テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
合宿が明け、日常に戻った梟谷学園。
放課後の図書室、閉館間際の静寂の中で、私と赤葦先輩は向かい合って座っていた。
「……成井。ここ、計算が違っている。公式を読み飛ばした?」
「あ、本当だ……すみません、集中力が……」
先輩はいつも通り無表情で、私のノートに細い指先を滑らせる。
でも、机の下では。
彼の長い足が私の足に触れ、逃げようとすると、グイッと強く絡め取られる。
「……赤葦先輩、ここ図書室……」
「知っているよ。だから、声は出さないで」
彼はペンを持ったまま、視線だけを私に向けた。
その瞳は、もはや「冷静な司令塔」のそれではない。
共犯者の誓いを結んでから、彼の独占欲は日増しに熱を帯び、今や私の日常を隅々まで侵食していた。
「……最近、木兎さんに『赤葦、最近怖いぞ!』って言われたよ」
「えっ、やっぱりバレて……」
「……いや。俺が君を見つめる時間が、秒単位で長くなっているらしい。自分では制御しているつもりなんだけどね」
先輩は自嘲気味に口角を上げると、突然、私の手首を掴んで引き寄せた。
ガタッと椅子が鳴る。
「……成井。俺はもう、計算なんてしたくないんだ」
「先輩……?」
「……君を誰にも見せたくない。部活中も、教室にいる間も、ずっと俺だけが君を独占していたい。……こんな非合理的な思考、自分でもどうかしていると思う。でも」
彼は私の指先に、ちゅっと短く、けれど熱い熱を落とした。
「……君がいない世界での戦術なんて、今の俺には何の価値もない」
無機質だったはずの彼の仮面が、音を立てて崩れていく。
そこにいたのは、完璧なセッターなどではなく、ただ一人の少女に狂わされた、あまりにも不器用で、激しい愛を抱えた「男」だった。
第10話(最終話):『計算外の、愛しい正解』
三年生の引退試合を終え、夕闇に包まれた誰もいない体育館。
バッシュの音も、ボールの音も消えたその場所で、私と赤葦先輩は二人きりで立っていた。
「……終わっちゃいましたね、先輩」
「……そうだね。でも、俺たちの『共犯』は、ここからが本番だよ」
先輩は、部室の鍵を閉めると、私の腰を抱き寄せて壁に押し付けた。
暗闇の中、彼の瞳だけが、獲物を捕らえた猛禽のように光っている。
「……成井留奈。君は、俺の人生最大の計算違いだった」
「……え?」
「……一時の迷いだと思っていた。でも違った。……俺の脳内の全細胞が、君を求めて叫んでいるんだ。これ以上の正解なんて、一生見つからない」
彼は私の頬を両手で包み込み、額をこつんとぶつけた。
熱い吐息が混じり合う。
「……一生、俺の隣で、俺のトスを受け取って。……逃げるなんて、非効率なことは考えないで」
「……逃げません。……先輩の『正解』は、私しかいないんでしょ?」
私が微笑むと、赤葦先輩は初めて、年相応の、少しだけ泣き出しそうなほど幸せそうな顔で笑った。
「……ああ。……愛してるよ、留奈」
重なる唇。
それは、どんな精密な戦術よりも、どんな完璧なトスよりも、私の心を震わせる「最高の一打」だった。
放課後のボタン、倉庫の誓い、図書室の熱。
積み重ねてきたすべての「計算外」が、今、この瞬間、二人だけの「正解」へと結実した。
無表情なセッターが選んだ、生涯一度きりの、計算外の恋。
その幕引きは、言葉にならないほどの甘い余韻の中に、深く、深く沈んでいった。
気遣いセッターと計算外の恋_。 fin
お楽しみいただけましたか?
リ ク エ ス ト い た だ け る と と っ っ て も 嬉 し い で す ( 笑 )
コメント
2件
リクエストでーす!
505
706
しずまる@Shizuku