テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
次に辿りついたのは、ジナオールという薬の販売で財を成したジナオール・マジナオール伯が治める街だった。皆生き生きとして空気も美味しく、それでいて他者の悪口を言うゴミもいない。前回の村とは大違いだった。ちなみにキレルはまだパンツ一丁である。パンイチの男に優しく出来る人間は臨界点突破した善良さをお持ちであろう。
「兄ちゃん! パンイチってどっかで流行ってるのかい?」
明るいおじさんが声をかけてくる。近くの露店で店を出しているようだ。とはいえ金もないので買い物はしない。
「追い剝ぎにあってこうなりました」
キレルは軽く会釈すると「では」と告げ歩き出すがとてつもなく強い力で肩を掴まれ一瞬粉砕しそうになる。キレルは何か悪い事をしたのかと恐る恐る振り返るが彼はとても良い笑顔だった。聖母の如き笑み。
「そりゃあ可哀想だ。なら仕方ねぇ! ジルベルト!」
「はい父さん!」
まるで瞬間移動したかのようにおじさんの真横に現れる少年。10代前半といったお年頃だろう。だが大分礼儀正しそうな雰囲気を出していて将来はイケメンになるのが確定しているお顔。
「この人に着ねぇ服あげれるか?」
「もちのろんりです!」
「おい待てありがとう」
キレルは秒速で持ってきたお古を半ば強制的に着せられた。有無を言わさぬ善意あっぱれである。
「……ちょっと小さい」
ズボンは短パンということでまだいいが、上はTシャツが臍だしになっているのが恥ずかしい。パンイチの方がいいかもと一瞬思った。だが間髪入れずにボロボロのコートを着せられた。本当にボロボロであちこち穴だらけだが臍は隠せそうで感謝する。
「悪いな、ジルベルトはまだガキだから兄ちゃんサイズのはねぇんだ」
「なんであげようと思ったのか理解できんがとりあえずありがとうございます」
おじさんの思考は全く読めなかったが善意には感謝するのがキレル。
「なぁあんた。もしかしてハンターか?」
「なんでそう思うんです?」
ハンターは痔士団と違い、特別見た目で分かるようなものではない。パンイチのキレルみたいなのもいれば、ブルジョワジーのような奴や仮装パーティーのような羽を身に着けたふんどしの変態もいる。
「ジルベルトの友達にジークってのがいるんだが、そっちに素っ裸の変態が行くかもしれないからその時は世話しろって」
「良い奴だなジーク」
彼はここまで読んでいたようだ。読めるほど終わっている道中であるなら何故言葉で忠告してくれなかったのだろう。彼はシャイのようです。
「あんた言霊使えるならよ。痔を直す方法とか知らねぇか?」
「風呂であっためればいいのでは」
適当ほざくキレル。実際ケツを温める事で痔が直りやすいのは事実だが、それは自然に発生する痔の場合だけだ。痔・エンド・モンスターによる痔はそう簡単には治癒しない。だからキレルは常にケツがかゆいし痛い。永遠の痔ではないので直るがすぐに新しい痔が誕生する。
「毎日風呂入ってるんだが、痔が治らねーんだ。毎日でっかくて固いのしてるのが原因なのかね」
「原因ですねぇ」
切れ痔は大抵固いぶっ放しによる影響が大きい。
「でもよぉ。一か月も治らねぇのっておかしくね」
「確かに。痔・エンド・モンスターは」
「この辺は痔士団の詰所があるから発生直後に狩ってくれるんだ」
「いいですねぇ。ん? 痔士団いるなら相談すればいいのでは」
痔士団には痔に詳しい人間が多数いる。彼らならチップ次第で有益な情報もくれるだろう。チップ次第で。
「門前払いさ。一般人は来るなだってよ」
「ひどいですねぇ」
他人事のように棒読みで共感するキレル。
「あ、そういやジナオールがありますよねこの街」
怒涛の善意に忘れていたが、この街にはジナオールという痔を治す薬がたくさんある筈だ。街の人間に流通させず一人金儲けというのは考えにくい。
「ジナオールは相応の対価を支払った奴だけ購入できるんだ」
嫌な予感がプンプンする言葉である。
「といいますと?」
「女なら身体で支払い、男は奴隷のような重労働で支払うんだ」
「……は?」
普段良い奴で通っているキレルにとっては腸煮えくりかえるほどの仕組みだ。言っている事が本当に行われているのであればただの犯罪である。警察は追い剝ぎにあった可哀想な人間ではなく屑を駆逐することに尽力すべき。
「ひどくないですかそれは。屑ですよね。皆を痔から守れる力がありながらそれを行使しないで自分の利益だけにって」
キレルは次はどこの痔・エンド・モンスターを誘導しようか考える。おじさんは悲しげな顔をのぞかせた。ジルベルトはどこかへ行ったと思ったがいた。遠くで女性を口説いているようだ。成功している。
「あぁ。だがこの街はジナオールの売り上げで成り立ってるから、俺達市民は何も言えねーんだ。情けねー話だがな」
「……」
何も言えなかった。キレルは無力な若人なのだ。
「マジ申し訳ないですが、俺に出来ることは無いですよ。痔・エンド・モンスター倒すならともかく領主ぶん殴って目を覚まさせるなんてことは」
痔・エンド・モンスターを複数体倒せという依頼なら報酬次第で受けても良かったが、これは人間を傷つけるための力ではない。
「分かってるさ。ただ力がありながら弱者を見捨てる屑にならない方が良いってだけだ」
「それってつまり暴力で解決してこいって言ってますよね」
彼はどうやら服やっただろ? だからお礼に領主ぶっつぶせと仰っているのだ。
「言ってないぞ。知人のハンターは村人に飢えから救ってもらい、そのお礼として痔・エンド・モンスターの脅威から守ってあげたなんてな。この街には痔士団がいるんだから」
「つまりそういうことですよね」
「どういうことだ?」
彼は間違いなく望んでいる。でも彼は知らん顔。彼は善意を押し付けてその分を返してもらおうとする屑なのだろうか。可能性はかなり高まっている。
「ハニーこっちは駄目だよ父さんがいるんだ」
ジルベルトが女性に引っ張られてこちらへ向かってきていた。声が別人。
「いいじゃんホテルはこっちの方が近いんだから~」
「おいジルベルト! 楽しむなら俺が見ていないところでしろといつも言ってるだろ!」
おじさんは息子がいかがわしいことをやりそうな状況を見ても平然としている。
「すみません父さん! そういうことだから! あっちから行こう!」
「も~! 仕方ないなぁ。その代わりいっぱいいいことしてね!」
「あぁもちろんだよハニー。今夜は寝かせないぜ」
「まだお昼だけどね!」
彼は一体何歳なのだろう。
「つーわけだ。ジナオールを一つ盗んできて欲しい」
「どういうわけ」