戦場の花

第十四章：隔離された部屋と、ハンジの助言厳戒態勢下の日常

訓練場での一件以来、サクラに対するリヴァイとエルヴィンの監視は、**「隔離」**という形で徹底された。サクラは、訓練場の一角を仕切られた専用のエリアでのみ訓練を許可され、私的な外出は一切禁止された。

彼らはサクラを溺愛しているがゆえに、彼女の安全と価値を守るため、物理的な自由を奪ったのだ。

サクラは、その状況に息苦しさを感じていた。自分はただの兵士ではなく、**「価値のある所有物」**として扱われているように思えた。

そんな中、サクラが唯一、比較的自由に会話できる相手がいた。ハンジ・ゾエ分隊長だ。ハンジは、巨人に関する熱意と同様に、サクラの**「異世界」**という情報源への飽くなき好奇心を持っており、二人の会話はエルヴィンも黙認していた。

「ハンジさん、あの…」

ある日の夜、エルヴィンとリヴァイが席を外している間に、サクラはハンジの実験室へ足を運んだ。

「おや、サクラちゃん。こんな時間にどうしたんだい？何か新しい**『異世界のテクノロジー』**について思いついたかい？」ハンジは、興奮気味にフラスコを揺らしながら言った。

ハンジへの心の吐露

サクラは、周囲を警戒しながら、ハンジに正直な気持ちを打ち明けた。

「あの…私、団長と兵士長の庇護が、少し息苦しいんです」

「フム。予想通りだ」ハンジは眼鏡を押し上げ、真剣な表情になった。

「彼らは私を大切にしてくれているのは分かります。でも、兵士長は私の体を『汚れるな』と異常なまでに管理し、団長は私を『戦略の核』として外部から隔離する。まるで、高価なガラスケースに入れられた標本のようです。私の自由な意思がないように感じてしまうんです」

サクラは、特にリヴァイとの「浄化の儀式」や、エルヴィンの「独占的な抱擁」に言及することは避けたが、その心の重さはハンジに伝わった。

「彼らは、私の強さも知っているのに、なぜ私を信じて、自由にさせてくれないんでしょうか？」

ハンジの分析と助言

ハンジは、フラスコを実験台に置き、サクラと向き合った。

「サクラちゃん。それはね、キミの能力とは別の話なんだよ。エルヴィンとリヴァイは、キミの中に、彼らがこの残酷な世界で失ったもの全てを見ている」

ハンジは、静かに分析を始めた。

「リヴァイは、極度の潔癖症だ。彼は、自分の周囲の『汚れ』を排除することでしか、心の安寧を保てない。キミの**『純粋さ』は、彼にとって唯一無二の安らぎなんだ。だから、彼はキミを『完璧に清潔な状態』**で独占しようとする」

「一方、エルヴィンは、『希望』という名の重荷を背負っている。彼は、常に合理的な判断を下し、多くの犠牲を払ってきた。キミの持つ『異世界の知識』は、彼にとって、自分の選択が正しかったと証明してくれる最後の光なんだ。だから彼は、その光が消えないように**『最高度に安全な場所』**に隔離する」

「彼らの溺愛は、愛であると同時に、彼ら自身の精神的な防御機構なんだよ。その愛が、キミの自由を奪っている」

サクラは、二人の「溺愛」の真の理由を知り、複雑な気持ちになった。彼らが抱える孤独の重さを、改めて痛感した。

「じゃあ、私はどうすればいいんでしょうか…？このまま、彼らの重荷を背負い続ければいいんでしょうか？」

ハンジは、サクラの目線まで屈み、真剣な眼差しを送った。

「違うよ、サクラちゃん。キミは、もう彼らの**『標本』でいる必要はない。キミは、彼らが想像するよりずっと強い兵士だ。そして、キミは、自らの意思で『情報開示』**を決意した」

「明日の三者会議で、キミは全てを話す。キミの持つ知識は、彼らの**『戦略』と『純粋な希望』、そして『安らぎ』**を、全て満たしてくれるものかもしれない。そのときこそが、キミが彼らの『庇護』から『対等な協力者』へと脱皮する、最高の機会だよ」

ハンジは最後に、悪戯っぽい笑顔を見せた。

「ただし、キミが全ての情報を開示した後、彼らの嫉妬と独占欲がさらに増幅する可能性は、否定できないけどね！頑張って、サクラちゃん。キミの『異世界』の話、楽しみにしているよ！」

ハンジの助言は、サクラに勇気を与えた。彼女は、もはや恐怖に囚われるのではなく、自分の力でこの状況を動かす**「覚悟」**を決めたのだった。