テラーノベル
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鏡の迷宮の入り口は、ただの細長いテントのはずなのに、中に一歩入った瞬間、空気が変わった。
ひんやりしてて、
なんだか“音が吸い込まれていく”みたいな感覚が肌にまとわりつく。
「……うわ、めっちゃ嫌な静けさ。
ホラー映画で絶対主役が迷い込んだらあかん場所やん。」
でも、もう戻れない 。
背後のカーテンは、入った瞬間にスッ……と閉まってしまった。
前を見ると、壁一面に鏡。
無限に続いてるみたいで、奥が見えない。
「よし……とりあえず、迷わんように左手ルールで進むか。」
壁に手を添えた瞬間、
鏡の中の“俺”が、ほんの少しだけ動くのが遅れた。
「……は???」
鏡の中の俺は、ニッと笑って
ほんの刹那だけ“違う表情” をした。
鳥肌が走る。
「ちょ、やめてや……演出にしても怖すぎんで……?」
汗を拭いながら先に進む。
鏡は何枚もあって、そのうちのひとつが妙に曇っていた。
曇ってる鏡だけ、
反射がぼんやりとしていて見えづらい。
手で拭くと、
文字が浮かび上がってきた。
《たっつん、気づいてる?
キミと“俺”は、ずっと一緒だったよ》
ゾクリ。
「だ、誰のメッセージやねん……!」
曇りが完全に取れた瞬間、
鏡に映ってるのは“2人の影”だった。
ひとりは俺。
もうひとりは、身長がほぼ同じくらいで——
でも顔だけが黒い影になってる。
「……お前、誰やねん。」
思わず鏡に手を伸ばすと、
影も俺の手に合わせるように手を伸ばしてきた。
でも、触れる直前で——
パリン!
鏡が割れた。
ガラスが床に落ちる音が響く。
その破片に、ふと目がいく。
割れた破片ひとつひとつに、
“俺とその影”が一緒に写ってる。
空気が変わった。
迷宮の奥から、軽い足音が聞こえる。
——タタン、タタン。
——サーカスのステップみたいなリズム。
「……待てよ。
このリズム……なんか聞き覚えある。」
胸の奥がざわっとする。
その瞬間、目の前の鏡が音もなくスッと開いて、
奥に小さな部屋が現れた。
部屋の中央に置かれた台座の上。
そこにあったのは——
赤と青の二人組ピエロの絵。
幼いタッチで描かれていて、
右側の青いピエロの横にはこう書かれている。
《たっつん》
そして左側、赤いピエロの横には……
名前が塗りつぶされて、読めなかった。
胸がギュッと締め付けられた。
「……なんで俺、こんなに……気になるんやろ……」
絵を見つめていたら、
背後の鏡がゆっくりと歪みだす。
鏡の中に映った“影の俺”が、
さっきと違う表情を浮かべていた。
悲しそうな、
寂しそうな、
助けを求めるみたいな顔。
そして、鏡の中の影が口を動かした。
——『おぼえて』
声は聞こえへんのに、言葉だけがはっきり伝わる。
「……思い出したいのは、俺もや。」
思わず鏡に近づいた瞬間。
影が動いた。
鏡の中で、指をさしてくる。
指さす先は、
迷宮のいちばん奥——
真っ黒なカーテンの向こう。
影の口がもう一度動く。
——『さいごの場所』
「……最後の場所?
相棒の正体が、あそこにおるってことか?」
息が止まりそうなのに、
足は自然とそっちへ向かっていた。
黒いカーテンに手をかけた瞬間、
背後の鏡全部に同時に映った影が、
同じ動きで手を伸ばす。
——『いかないで』
たったそれだけで、
胸の奥のずっと奥がキュッと痛んだ。
「……行く。
行かなアカン気がする。
お前が誰か、はっきりさせな。」
カーテンをパッと開く。
その先には——
サーカスの中心へ向かう細い通路。
頭上に吊られた小さな看板にはこう書かれていた。
《FINAL:大舞台ステージ》
《相棒が待っています》
照明がひとつだけ灯っている。
まるで“さぁ来い”って言われてるみたいだ。
「……よし。
覚悟決めるか。」
俺はステージへ向けて、一歩踏み出した。
コメント
1件
今回も楽しいお話ありがとうございました!!ついに相棒さんの正体が分かる!!たっつんが忘れた理由も気になります!!続き楽しみにしてます!!頑張ってください!