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第六話 君だけの景色
「誰かの大切な場所を知ることは、その人の心の一部に触れることなのかもしれない。」
五月。
桜の季節が終わり、
街には少しずつ初夏の色が混ざり始めていた。
教室の窓から入る風も、四月より少し暖かい。
新しいクラスが始まって一ヶ月。
いつの間にか、
四人でいることが当たり前になっていた。
昼休みになれば屋上へ向かう。
放課後になれば、くだらない話をしながら帰る。
そんな毎日。
でも、
湊には一つだけ気になっていることがあった。
――紬が教えてくれると言った場所。
あれから何度か話題に出そうと思った。
でも、聞けなかった。
その場所が、
紬にとって大切なものだと分かっていたから。
無理に聞くものではない気がした。
*
土曜日。
駅前で待ち合わせをした。
今日は二人だけ。
蓮と美桜には「用事がある」とだけ伝えた。
「お待たせ。」
振り返ると、紬が立っていた。
いつもの制服ではない。
白いシャツに淡い色のスカート。
春の光によく似合っていた。
「待った?」
「いや。」
「よかった。」
紬は少し安心したように笑う。
その笑顔を見て、湊は思った。
最近、紬が笑う瞬間を見つけるのが
好きになっている。
そんなことに気づいて、少し戸惑った。
*
二人は駅から少し離れた道を歩いた。
大通りを抜ける。
住宅街を抜ける。
そして、細い坂道を上っていく。
「こっち。」
紬が先を歩く。
いつも教室で見る紬とは少し違った。
どこか懐かしそうな顔をしている。
#異世界転移
花月夜れん
1,957
200
ユキ
85
47
「小さい頃ね。」
歩きながら紬が話し始めた。
「よくここに来てたの。」
「一人で?」
「ううん。」
少し間が空く。
「お父さんと。」
湊は何も言わなかった。
紬は続ける。
「忙しい人だったけど、休みの日だけは連れてきてくれた。」
「ここから見る景色が好きだったんだって。」
坂道の先に、小さな公園が見えてきた。
古いベンチ。
大きな木。
そして、その向こうに広がる街。
「ここ。」
紬が立ち止まる。
湊は言葉を失った。
綺麗だった。
でも、桜並木のような派手さはない。
ただ、街を見下ろすだけの場所。
それなのに、なぜか心が落ち着く。
「派手じゃないでしょ?」
紬が笑う。
「でも、好きなんだ。」
湊はゆっくり首を振った。
「好き。」
その答えに、紬が少し驚く。
「本当に?」
「うん。」
「なんで?」
湊は景色を見る。
そして言った。
「紬が大切にしてる理由が、少し分かる気がするから。」
一瞬、時間が止まったようだった。
紬は目を伏せる。
「……そっか。」
小さく笑う。
その表情は、どこか嬉しそうだった。
*
ベンチに座り、二人で景色を眺める。
風が吹く。
木の葉が揺れる。
静かな時間。
「神崎くん。」
「ん?」
「写真、撮らないの?」
湊はカメラを見る。
今日は持ってきていた。
でも、すぐには構えなかった。
「撮りたい。」
「でも?」
「この景色を、ちゃんと見てから撮りたい。」
紬は笑った。
「やっぱり変わってる。」
「そうかな。」
「うん。」
「でも、そういうところ好き。」
その言葉に、紬自身が一瞬固まった。
「あ……。」
言ってから気づいたように顔を赤くする。
「違う、その……。」
湊もどう反応していいか分からない。
静かな空気。
でも、不思議と嫌ではなかった。
やがて紬が小さく笑う。
「今の忘れて。」
「……無理。」
思わず答える。
紬は驚いて、それから笑った。
「神崎くん、たまに意外なこと言うね。」
湊も少し笑った。
その瞬間。
夕方の光が二人を包む。
湊はカメラを構えた。
今度は迷わなかった。
カシャッ。
残したのは景色だけじゃない。
その場所で笑う紬。
そして、その隣にいる自分。
写真を確認すると、
そこには穏やかな時間が写っていた。
📷 Photo.006『君だけの景色』
撮影日:5月23日
誰にも教えなかった場所。
そこに初めて、
君の笑顔が残った。
コメント
4件
ほんとですか!? ならよかったです! これからもできるときに返していきますねー! あ!ほんとですかー! 2人は今後どうなるのかすごくワクワクしますよねー! 話が進めば進むほど距離変わって行くかもです🤭 湊も紬にキュンってしてたかもですね!
第6話、めっちゃ良かった……! 紬の大切な場所に湊が寄り添う感じ、静かで優しくてじんわり来たわ。 特に「景色をちゃんと見てから撮りたい」って湊の感性、めちゃくちゃ刺さる。 「そういうところ好き」ってうっかり口に出しちゃう紬、可愛すぎかよ。夕方の光の中で笑う姿、写真に残したくなる気持ち分かる。 続きが気になる……この二人の距離、どう変わっていくんだろ🔥