──その日の真梨奈は、いつもより派手目な格好で、また二人で会うんだろうかと感じさせた。
私に察してほしいような表情で、チラチラと視線を送ってくる彼女に、
「……今日も、会うの?」
仕方のない思いで声をかけた。
「うん、そうなんだ~」
にやけた顔で答えた真梨奈が、
「先生ったら、最近よく触ってくるんだよねぇ……。この前は、手も握っちゃったしー」
と、耳打ちをしてきた。
「そうなんだ……」
手を握るぐらいで喜んでるなんて、よっぽど大事にでもされてるんだろうか……。
それ以前に、あの医師がまだ手しか握っていないだなんて……。彼女とは、それくらい本気で付き合っているとでも……。
私には、最初からあんなに迫ってきたのに……。ベッドでのシーンが頭に浮かぶと、自分の時とはまるで違うことになんだかやり切れなくもなって、思わず「はぁ…」と、ため息がこぼれた。
「智香ってば、そんなに先生のことが好きだったの? それなら、私みたいに誘ってみたらよかったのに〜」
にやけた顔つきのままで、真梨奈がうわべだけの慰めの言葉を吐いて、
「だけど、今は先生は私のものだから、手を出したりしちゃダメだからね?」
そう付け足すと、わざとらしく口元に指で×印を作って見せた。
「出さないから……」
彼女の挑発するような言動にも、もうあまり関わりたくもないような気持ちしか湧かなくて、私にはそれだけを言い返すことしかできなかった。
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