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私には、好きな人がいる。
部活の先輩だ。
彼は私にとって、ヒーローみたいな存在。
人を助ける優しい人なんだ。
放課後の部活の時間、体育館は床と靴の擦れる音がこだましていた。
男子が掛け声をしてランニングしている。
マネージャーとして、部員全員のボトルにスポーツドリンクを入れる。
部長と私の好きな人は、スポーツドリンクが飲めないから、キンキンに冷えた
お茶を入れた。
ランニングが終わって、ストレッチに入った。
私はボールケースからボールを取り出して、部員に渡していった。
「ありがとう。」
部員はみんなこれが日常だから、お礼は言わない。
でも唯一、私の好きな人はお礼を言ってくれるのだ。
「莉奈ちゃん!こっち手伝ってもらってもいい?」
バスケ部マネージャーの部長、明香里(あかり)先輩が私に声をかけた。
「はい!今行きます!」
私は、先輩の元へ駆け足で行った。
「明日の大会、スコア書いてほしいんだけど…スコアの紙の補充お願いね。」
「はい!」
走って、スコアの紙を取りに行った。
確か、この辺…
あ、棚の上だ!
近くにあった台に乗って、背伸びをした。
もう、ちょっと……届いた‼
台から降りた瞬間、上でガシャンッと音がした。
上からダンボールが降ってきた。
「え…」
スローモーションに見えてきて、もう逃げてもダメだと思って、目を瞑った。
ガシャガシャッとぶつかる音がした。
あれ、痛く、ない…
ゆっくり目を開けると、目の前に茶色のフワフワの髪があった。
「大山先輩っ…」
私を庇ったのは、私の好きな人…大山美月先輩だった。
「あはは…危ないなぁー…」
その声は元気がなくて、心配になった。
「す、すいませんっ…‼」
「ケガ、ない?」
少し涙声な大山先輩。
「先輩、ケガ…してますか…?」
もしケガしてたらどうしよう、明日大会なのに…
「ケガは、ないよ。」
そう言いながら顔を上げた大山先輩は、涙目だった。
「泣いてるじゃないですか‼どこ痛いですか!?」
「ケガは本当にないんだよ…あぁ、痛かったぁ〜…」
聞いたことがある。
大山先輩は、痛みに弱いらしい。
かっこいい見た目なのに、転ぶと泣いてしまうんだと。
「本当に、申し訳ございませんっ‼」
できるだけ深く、お辞儀をした。
頭にポンッと大きな手が置かれた。
「大丈夫だよ。もう痛くないし。」
涙をゴシゴシと拭いて「おし‼俺は部活戻るな。」と張り切っていた。
「あ、無理すんなよ?」
と言って、私の頭をガシガシと荒く撫でた。
大山先輩に、撫でられた…嬉しい…
「莉奈ちゃん!?すごい音がしたけど大丈夫!?」
明香里先輩が、慌てたように駆け寄ってきた。
「はい!大丈夫です…‼」
「ごめんねぇ、無理させちゃって…」
「いえ‼大丈夫ですよ‼」
明香里先輩は「良かったぁ…」と安堵の息を吐いていた。
バスケ部も無事終わって、片付けをしている時だった。
「わ‼危ないっ‼‼‼」
そのハッキリとした声が体育館内に響き渡った。
私が後ろを振り向くと、他のマネージャーの萌音ちゃん目掛けてボールが飛ん
できていた。
萌音ちゃんは、同級生で、バスケ部マネージャーをはじめてから仲良くなっ
た。
「萌音ちゃんっ‼‼‼」
私は、反射的に体が動いていた。
私の視界の端に映った大山先輩の姿。
大山先輩は、私たちの方を見て駆け寄ってきていた。
私も、大山先輩みたいに…‼‼
私は、萌音ちゃんとボールの間に入った。
次の瞬間、ドンッと大きな音と共に、私には大きな衝撃が走った。
誰かの悲鳴、男子が叫ぶ声が聞こえた。
意識は朦朧としていたけど、失ってはいなかった。
私の視界に大山先輩の顔が映って、私の意識は途絶えた。
……なんか、体が重い…
ゆっくりと目を開けると、驚きの光景があった。
多分ここは保健室だろう。
私の体の上には、大山先輩がまたがって座っていた。
「え…!?」
「うわぁぁああ!!!!」
大山先輩は飛び上がって、ベッドの周りに引いてあるカーテンの外に行った。
起き上がると、右腕と頭痛みが走った。
でも、それよりも大山先輩がなんなのか気になった。
「お、大山先輩…??」
ドキドキする。
すごく近くに大山先輩の顔があった。
しばらくして、カーテンが少し開いた。
カーテンの隙間からは、大山先輩が覗いている。
「どうしたんですか?」
「…ごめんね。」
すごく低い声。
私は焦って「何がですか!?」と大きめの声を上げた。
カーテンの隙間から見えている大山先輩の目から、ポロポロと涙が溢れている
ことに気が付いた。
「俺、莉奈ちゃんのこと、助けて、あげられなかった…」
大山先輩は、袖でゴシゴシと涙を拭いている。
「俺、部活の仲間たち、に怒られた…」
私は「え…」と声を漏らした。
「俺が、莉奈ちゃんのこと、守れなかった、から…」
俯いて「うぅう…」と唸りながら、大山先輩はしゃがみ込んだ。
私は感謝の気持ちや罪悪感もなく、ただ怒りだけがあった。
私は、ベッドから飛び降りた。
「ちょっと、莉奈ちゃん!?」
私は痛みをこらえて、体育館に走って向かった。
「ちょっ…莉奈ちゃん‼」
大好きな大山先輩に呼ばれたって、私の足は止まらない。
ガシャン‼と体育館の扉を開いた。
もちろん、みんながこっちを向く。
「あれ?莉奈ちゃん!?大丈夫!?」
「なんで莉奈ちゃんがここにいるんだよ‼美月はどうした!!」
私を心配する、明香里先輩の声。
大山先輩に怒っている部員。
「なんでっ、私がここにいるだけで大山先輩をなにか言うんですか?」
「美月が莉奈ちゃんを助けなかったから‼」
その言葉で私の怒りは爆発した。
「私を助けなかっただけで、なんで大山先輩を責めるんですか!?大山先輩はなに
もしてないじゃないですか!?」
部員の1人佐藤先輩は「助けなかったからだよ‼」と叫んだ。
「助けないだけでなんで…たまたまボールが飛んできて、たまたま私に当たっただけですよね…?なのに…」
佐藤先輩が口を開いた。
「あいつはいつも、誰でも助けるだろ?だから…」
佐藤先輩って、こんなに分からずやだったっけ…?
佐藤先輩の言葉は、全く頭に入って来なかった。
「大山先輩は、確かにヒーローみたいです…」
「だろ?だから…」
「だから、私達を助けてくれる大山先輩は、誰が助けるんですか…!?」
大山先輩は、ヒーローだ。
でも、泣き虫なんだ。
泣き虫ヒーロー。
先輩は誰も喋り出さなくて、私を見ているだけだった。
タッタッタッと後ろから、走ってくる音がした。
振り向くと、誰かが私に抱きついた。
「助けてくれて、ありがとうっ…」
その声は、紛れもなく私の大好きな大山先輩だ。
「っ…」
かぁぁあっと顔が赤くなる。
「助けてくれて、ありがとう…」
何度も何度も「助けてくれて、ありがとう」と繰り返していた。
それから、先輩たちは仲直りした。
その勢いで、大会の予選を勝ち抜いた。
「ね、ねぇ…莉奈ちゃん…」
「どうしたんですか?」
大山先輩が、隣に並んできた。
「あの、さ…えぇっと…」
なにか言いづらそう…
「あっちで話しましょう?」
もしかしたら、2人きりの方が話しやすいかな…
で、でも…2人きりかぁ…
「そうだね、あっちで話そう‼」
私の手を握って、誰もいない方へ走っていった。
「あのさ、話があるんだけど…俺、莉奈ちゃんのことが好き、なんだ…」
真っ赤な顔で私を見つめながらだったから、私も真っ赤になりそうだった。
といか、真っ赤だと思う。
「だからっ…付き合って欲しいんだっ‼‼」
嬉しい…思いきって言ってくれたんだよね…
私、まだ心の準備できてないや…
「嬉しい、ありがとう…‼」
でも、先輩をちょっとだけ遊びたいな。
「でも私、まだ心の準備できてないからさ、明日の決勝、優勝できたら付き合
ってあげる…‼」
そういうと先輩は、心配をしたような顔をした。
「え…?無理してない?」
優しいなぁ、やっぱり優しい。
「無理してないです‼」
満面の笑みで、先輩を安心させるように言った。
「分かったっ‼明日、絶対勝つね‼」
まさか…こんなことある…?
今、大会の決勝。
私達は、決勝戦まで行くことができた。
そして、今の点差は相手が12点、私達のチームが48点。
私達の点がほとんど、大山先輩が決めている点だ。
すごい、すごい…
あと1分…
もう勝ったも同然だ。
この点差じゃ、相手は追いつくことができない。
私、大山先輩と付き合うことになるの…?
大丈夫かな…迷惑じゃないかな…
ピーッとタイマーの時間がきれる音がした。
その瞬間、大山先輩が私を見て、指ハートをつくったのだ。
ドキドキ…と心臓の音が聞こえる。
「莉奈ちゃん…‼」
大山先輩の嬉しそうな声が聞こえた。
「ねぇ、返事は?」
そんなの、決まってるよ。
私はコクッと頷いて、大山先輩に抱きついた。
泣き虫は先輩の良い所。
ギューッと強く、強く抱きしめた。