テラーノベル
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リハ前の楽屋のソファで隣り合って座る仁人に、携帯の画面を向けた。
「仁人見て。お酒貰ったの。桃のやつ」
「……桃?」
俯いて少し寝かけていた仁人がぴくりと反応し、向けられた画面をじっと見つめる。先日ドラマの撮影中にスタッフさんから頂いた、桃をふんだんに使ったお酒が映し出されていた。
酒瓶のラベルに書かれた小さい文字を目で追いながら、少し目を輝かせた仁人がパッと俺の方へ向き直る。
「美味しそう」
「そ。気になる?」
「……気になるけど、俺が貰っていいの?勇斗が貰ったやつなのに」
「じゃあ、さ」
ーーー今日、うち来る?
俺の前だけで酔ってよ。
「どう?お酒美味しい?」
「これ!めっちゃ桃!果肉!すごいっ!」
「目ガン開くとほんと目ん玉落ちちゃいそうだねぇ、仁ちゃん。喜んでくれてよかったでーす」
「美味しい!勇斗、もう一杯!」
「はいはい、待ってな」
空になったグラスを持ってキッチンの方へと向かいながら、ソファで嬉しそうに笑っている仁人を横目で見ていた。
飲みすぎはよくないので、酒瓶はキッチンで管理し、仁人が自分のタイミングで注げないようにした。ソファで一人酒を待つ仁人は膝を抱えて左右に揺れながら俺の帰りを待っていた。
ロックでいいと言ってきた仁人に対して、俺は無言で炭酸を入れて割った。一瞬むっとした顔をされたが、明日に残るといけないからと説明すると、それもそうかとすぐに納得した。
アルコールの影響なのか、いつもよりツンの要素が抜けて素直になった仁人が可愛らしい。
ほんのりと赤くなった頬でデパ地下で買った惣菜をつまむ仁人に、ふっと笑みを溢しながら、また注いであげたグラスを渡す。両手で受け取り、仁人はふにゃりと笑う。
「もう酔ったの、仁ちゃん」
「すぐ赤くなっちゃうってだけ。全然大丈夫。これ美味しいからゴクゴク飲んじゃう」
「案外度数あるから程々にね。ちゃんと油物も食べなさい」
「ふっ、勇斗は俺のお母さんかよ」
「こんな大きい子ども育てた覚えはありませーん」
いつもの軽口にも仁人はきゃっきゃと大袈裟に笑う。本人は自覚してないだろうが、声量も少し大きくなり始めている。
赤くなった頬に触れるとあつい。急に伸びてきた俺の手に驚くことはなく、ぱちぱちと瞬きするだけの仁人。警戒心も薄れてきたらしい。
「ゆっくり飲みなね」
「んー、わかってる」
冷たい俺の手に一瞬だけ擦り寄って、また笑う。
どうせ意識もしてないであろう仁人のあざとい行動。試されているのは俺なんだろうな、なんて。仁人からおかわりを要求され酒を注ぎながら、ぼんやり遠くで思った。
テレビを見ながら他愛もない話をして、仁人はこくりこくりと酒を飲む。俺はお茶しか飲まなかった。理由は単純で、素面のまま酒に酔っていく仁人を眺めていたかったから。昔した酒の席での失態を引きずっている仁人はあまり人前で酒を飲みたがらないので、貴重なこの瞬間をちゃんと記憶していたいのだ。
案の定、三十分もしないうちに、少し瞼が落ち始めてきた。目を擦りながらも、その手に持ったグラスは離す気はないらしい。
「眠い?大丈夫?」
「ねむ、いというか……んー」
「疲れてたんでしょ。別に無理して起きとかなくてもいいのに」
「無理じゃなくて……」
もにょもにょとずっと煮え切らない返事をする仁人に痺れを切らし、身体を乗り出して仁人の顔を覗き込んだ。
「勇斗が居るのに……寝たら、もったいない……」
誰だ、この男は。きゅるきゅるんって感じの効果音が聞こえてきそうだ。仁人の纏っていた空気感が変わり、急にあまあまな空間になってしまった。
ソファの上で三角座りしながら、大事そうにグラスを抱えて縮こまる。そしてこの発言。
あぁこわいこわい。この男の無自覚な行動に全て反応してしまいそうな自分も、こわい。
「最近俺と会えてなかったから?」
「そう、かな……そうかも。勇斗、ドラマの撮影もあるし……ずっと、顔合わせてなかった気がする」
「そうねー。俺もできるだけ時間つくるようにしてるけど、正直なかなか難しい。ごめんね」
「ちがう。謝ってほしい、んじゃない……。俺も、ばたばたしてた。だから……んん……」
仁人から感じ取る、何かのサイン。あぁ、これは多分。
「……さびしかった?」
一瞬視線を泳がせて、仁人は小さく頷いた。
ほら、当たりだ。一緒にいる時間が長い分、なんとなく言葉にせずとも仁人の伝えたいことが分かる瞬間がある。ただ、それを仁人がちゃんと俺に伝えてくれることは稀なのだ。
だから俺が仁人の感情を拾ってあげないと。もっと、俺の前では素直になっていいと教えてあげたい。
「ありがと。俺も、さびしかった」
「……いっしょ?」
「そう、俺も仁人とおんなじ気持ちだった。もっと喋りたいなー、仁人と一緒に居る時間ほしいなーってずっと思ってた」
伏目がちだった瞳が、少しきらりと輝いて見えた。そして、ふにゃりと柔らかく笑う。
「うれしい、はやと」
愛おしいな、甘やかしたいなって、そればかりが頭を埋める。
俺は仁人が持っていたグラスをテーブルに置いた。不思議そうな顔でこちらを見つめてくる仁人に向かって腕を広げて、微笑みかけた。
「こっちおいで」
ぱちんぱちんと大きく瞬きして、少し躊躇いがちに俺の首に腕を回した。そんな仁人の体温を感じたくて、ぎゅうっと抱き寄せながら膝の上に仁人を乗せた。
仁人は赤ら顔で俺を見下ろして、ほぅっと息を吐いた。その頬に触れるとまた猫のように擦り寄ってくる。
「ふはっ。仁人、顔あっちい」
「勇斗の手が冷たいだけ」
「ほんとに?」
「うそ。ちょっとあつい」
「なあんで嘘ついたの。すぐバレるじゃん」
「……おれ照れてない、もん」
「顔赤いのはお酒のせい?」
「そう」
「そっかあ。酔っ払いじんちゃんだ」
「ちょっとだけ」
「うん、ちょっとだけね」
まるで大きい子どもだ。じゃあ、俺がお母さん?さっきそんな会話した気がするけど。
「……あつい」
何気なく言った仁人の一言。じっと見つめてくるくりくりの大きな瞳。
また、サインを出している。
「シャツ脱ぎたい?」
触れてほしい、って……きっとそう思ってる。やっぱり仁人は頷いた。
するりとシャツと肌の隙間に手を差し入れる。少し汗ばんだ肌を手のひらいっぱいに感じて、俺の方も体温が上がる。
「ほんとだ。あつい」
「ん……はやとの手、きもちい」
「冷たいから?」
「つめ、たい……けど、あつい……」
「捲ってみる?」
「んう?……っ、ひゃ」
差し入れた両手を上げると、一緒についてくるシャツの裾。胸元が見えるまで肌が顕になった仁人が、外気温の冷たさに可愛らしい声をあげた。
「持っててね」
言われるがまま裾を両手で持って、俺に向かって肌を晒す仁人の姿が……いやらしくて仕方ない。
薄くピンク色に染まった胸の先端が目の前にあって。少しずつ硬くなり始めたそこへ、指先でピンっと触れる。
「んひっ、?」
「やらしいね、じんちゃんの乳首」
「ぅ、あ……っん」
「息吹きかけるだけで感じる?」
「ちっがぁ……」
「また嘘?こんなに硬くしてるのに」
「ひゃあっ、ぁ、ぅ……」
震える指は律儀にシャツを握ったまま、両方を指先でくりくりと弄ってやる。はあっと熱っぽい吐息を溢しながら、素直にびくびく跳ねる仁人の腰。
あーやばい。勃ちそう。仁人のお尻がそこにジャストフィットしている。
ぽやぽやした顔で俺を見下ろす仁人に、少し口角を上げて見上げる。
「腰揺れてんね」
「う?んっ、や……!」
少し下から突き上げてやれば、ぼっとさらに赤くなる顔。
「想像した?じんちゃん、俺のこれ好きだもんね」
「ぅあ……っ」
「嘘つき仁人はイヤだなぁ。俺、素直な仁人が一番好きかも」
「えっ……、ん、はゃ、と……?」
「なあに?おしえて?」
持っていたシャツから手を離して、泣きそうな顔で俺に縋る仁人。自分の中の支配欲が暴れ出してしまいそうなところを、ぐっと我慢する。
「……ん?」
はくはくと小さい口を開けたり閉めたりしているのを見ながら、辛抱強く俺は待つ。そして仁人は漸く声を出した。
「はや、と……お、おれ……」
「うん」
「……っ、勇斗にさわってもらうの、すき」
「うん」
「だ、からっ……もっと、て言ったら……だめ……?」
首を傾げ、不安そうに俺を見つめる仁人に、俺の理性が揺らぎすぎて視界までぐらぐらしてしまいそう。
こんな顔でそんなことを言われたら……。
はぁっと息を吐いて、思わず額を合わせてぐりっと擦り付ける。仁人の長い睫毛が触れてしまいそうな距離で見つめ合う。
可愛い。本当に仁人は可愛くて……俺に愛されてしまって、哀れだ。
「仁人はさ、俺がほしいんだ?」
試してしまう。俺がどこまでお前を愛してもいいのかと。
俺に捕まってしまった哀れな男は、頷いた。
「はやと、が……いい」
その一言で、俺はすべてが許されるなんて期待してしまう。
「ありがと、仁人」
声のトーンを落として耳元で囁くと、仁人はきゅうっと眉尻を下げて俯いた。
きっと仁人はキスしたいんだろうな。でもまだ恥ずかしがっていて、言えない。伝われ伝われって目で訴えかけている。
普段の俺ならすぐに応えてやるのに、今日は趣向を変えてやろうとあえて知らないふりをした。
「あ、そうだ。じんちゃん、桃食べる?」
「もっ……桃?えっ、今?」
「そ。ちょっと良いの買ったからさー、じんちゃん待てる?俺キッチン行ってくる」
「う……ん、……?」
いまいち状況が飲み込めずにいる仁人を俺の膝上から下ろして、こちらをじっと見つめてくる視線を無視して俺はキッチンの方へと向かった。あらかじめ桃のむき方や切り方は調べていたし、少し不格好ではあるけれど食べられるようには切ることができた。
しかし、仁人はまだリビングで一人置き去りにされたままで。先ほどまでの甘い雰囲気と、自分を甘やかしていた男はどこへ行ってしまったのか、とそわそわしているみたいだ。
「はゃ……勇斗……?」
心も身体も迷子になってしまった仁人が俺を呼んでいる。それでも俺は手を止めない。
「はあい、じんちゃん」
「はやと……」
「大丈夫よー、俺はここにいるよー。声聞こえてるでしょー?」
「ん……はや、と……っはやと?」
もうほとんど泣きそうになっていく、仁人の声。ちょっとだけ意地悪が過ぎたのかもしれないと、急ぎ気味で皿へ盛り、フォークと一緒に持ってリビングへ戻った。
ソファでじっと俺の帰りを待っていた仁人が、ぱっと顔を上げて俺を見上げた。
「ごめん。でも仁人が喜ぶと思って」
ほら、と皿を仁人の前に突き出すと、少し戸惑いを見せた後こくんと頷いた。
座りながら一番綺麗にカットできたところをフォークで刺して、仁人の口の前まで運ぶ。大きく瞬きをした仁人が、おずおずと口を開けた。
「ぁー、ん」
「ど?美味しい?」
「……うん、おいしい」
自分の思うタイミングではなかっただろうが、それでも好物を口にして仁人は僅かに頬を緩ませた。
「もっといる?いっぱい食べよ」
「う、うん……勇斗も」
「仁人のために買ったんだけど、うーん……あ、じゃあさ」
「ん?」
テーブルに置いた皿からまたひとつ桃にフォークを突き刺して、はいっと仁人の唇に当たりそうな距離で、笑う。
「俺に食べさしてよ、仁人」
ぷっくりした可愛らしい唇に押し付けて、僅かに開いたその隙間に押し込んだ。するりと抜けるフォークを適当に皿の上に投げて、ぐっと身体を乗り出させる。
後頭部を辿って、首の後ろに手を添える。反射的に上がった顎に、いつものキスする時の仁人の癖を感じる。
もう何も言わなくても俺の意図を察した仁人は、震える手で俺の腕を掴んだ。ゆっくりと閉じられた瞼がすぐ目の前にあるのに、俺は目を開けたまま桃と一緒に唇ごと奪った。
「はぅ……ん、んっ……」
舌の上で潰された桃がぐちゅっと音を立てる。少しだけ味わったあと、舌伝いで仁人の口の中へと押し戻す。いつものキスの時と違う、甘い桃の香り。それがさらに俺たちの欲望を加速させる。
口の端から出た桃の果汁が仁人の顎を伝って首筋まで落ちていく。キスが下手くそな仁人は鼻で息ができず、苦しそうに俺の腕を持つ手に力が入った。頃合いかと思い口付けをやめると、ぷはっと勢いよく仁人が顔を上げた。
「ごめん、止められなかった」
「はあっ……は、はぁ……っ、だい、じょぶ」
「あぁもう、こんなに口汚して。ほら、綺麗にしよ」
軽く親指で仁人の口の端を拭って、それをぺろりと舐めた。
「ふっ、涎まで桃の味してる。……お酒もこんな感じ?」
息も絶え絶えに、問われた仁人は律儀にこくりと頷いた。半ば無理やり口に放り込まれた桃を飲み込み、必死に酸素を取り込もうと肩で息をする仁人には酷だろうが、まだ少しだけ俺の意地悪に付き合ってもらうとしよう。
俺はテーブルに置いていたグラスを持って、仁人の顔の前で揺らす。氷が溶けてぬるくなってしまった桃のお酒が、グラスの中でゆらゆらと波打った。
「俺も飲みたい。仁人の口から、して?」
自然と上がる口角が止められず、きっと俺は今すごい悪い顔をしているんだろうなと他人事のように思った。
俺に口移しを命じられた仁人は、震える両手でグラスを受け取った。じっとお酒の水面と、俺と、交互に見つめる。本当にするのか、と言外に聞いているようで。
「えー、だめ?」
それでも仁人は俺のお願いを断りきれないから、こうやって甘えてみせると、戸惑いながらも首を振って受け入れてくれる。
おそるおそる、仁人がお酒を口に含む。少しぷっくりさせた頬がまた可愛らしい。
「またお膝乗ろっか」
「ん……」
手を引いてあげると、仁人がのそのそと俺の膝を跨いで座る。さっきみたくまた仁人に見下ろされる。
仁人のもちもちの手が俺の頬に触れた。素直に上を向くと、意を決したような顔の仁人が近付いてくる。
最初はそっと重なるだけのキス。俺が薄く口を開くと、仁人はそれに応えるように……深く口付けをした。
仁人の口から流れ込む、甘ったるいほどのアルコール。仁人から与えられたそれを喉を鳴らして飲み込みながら、逃げていってしまいそうな舌を絡め取り、より深いディープキスに変える。
「ん、んぅ……っふ、ぁ」
するりと腰を撫でると途端にビクついた。もう片方の手をシャツの中に入れて、期待で尖った胸の先端をきゅうっと摘み上げる。
「ぁうっ……ん、ぁ……っ」
「は……じんちゃん、乳首きもちい?」
「ぁ、やっ……ぅうっん」
「よくない?そしたら、やめよっか」
「うぅあ……ゃ、あ」
察してくれない、思い通りにならない現実に、堪えきれず仁人はほろりと涙をこぼした。
「泣かないで、仁人。あーもうかわいいなぁ……」
親指の腹で仁人の涙を拭って、口に含む。これも桃の味になればいいのに。そしたらおとぎ話のお姫様みたいでもっと可愛いのに。
目尻、鼻先、口の端ときて、首筋に口付ける。微かに桃の味がする場所があり、べろりと舌で舐め取った。
くすん、と鼻を啜る音がして見上げた。
「はやと……いじわる、いやぁ……っ」
いつもならしないこと、言わないことを、どうして今日はされるのか。混乱する中酒で酔った頭で必死に考えたのにきっと答えは出なかったのだろう。
俺に愛されてる自覚があるから、傷つくようなことをされても“意地悪”になるのか……なんて、能天気な脳みそが結論付けてしまって、勝手に上がる口角を止めることができない。
独占欲や支配欲で溢れた俺の表情なんか見せたくなくて、ぎゅっと抱き寄せて仁人の背中を優しく撫でた。
「もういじわるしない。ごめん、仁人のしたいことしよ?大好きだよ」
「ん……、する」
「よかった。ありがと」
俺が言った大好きって言葉に安心したのか、少し緊張していた身体からふっと力が抜けて、すりっと俺の首元に擦り寄った。猫みたいな愛らしさが仁人らしいなと素直に思った。
期待で揺れるまあるいお尻を撫で、下着の中に手を突っ込んだ。俺が触りやすいように上げてくれるお尻も可愛い。手触りの良い肌を手のひらいっぱいに感じながら、徐々に下へ下へと向かう。
双丘の間、秘められたその場所は……不自然なほどに濡れていた。
驚きで思わず仁人の顔を見つめた。この猫は、してやったりの笑みを向けていた。
「きょ、は……するかなって、思って」
明らかな確信犯の笑み。どこからが計算で、どこからが無意識なのか。あんなに可愛い可愛いと愛でていたはずのお姫様が、こんなに色っぽい表情をするなんて。
「……ははっ。やべえ、めっちゃ興奮するわ」
欲望のままに噛み付くようなキスを送る。それに仁人は嬉しそうに腕を伸ばし俺の首に巻きつけた。
早く早くと焦る両手で手早く仁人が着ていたボトムと下着を脱がせ、俺も窮屈だったそこを解放するようにずらした。もう自分が脱いでる時間すらもったいないから。
貪り合うような情熱的なキスをいったん中断し、ポケットから目当ての物を二つ取り出した。一つの封を開け、くるくると……仁人のモノに被せた。
「ぁ、おれも……?」
「ソファ汚れるから」
「ん……」
視覚的に戸惑いがあったのだろうが、端的な俺の言葉にすぐに納得し頷いた。
二つ目を開けて、同じように今度は俺の方に被せる。パチンと着け終わった音を聞き、仁人は腰を浮かせた。
「はやと、はやく」
ほぼ真上から見下ろしてくる仁人は、期待で蕩けさせた瞳を向けて俺を急かした。
ぶちん。って、頭の中で聞いたことない音がした。
仁人の秘部と俺の先端が触れた。もうそこからは止められなかった。
「は、ぁ、ぁあぁあん……っ!」
「んっ……!」
奥の壁に当たるまで一気に貫いたそこは、きゅうきゅう狭くてあつい。脳が弾けるようなとてつもない快感に、一瞬視界がぐらりと歪んだ。
はっはっと荒い呼吸を繰り返す、二人。視線を下に落とすと、薄いピンク色に包まれた仁人のそれが……白く濁った色をしていた。
たった一度の挿入。それだけなのに、この男は。
「きもち、い?じんと」
分かってるのに確認せずにいられなかった。天井を向いた剥き出しの首筋が目に入り、衝動のまま吸い付いた。
もう甘ったるい桃の味なんてしない。口内に広がるのは仁人の汗の味なのに、ずっとこれを求めてたみたいに夢中で舐め取ってしまう。
「あぅ、ぁ……ゃと、おれぇ……イ、った……?」
「うん、多分イってる。でもまだ硬いな。出し足りない?」
「ちがぁ……っ、んか、おかし……っ」
「おかしい?」
出して気持ちよくなったはずなのに、何かが違うと訴えかけてくる。
前で絶頂を迎えても尚びくびくと不規則に締め付けてくる仁人のナカに、俺は納得した。
「じんちゃん、同時イきしちゃった?」
前と後ろ。同じタイミングで仁人は両方達した。今まで何度も身体を繋げてきたが、確かにその経験は一度もなかったはず。だから今自分の身に起こってることが理解できず、どっちで達してるのか聞いたのだろう。
正解はどちらもハズレだし、どちらも正解。
まぁでも、正直今はそんなことどうだっていい。
「もう動くね。我慢できねえ」
「え、ゃあ、ぁ、あっ……まっ、てぇ!」
「ごめん無理。じんとばっかずりい」
「な、で……っああ、ぅあ、んうう」
酒の影響か、いつもより大きい仁人の嬌声。上擦った甘い声が俺の鼓膜を刺激して、より歯止めが効かなくなる。
俺の上で逃げることもできない哀れな仁人は、もういつ自分が達しているのかも分かっていない。俺の首に巻きついていた腕はただ引っかけるだけになっていて、俺に揺さぶられながら奥まで何度も深く突き刺さる快楽をただ受け入れるしかできない。
「はっ……かーわい、じんと」
普段絶対見せないような涙を、俺の前で、こんなカタチで見せて。突き動かされるこの衝動は、独占欲以外何があるというのか。
いつもより下がった眉尻も、涙で濡れた睫毛も、口の端から垂れた涎も、淡く桃色に色づいた肌も、全部、ぜんぶ。
「俺だけ、でしょ?」
「ひ、あ、あんっ、ぁ……!」
「いっぱい俺で、よくなって……っじんと」
ぐちゅんって、奥まで貫いて、また仁人は達する。ゴムの中ですっかり勢いのなくなった仁人の射精を見て、また笑ってしまう。
絶頂でびくびく震える身体をゆっくりソファの座面に寝かせて、とうとう引っかけることもできなくなった腕がころんとソファの上に落ちた。
「ぁ……っ、んぅ……ふぁ……」
静かに痙攣する仁人のナカが、ずっと俺を刺激し続けている。
仁人にとっては苦しいほどの快楽なのだろう。焦点が合わなくなった目で、なんとなく俺の姿を追っているのが分かる。半開きになったその唇にちゅうっとキスしても、瞼は完全に閉じきらない。
かわいそうに。こんなの序の口なのに。
緩く開いていた膝を持って、ずるりと腰を引く。そして、一気に奥まで。
「っぁあ……ぁ、あっ!」
ぱんっと肌と肌とがぶつかり合って派手な音を立てた。
仁人が思いっきり背中を反らし、その勢いで捲れ上がったシャツの隙間から、ピンと立ち上がった可愛らしい乳首が顔を出した。
気付けば俺はそこに手を伸ばしていた。でも腰の動きは止めないままで。
「やあっ、ぁあ、ふぁ、んんっ!」
「乳首いじられながらきもちいとここつこつされて、そんなにいい?」
前立腺を抉られながら指先で乳首を弾かれて、そして俺の言葉でもいじめられて。
「逃げられなくなっちゃうね、仁人」
瞬間、溢れんばかりに見開かれた瞳。そこに映った俺は、非情な笑みを浮かべていた。
腰を大きく引いて、ぷっくり腫れた前立腺を巻き込んで奥まで押し込んだ。同時に親指と人差し指で、ぎゅうっと両方の乳首を摘み上げる。
「あっ、ぁあ、ああぁ……っっ!!」
最後はもうほとんど声にならない声を上げて、仁人は今日一番大きな快感の波を受けた。
ぎゅうぎゅう目一杯締め付けるナカ。それなのに前はふるふると震えるだけで何も出はしない。限界まで反らした背がなかなかソファに降りてはこない。
はぁ、と熱い息が漏れた。
俺の下で身悶えるこの男の姿を見ることに、人生最大級の幸福感と達成感を覚えるのだ。それでも、この歪んだ愛情をぶつけて、ぶつけ続けて、その先が見たいと思ってしまう。
どうかまだ、壊れないで、堕ちないで。俺のために、仁人は仁人の姿のままで愛させてほしい。
「メスイキ、きもちいね」
侮辱的な言葉を吐き捨てた。どうせ俺の声なんてもう聞こえてないと思っていたのに。長く深い絶頂でぼんやりとしていた視線が、確かにぶつかった。
涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔のまま、仁人はへらりと笑った。
俺を、挑発している。直感的にそう思った。
静かにひとつ呼吸して、そして。
「まだ……だよな?はや、と……」
俺はまだ、壊れても堕ちてもいない、と。
「……、はっ!」
本当に面白い。ずっと、俺をワクワクさせ続けてくれる男だ。
ぶわりと全身に熱が回っていく感覚がした。一度仁人から離れて中途半端に脱げていた下の服を、全て脱ぎ去った。
再び覆い被さった俺より小さな仁人の身体は、ゆったりと艶めかしい動きで両脚を広げ、俺をまた迎え入れる準備を始める。ひくんと切なく震わせるそこが、俺を呼んでいる。
どうせ明日になったら何も覚えてはいない。でも、どうかこれだけは覚えていてほしい。
お前の明日を、未来を、俺に祈らせて。
ーーー俺の前だけで酔ってよ。
おわり。
コメント
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コメント失礼致します。 お話読ませて頂きました。 本当に本当に素敵でした。 jntさんがかわいすぎて、本当にキュンキュンしました。 初めは、自分は飲まずにjntさんを見るhytさんも、本当に好きで見ていたいんだろうなというのが伝わってとても素敵でした💕本当に素敵な甘い夜を読ませて頂きありがとうございました! またすぐに読み返させて頂きます🙇💕
めおさんの新作、読ませていただきました🥀 仁人くん、最初はお酒でぽやぽやしてるのに、だんだん勇斗くんに愛されてる自覚を持って挑発する姿が…すごく丁寧に描かれてて、胸がぎゅっとなりました。 お酒の甘い雰囲気から、お互いの独占欲が滲む夜の流れが美しかったです。 最後の「まだ堕ちてないよ」って笑う仁人くんが、一番好きです。 素敵な作品をありがとうございました🤍