テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
2件
かっこいいパパは素敵だよね💓
「ママ! 見て見て~」
クルッと体を声の方に向けると、4歳になった息子の「龍音(りおん)」が、小さな体でおっきなバスケットボールを抱きかかえていた。
庭のお花にお水をあげてる途中だけど、こんな可愛い姿を見たら、思わず抱きしめたくなる。
「パパが買ってくれたボール、まだ龍音には大き過ぎるよね」
「龍音ね、バスケの選手になってパパと一緒に試合に出るんだ~」
ニコッと天使のような笑顔を浮かべる息子に、私は毎日癒しをもらってる。
龍聖君も、私以上に龍音に甘くて。
仕事で疲れていても、時間があればちゃんと遊んであげたり、話をしたりして、我が子にメロメロになってる。
だけど、親バカになる意味、今ならすごくよくわかるよ。だって、子どもって、無条件で可愛くて、こんなにも愛おしいんだから。
私は、そんな2人が側にいてくれるだけで、すごく幸せな気持ちになった。
鳳条グループの社長としてバリバリ働いて、子育てもちゃんとしてくれて、私にもまだまだ愛をくれて……
そんな龍聖君は、いつまでもずっと100点のまま。
ううん、1万点、1億点……
やっぱり点数なんて付けられない。
それくらい完璧なパパであり、最高の旦那様。
私はと言えば……
まだまだ足りない部分も多いけど、何とか主婦業をこなし、妻として、ママとしても努力して頑張ってる……つもりだ。
鳳条グループの社長の家族だからって、贅沢三昧はしたくない。なるべく普通の生活ができるよう、日々心がけている。
***
それからまた時は過ぎ、龍音が小学生になった頃、私は久しぶりに仕事をすることになった。
鳳条グループの子会社での簡単なお仕事で、龍聖君とは全く会うことはない。
短時間のパートで、会社の運営上、ある程度時間の融通もきく。
龍音のことをいつも第1に考えてあげたいから、そこを選んだんだ。
そんなある日、龍聖君のお父様、龍音のおじいちゃんからお誘いを受け「ホテル リベルテ」に宿泊させてもらうことになった。
そうやってたまに声をかけてくれることが、本当に嬉しい。
「おじいちゃん~来たよ~」
「おお、龍音! 待ってたぞ。会いたかったよ。また少し大きくなったな」
そう言って、龍音の頭を撫でてくれた。
「僕はもう小学2年生だからね」
ちょっと得意げな龍音。
「本当にあっという間に立派になっていくな。おじいちゃんは嬉しいぞ」
「うん、ありがとう!」
そんなやり取りをしていると、
「こんにちは。お久しぶりです。今日はお招きにあずかり、まことにありがとうございます」
私のお父さんとお母さんもやってきた。
「ホテル リベルテ」に来る時は、いつもスーツとワンピースでおめかししてる。
「わあ! 桜木のおじいちゃんとおばあちゃんだぁ、こんにちは」
「龍音、元気だったか?」
「うん! 元気だよ」
「そうかそうか」
2人とも孫にデレデレして、とても嬉しそうだ。
龍音はその場にいるだけで、みんなを明るく元気にする。私達みんなの太陽みたいな存在なんだ。
「桜木さん、ようこそ。よく来てくれました」
「私どもまでいつもお誘いいただき、こんな素晴らしいホテルに宿泊させていただけるなんて、もったいないです」
お父さんは、腰を曲げて頭を下げた。
「桜木さんは私達にとって大切な家族ですよ。琴音さんにお嫁に来てもらえて、こんな可愛い龍音まで……本当に幸せです。ですから、そんなに恐縮しないで下さい」
鳳条のお父様はニコニコしながらそう言った。
私だけじゃなく、両親まで大切にしてもらえてすごく有難い。
「いえ、私は鳳条家の皆さんには一生頭があがりませんから。あの時の御恩は……本当に生涯忘れません。いや、死んでも忘れません」
「桜木さんの製品には素晴らしい価値があると龍聖から聞いて、私もぜひ応援させていただきたいと思いました。それに、高校時代、龍聖が桜木さんご家族に大変お世話になりましたから。もしお役に立てたなら、こんな嬉しいことはありません」
「そんな、とんでもないです。いくら感謝しても足りません。それに、私達こそ、龍聖君のように立派で誠実で優しい青年に、琴音を大事にしてもらって……こんなに幸せで良いのでしょうか?」
「お義父さん、融資額はすでに完済してもらってるんです。あの製品なら大丈夫だと俺には自信がありました。だから、そんなに恩に感じることはないです。これからも素晴らしい製品を作り続けて下さい」
お父様や龍聖君の優しい言葉に、私達桜木家の人間は、頭を下げることで心からの感謝を示した。
鳳条の両親、桜木の両親、龍聖君と龍音、私。
みんなが集まっての食事会。
こんな風に時間を共有できることが、すごく幸せだ。
「さあ、こちらです。ご案内しますよ」
レストランに向かう途中、ホテルのお客様に龍聖君が声をかけた。
「お客様、何かお困りでしょうか?」
「ああ、どこかにイヤリングを落としてしまったみたいで」
「それはお困りですね。お客様、どこで失くされたかお心当たりはございますか?」
少し混乱されたように見える70代くらいのご婦人が、龍聖君に一生懸命説明している。
「わかりました。私どもが精一杯対応させて頂きます。しばらくお待ちいただけますでしょうか?」
「どうか、よろしくお願いします。あれは死んだ主人がくれた大切なものなんです。見つからなかったら私……」
私にも、肩を落としてとても落ち込んでいるご婦人の気持ちが痛いほどわかった。
「大丈夫ですよ。お父さんがきっと見つけてくれますから」
泣きそうなご婦人の側に駆け寄り、龍音が優しく言葉をかけた。
大人びた話し方ができることに驚く。
「まあ、坊やのお父様なの? 素敵なお父様ね」
「はい! ありがとうございます」
その時、少し離れた場所で、電話であちこちとやり取りをしていた龍聖君が笑顔でこちらに戻ってきた。
「大変お待たせ致しました。今、イヤリングが見つかりました。こちらに届けてもらうので、どうぞ安心なさって下さい」
結局「ホテル リベルテ」のコンシェルジュに届けてくれた人がいたらしく、すぐに見つけることができた。
「ありがとうございます! 本当に……ありがとうございます」
「お役に立てて光栄です。お客様、引き続き『ホテル リベルテ』でごゆっくりおくつろぎ下さい」
「ありがとう。あなたのようなジェントルマンにお会いできて良かったわ。本当に素敵ね。私の主人の次に」
「とても嬉しいです。ありがとうございます。また、いつでもいらして下さい。「ホテル リベルテ」スタッフ一同、お待ちしております」
そのご婦人は龍音の耳元で、「あなたも素敵なジェントルマンでした。本当にありがとう」と言って、とても満足気に去っていった。
「パパって魔法使いなの? あっという間に大切なものを見つけてお客様を笑顔にしたよね」
興味津々に龍聖君に尋ねる龍音。
「パパは魔法使いじゃない。ただ、全てのお客様を笑顔にしたいだけだよ」
「そっかぁ、ホテルで働くって、みんなを笑顔にできるんだね~」
「そうだよ、龍音。ホテルはみんなを幸せにできる場所なんだ」
「わかった! 僕、ホテルで働く人になる! パパみたいにお客様を笑顔にするんだ~」
その思いに胸が熱くなる。
きっと、龍聖君も同じだろう。
「じゃあ、龍音。バスケットボールの選手はどうするんだ?」
「う~ん、そうだなぁ。じゃあ、どっちも! 僕、パパみたいにカッコいい人になる! だって、パパは僕のヒーローだから」
つまりは……龍音は「パパ」になりたいんだね。
あれ? 龍聖君、泣くの我慢してる?
今、最高に嬉しそうな顔してるよ。
たまらずに、龍音のことを抱きしめる龍聖君。
2人はとてもよく似てる。
顔も、雰囲気も、性格も。
これからどんどん龍聖君顔負けの男の子になって、モテモテで困るんじゃないかな?
私が願った通り、龍聖君に似てくれて良かった。
私達は、最高級レストランの広い個室で食事を始めた。
どれもこれも美味しそうで、目の前の料理にテンションが上がる。
にぎやかに交わされる会話、みんなの顔がとてもにこやかで……
龍音もすごく楽しそうだった。
この子はいつかバスケ部に入って、龍聖君みたいにコートの中を走り回るんだろうな。
ポジションは……どこになるのかな?
きっと、どこになっても龍音らしく頑張っていくだろう。
あの頃の私達みたいに、龍音もいつか、誰かを好きになる。
願わくば、私達のような回り道はしないように……してほしいな。
その時、龍聖君が私にそっと耳打ちしてきた。
誰にもわからないように、さりげなく。
「今夜は離さないよ」
まったく、龍聖君は私をドキドキさせる天才だ。
龍音はおじいちゃんと寝るって約束してるから、だから、今夜は2人きり。
龍聖君は、いったいどれくらい私をとろけさせてくれるのかな……
でも、「ホテル リベルテ」での熱い夜は、まだしばらくおあずけだよ。今はもう少しだけ、美味しい料理と会話を家族みんなで楽しんでいたいから。
私達の幸せな時間は、まだまだ続いてく。
こんな風に、ずっと、ずっと……永遠に――