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キレルは気づいたらジナオール伯のプライベートルームという名の別荘の前にいた。警備の人間に睨まれている。
「何の御用で消火」
「消火はしてません」
「何の御用でしょうか」
「えっと……ジナオールってどこで手に入るかお聞きしたくて……」
「失せろゴミが」
「口悪いですね」
キレルは殴られて放り投げられた。大きなたんこぶがチャームポイントだと今後は言えそうだ。
「いてて……どんどん俺の目的から遠ざかってる気がするんだが……」
キレジーザマーンを探す旅のはずが、頭のおかしい人間に殴られる旅にシフトしている。これではまずい。一刻も早く軌道修正が必要だろう。
「悪いけど俺はこの街から消えさせていただくとしよう」
恨まれるだろうが無理難題を押し付ける方が悪い。
「何をしているの」
「?」
振り返ると痔士の女がいた。少しつり目だがショートヘアの美人である。だが長く話すのは危険だ。早々に立ち去ることが重要。
「なにも」
「ここはジナオール伯のプライベートルームエリアの一角。見つかったら殺されるわよ」
「俺生きてるの奇跡なのか」
「え?」
「なんでもないです。今すぐ出ます」
キレルは頭を下げると一目散に逃げようとして引っ張られた。
「いっ!」
「黙りなさい。そっち行ったら捕まるわよ。帰るならあっちからにしなさい」
彼女は良い人のようだ。もちろん善意の押しつけ再来や実は嵌めるつもりという可能性は大いに存在するのだが。
「出れた」
キレルは無事街に戻ってきた。特に理由も聞かずこちらの事情を察してもくれたし、彼女は本当に良い人だったようだ。街の外に出たかったのに中心街まで連れて来てもらったという点では凡ミスだが比較的良い気分である。
「じゃあ私は巡回に戻るから」
「ありがとうございました」
「何か困ったら詰所に来て」
「はい」
彼女はさらっと手を上げると美しい足取りで去っていった。キレル以外なら惚れるだろう。だがこのキレル、彼女を恨んでいる。
「なんで中心街まで案内するわ。なんだよふざけるな」
この恨みは長く尾を引くだろう。なぜならこの街は迷路のように入り組んでおり外へ出るのがかなり困難だからだ。彼女はそれを知っていながらここへ連れてきた確信犯である。
「どうやって出るか」
キレルはおじさん達にである前に街を出なければならないため、近くの街案内看板を見ることにする。後悔した。子供の手書きで陸な情報がない。
「……妖艶なる痔の精よ」
「使わない方がいいわ」
「? ……あぁどうも」
さっきの痔士がいた。殴りに来たのだろうか。
「この街ではジセキはいいけど言霊は認められてないの。使えば処刑よ」
「野蛮人の街ですね」
誰も殺してないのに処刑とはいつの時代の話だろう。今は至る所で人権運動がお盛んな時代だ。
「街から出たいの?」
彼女は何故戻ってきたのかはよく分からないものの、事情を察してくれたようだ。
「はい。すぐにでも」
「いいわ。案内してあげ」
「ジーナ! 探したよ。スリーサムしようって言ったのに」
ジルベルトがいた。呼吸の荒いさっきの女性と腕を組んでいる。着衣が乱れているのは気のせいだ。
「ジェシカ!? ジルベルト!? ちょっと困るよ今は仕事中なのに」
ジーナと呼ばれた痔士は赤面して後退した。彼女は普通ではないようだ。
「いいじゃないか。早く楽しもうってどうも。何かお困りですか?」
キレルに気づいたジルベルトが猫かぶりモードになる。明らかにバレてるのに猫かぶるのはどういう意図だろう。
「この人に街を案内してもらおうと思って」
外へ行きたいと言えばおじさんまで伝わるリスクがある。キレルは少し言葉を変えて返した。ジルベルトは不満げに言う。
「別の人でもいいのではないでしょうか。ジーナは僕の女なので、横取りというのはいただけませんよ」
「どういう思考をしたらそのような結論に至るのでしょうか」
ジルベルトは混乱している様子。本性をバレたいのかバレたくないのか分からない。
「ジルベルト。私はこの方を送り届けねばならない。だから今はあんっ!」
何か聞こえた。
「いいだろジーナ。楽しみたくないのかい?」
「そ……それはんんっ! そう……だけど……あぁん……」
これ以上聞いていたら頭がどうにかなりそうだったキレル。もう出し惜しみはしていられない。
「妖艶なる痔の精よ羽ばたき恩」
「駄目です!」
「ぐほうっ!?」
ジーナにビンタされるキレル。切れ痔なのに唇も切れた。
「本当に使っては駄目だ。あなたはある程度んん、強いようだがあん、ジナオール伯の力をんっ、みくびってはいけないんんっ! はぁ……はぁ……」
「……」
心配してくれるのは有難いが顔と言葉の隙間が感謝させてくれない。
「なぁジーナ。早くいこう」
ジルベルトの脳内は煩悩で溢れかえっている。
「駄目だジルベルト。今は駄目なんだ」
ジーナはどうにか理性で快楽に抗おうとする。だがジルベルトはそれを崩すべく畳みかける。
「俺と楽しみたくないのか? 痔を見せあおうって約束しただろ?」
「そ、そうなんだが」
「帰っていいですか」
「父さんはしつこいですよ」
ジルベルトがキレルに顔を向ける。動きが俊敏過ぎて軽いホラーだったのは忘れよう。
「逃げれば恐らくどこまでも追ってきます」
「怖い」
キレルは人を傷つけるために言霊を使おうと決意しかけた。だが仮に追ってくるのであればやることになるだろう。
「ジルベルト。お父様と彼は何か約束があるのか?」
ジーナが興味持ったように問うと、ジルベルトはセクシーな表情で頷いた。
「あぁ。彼はジナオールを盗む契約を結んだんだ」
「契約なんて結んでないよ」
彼は何を言っているのだろうか。キレルは過去を何度思い返してみても彼の過去とは異なった記憶にたどり着く。
「だからプライベートルームエリアにいたのかあなたは……。恐ろしい人だ……」
ジーナは呆れた顔をしている。無理難題押し付けた愛人の父に言ってほしいものだ。
「でも俺には出来ないんですみません。ほんと悪いんですけど、帰ります」
「父さんはどんな手を使ってでも約束を違える人間を見つけ出しますよ」
「とても恐ろしゅうございます」
だがこのキレル、逃げる気満々だ。
「あなた名前は」
「ケーツです」
キレルの名前は出さない方がいいだろう。
「ケーツさん。私としては手助けしてやりたいのだが……彼のお父様となると協力が少し厳しくてな」
「では失礼いたします」
「待て!」
「ぐはっ!?」
キレルはまたしてもビンタされた。
「な……なんですか……」
たんこぶの他に頬の腫れがプラスされてしまった。
「約束は守るべきだ。それが痔士のありかたではないか?」
ジーナはキレルを諭すかのように優しく問いかけた。意味不明である。
「俺はハンターなので違います」
痔士団には様々な規則があると聞くが、フリーのハンターにはそんなものはない。この時代にあえてハンターを選ぶ人間は、他者に縛られたくないからという理由の人間も多いぐらいだ。
「守るべきだ! それが人間として必要なことだ!」
「いやそう言われても」
「ならば決闘だ!」
「は……?」
この街にもまともな人間はいないのかもしれない。