コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
アパートに帰ると、奈津美からの留守電が十二件入っていた。
翌朝、窓を開けると、秋とは違った表情の空が見えた。奈津美を誘って、ドライブに出た。
「昨日はこめん。話が盛り上がっちゃってさ」
「いいの。私ね、あなたがそんなに楽しかったって聞いて、すごく嬉しいわ。だから、私は私で幸せよ」
メルローズ・アベニューは観光客で賑わっていた。服屋、雑貨屋、おみやげ屋、ハンバーガーショップ、家具屋、クリスマスの装飾が施され始めている。
「俺ね、ときどき思うことがあるんだ。もしあのときカフェテリアにアレシオがいなかったら、俺達は出逢わなかったんじゃないかって。彼があのときたまたまそこにいて、たまたまピアノを弾いてたから、俺もたまたまピアノに向かった」
「そうは思わないわ。私達は出逢ってたと思う。
私ね、実はあなたと会う前に、一度だけアレシオと話したことがあったの。そのピアノはどこで習ったんですかと聞いたら、日本人から習ったって言ってた。それが後になって、あなただって分かったときには驚いたわ。あのとき出逢ってなくても、きっと私達は出逢ってたと思う。ジゼルを通して知り合ったかもしれないし。運命だったのよ」
ハンドルをハリウッドの山へ廻した。峰にはマルホーランド・アベニューが通じていて、ロングビーチまで広がる南の大ロサンゼルスと、バーバンクやユニバーサル・スタジオのある北の街並みが百八十度のパノラマで広がっている。
「いつかこの道を通ることがあったら、きっと私のことを思い出してね」
助手席の奈津美は遠くを見ている。