのは明白だ。苦笑していると後背位で挿入されていたシンくんが顔を上げて「がく」と舌足らずに呼ぶ。
「もうトびかけてんじゃん」
「楽が遅いから」
トロンとしたシンくんの瞳は理性なんてなくて、へにゃりと楽に笑みを浮かべる姿に楽は顔を近付けるとシンくんがキスしてくる。
その唇で僕にキスをしたり陰茎を咥えたことは知っての上で楽はシンくんとディープキスを始めた。
「3人で久しぶりにシようよ」
「いいっすよ。俺もう挿れたい」
発情期は秘部が濡れていることを知っているから楽がズボンと下着を早速ズラすから「せっかちだな」と苦笑する。
「シン、舐めて勃たせろ」
「ん・・・っ、いいよ」
四つん這いのまま僕自身を受け入れながら楽自身を口で奉仕し始めた。時折邪魔するようにピストンをすればシンくんの体は敏感に反応するから楽がシンくんの両耳を片手で掴む。
「ん゛っ」
「ちゃんとフェラしろって」
「楽、耳は大事な場所だから乱暴にするなって言っただろ」
「・・・はーい」
人間の耳とは違って狐の耳は敏感で繊細だ。すぐに注意すると楽は大人しく耳を離すとピクピクと狐の耳が震えた。
尻尾がユラユラ揺れて時折僕の頬を撫でてくるのを楽は見ながら「相変わらずボス大好きだよな」と呟く。
「そう?僕にはシンくんを可愛がってる楽のことも好きだと思うよ」
「・・・あっそ」
真意は分からないけど最近の楽はシンくんを以前とは違う目線で見ている気がする。非常に微笑ましいものを見ているみたいで頬が緩むと楽がチラリと睨んで「もう挿れたいんすけど」と言う。
「いいよ。体勢を変えよう」
一度シンくんから自身を引き抜くと秘部はヒクヒクともの寂しそうに蠢いている。楽も自身を口から離すと「がく?」と不安そうに名前を呼ぶシンくんは泣きそうだったから頭を撫でてあげた。
「シンくん、こっち向いて」
「ひゃい・・・」
四つん這いの姿勢はそのままで、今度は逆にして楽に臀部を向けるような姿勢にすると勃起した僕自身がシンくんの眼前に映る。
「うわ、ぐちょぐちょじゃん」
「ぁう・・・♡」
腰を掴んだ楽が挿入するとシンくんの全身が震えた。「舐めて」とお願いするとシンくんは蕩けた表情で従順に僕自身を奉仕した。
「ん゛、ん゛っ・・・!」
丹念に奉仕するも楽の激しい律動で口淫に集中できないシンくんの焦った表情が可愛らしい。耳をペタンと下げて不安そうに僕を見上げながら口淫する姿にまた興奮する。
「シンのケツマンコ最高〜」
「この後の仕事忘れないでよ」
「げ、マジか忘れてた」
そろそろ鹿島が部屋の様子を見てくるからちょうど3人でセックスしたら一先ずやめるように言えば楽は眉を寄せた。
「シンが発情期だから今日の仕事なしでヤリまくりましょーよ」
「ダメだよ。シンくんは一応アジトに置いて行こう。仕事終わったら沢山するといい」
発情期のシンくんはずっと発情している訳ではなく、波がある。殺しの場所に連れて行くのは危険だから置いて行くけど僕だって名残惜しいものだ。
「じゃあ〜終わったら二輪挿ししよーぜ」
「発情期だし、そこまで痛みはないだろうからいいよ」
「やった〜」
このまま楽が機嫌を損ねて仕事をサボれば鹿島は怒るし面倒だ。シンくんの頭を撫でながら了承すると腰を更に強く掴んだ楽が奥に挿れる。
「ん゛っ♡」
「シンってフェラしながら挿れられるの好きだよな」
「そうだね」
僕自身を咥えながら楽自身を挿れて感じているシンくんは淫靡で普段見せている甘えたな姿とは別人みたいだ。
「仕事終わったら、これよりもっと気持ち良くなろうねシンくん」
「ッ♡♡」
「あ、シン声だけでイッた」
優しい声色で言えばシンくんは体を震わせながら絶頂を迎えて楽が小さく笑う。
「シンってボスの声に弱いよな〜」
「ん゛っ、ん゛っ♡」
激しい律動で口淫していたシンくんの体も動いて自然と僕自身を喉奥まで押し込まれる。苦しそうなのに涙を流しながらも感じるシンくんが興奮材料になって頭を撫でた。
「イきそうだな。シンくん、口で受け止めてね」
「俺もナカに出そう〜」
2人に同時に攻められてシンくんは涙を流しながら強い快感を受け入れる。楽が背中を丸めて無防備なシンくんの頸にキスをするのを見ながら僕は絶頂を迎えると楽もブルリと体を震わせてシンくんの中で射精した。
「っっ」
上からも下からも精液を受け入れたシンくんの瞳は虚ろでゆっくりと自身を口から離すと顔を上げて僕に口を開けて中の精液を見せてくる。
「ごっくんできる?」
「ん・・・っ」
口内に入った精液をシンくんが何回かに分けて飲み込むと楽もシンくんの秘部から自身を抜いた。シーツにポタポタと受け止めきれなかった精液が垂れるのを見て楽が「エロ」と呟いてまたシンくんの背中にキスをする。
朝から2人に構って貰えて一時的に発情は治ったものの、体の倦怠感が残ってベッドで寝転んでいると出掛ける前の鹿島さんが小瓶を渡してきた。
「?なんすか」
「これは発情を抑制する薬です。有月様たちがいない時間に万が一発情したら一錠飲みなさい」
怪我の治療や薬の調合までしてくれる鹿島さんに俺はいつも関心していたけど、発情期を抑制できる薬に驚いた。これを発情期に飲めば2人に迷惑かからないのでは?と思っていると楽が大股で近づいて俺の隣に座る。
「お前オナニー下手だから発情したら俺たちに頼るしかないもんな」
「なっ・・・!うっさい!」
ニヤニヤ笑って意地悪を言う楽に文句を言いたいけど事実だから言い返せない。軽く肩を小突くと鹿島さんは「喧嘩はやめなさい」と宥めた。
「しかし試作段階ですから副作用もあるかもしれません。いいですか、くれぐれも一錠以上は飲まないこと。眠くなったらちゃんと寝なさい」
「なんかお母さんみてーだな、鹿島さん」
「コラ楽!今大事な話をしているのです!」
薬の説明をする鹿島さんに楽が茶化すから肩を揺らして笑うと楽も小さく笑った。
「これ飲めば俺も仕事できるんじゃないっすか」
「有月様は安静にしているように言ったので連れて行きません。部屋に鍵をかけておきますが、もし殺連関係者が来たら・・・」
「殺せます」
躊躇いなく言えば楽の期待通りの言葉だったのか鼻で笑って「お前ORDER殺せんの?」と揶揄う。殺連の最高機関のORDERとはまだ会ったこともないけど他の殺し屋と比べてかなり強いと有月さんから教わった。
だけど俺も有月さんたちの元で一緒にいた仲間だ。エスパーの力も上がって、それなりに強くなっていることは自負している。
「では、楽も行きましょう。有月様が下で待ってます」
「・・・はーい」
優しく俺の頭を撫でてくれた鹿島さんが部屋を出ると楽は渋々といった顔で立ち上がるから「終わったらえっちしよ」と手を握ると楽が振り返って俺の額にキスをしてきた。
いつも意地悪をすることもあるけど、2人きりの時は優しくしてくれる楽が好きだ。照れ臭そうにはにかむと楽も頬を緩めて俺の頭をポンポン、と撫でて部屋を出た。
ガチャ、と部屋の扉に鍵がかけられる音を聞いてから俺はベッドから出て窓を開ける。
5階から真下を見れば有月さんが2人を待っている姿を見るだけで幸せで頬を緩めていると視線に気付いたのか有月さんが顔を上げた。
「行ってらっしゃい」
小さな声を出して手を振ると有月さんは優しく微笑んで手を振るう。嬉しくて無意識に尻尾を揺らしながら笑顔が溢れて顔が熱い。
──帰ったら2人にいっぱいエッチしてもらお。──
ベッドに寝転んで深呼吸をすると心地いい倦怠感が再び襲い、瞼が重くなる。
こんなに愛されている俺は幸せだ。有月さんに拾ってもらった恩を生涯をかけて返すつもりで俺はこんな幸せがいつまでも続くと思っていた。
次第に眠くなって微睡みのなか、俺は有月さんと楽のことを思いながら目を閉じた。
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