テラーノベル
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空中ブランコのテントへ向かう道は、さっきまでと違って妙に静かだった。
風も音もないのに、天井の幕だけがゆっくり揺れている。
「……絶対なんか出るやつやん。
こっちの心読まんといてほしいわ……」
そうグチりながら幕をくぐると——
中は広い空間になっていて、
天井からぶら下がる巨大なブランコが、左右にゆっくりと揺れていた。
誰も乗っていないのに。
「……出た。物理法則ガン無視やん。」
ブランコの下には、砂地に足跡がひとつ。
子供サイズの靴跡が、ひとり分だけ。
そして、その足跡の隣に置かれていたのは……
古いノート。
「え、ノート?なんやこれ……」
めくると、
クレヨンみたいな字で走り書きがしてある。
《今日の練習もたっつんと一緒!
今日の俺、ちょっと飛べる気がする!
いつか絶対、二人で一番上のブランコ乗るんだ!》
一瞬、呼吸が止まった。
俺の名前。
幼い子どものような字。
一緒に練習——?
「……誰や……俺と一緒に練習してた言う“俺”って……」
胸がチリチリ痛む。
知らない記憶なのに、読んだ瞬間だけ“懐かしい”って感覚が頭の奥で光る。
その時。
ギィ……ッ
ブランコが大きく揺れ始めた。
「おわっ!?ちょ、待て待て待て!!」
勝手に動くブランコは、天井スレスレまで勢いをつけて、
そこから勢いよく下へ——
バンッ!
床に置いてあるスイッチを叩いた。
すると、テント中央の照明がすべて落ちて、
一本のスポットライトだけが天井を照らす。
そこには——
二人乗り用のブランコ。
普通のサーカスにはないタイプだ。
座席の片方には、
誰かの名前が削り取られたプレート。
そしてもう片方には、はっきりと見える。
《TATTUN》
「……俺の席?
じゃあ、こっちは……」
削り取られたプレートに触れた瞬間、
頭の奥で、映像みたいな何かが弾けた。
——笑い声
——空を飛ぶみたいに跳ねる感覚
——“たっつん、いくで!!”という声
——俺の隣で笑う誰か
でも、誰の顔かだけが分からない。
黒いモザイクみたいに消えてしまう。
「……くっそ、思い出されへん……」
その時。
頭上から、紙切れがひらりと落ちてきた。
二人乗りブランコの金具に挟まっていたみたいだ。
拾って読む。
《たっつん。
もし忘れてしまってても大丈夫。
俺はずっと、上で待ってるから。
“あの場所”に来てくれたら、
きっと思い出せるよ。》
“あの場所”ってどこや。
その瞬間——
ブランコの鎖が突然、俺の腕をつかむみたいに巻きついた。
「おわあ!?ちょちょちょ待て!?
俺ブランコ乗る流れになってる!?!?いや準備も心構えもまだやって!!」
叫んでも無駄やった。
ブランコは勝手に俺を引き上げて、天井近くまで運んでいく。
そして、照明がド派手に点灯した。
空中に浮かぶ看板には、ひとつの言葉。
《次の場所:鏡の迷宮》
鏡の迷宮。
サーカスの奥にある、いちばん不穏なアトラクション。
カードの端には、小さく書かれていた。
《あそこに“相棒の正体”が映る》
……相棒の顔が、
鏡の中に映るってことか?
「……行かなあかんみたいやな。
こわいけど、気になるし……
なんか、俺の記憶だけちゃう気もするし。」
ブランコは揺れながら、ゆっくりと地上へ 下ろしてくれた。
足が地面に着くと同時に、
鏡の迷宮へ続く赤いカーテンが、
ひとりでにスッと開いた。
呼ばれてるみたいだ。
「よし……次は鏡の迷宮か。
かかってこいや、サーカス!」
俺は深呼吸して、
光だけがうっすら漏れる迷宮の入り口へ進んだ。
コメント
1件
今回も楽しいお話ありがとうございました!!ついに次回相棒さん?の正体の手がかりがあるのかな?続き楽しみにしてます!頑張ってください!