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「えっ――!?」
バランスを崩した脚立が倒れ掛かると同時に、それに乗っていた院瀬見も地面に落ちかけていた。
そこに、
「ふぅーー……シャレにならないところだったな」
「……っ!!」
身を乗り出していた俺はものの見事に倒れかけだった脚立の側面に肩をぶつけ、脚立を両肩に置いて倒れ込むのを防いだ。地面に落ちているのは枝切りばさみだけで、院瀬見は落ちてもいない。
院瀬見の姿は確認出来ない状態だが、おそらくバランスを崩した時に脚立に足をかけて落下を免れたとみえる。
それにしても脚立に肩をぶつけて止めたのはいいとして、両肩の上が妙に重さを感じるのは何故なのか。それほどずっしりくるわけじゃないが、誰かが俺に乗っかっているような重みを感じる。
それはともかく、院瀬見には声をかけておく。
「地面に落ちたのが院瀬見じゃなくて、枝切りばさみで良かったな!」
「……あのっっっ!!!」
「あん? どうした、院瀬見――!?」
「……もしかしてわざと意地悪なことしてます? いい加減、足を揉むのをやめて地面に降ろして欲しいんですけど!!」
院瀬見に言われてハッとした。そして俺がしていたことは、冗談にもなっていなければ悪ふざけでは済まされないことだった。
当たり前に脚立だと思って両肩に乗せ、今まで支えていたのがまさかの――
「――い、院瀬見だったとか、これはなかなかどうしてビビるな……」
「とにかく早く降ろしてくださいっっ!!」
「おぉ、わ、悪ぃ」
院瀬見としても予想していない出来事だったに違いないな。かなり怒ってるみたいだし。
だがそういうつもりは全く無かったし、俺に落ち度は無いはずだ。
俺の肩にまたがっている院瀬見を刺激しないように、俺はスクワットの姿勢でゆっくりと降ろし、彼女の足が地面に着地するまで地面だけに視線を集中させた。
視線を少しずらすと、そこには見事に倒れた脚立と院瀬見が履いていた靴が転がっていた。
勢いで脱げたにしても二足分も脱げるのか?
パタパタとスカートやら何やらをはたき終えると、院瀬見はいつもは高めの声のトーンを落として俺に静かに問いかける。
「……言い訳だけ、一応聞きます」
「あー……そうだな。一応聞くが、不可抗力って意味を知っているか?」
「南がしたことは天変地異でもありませんし、人ならざる者でもありませんけど?」
さすがは才色兼備な最強美少女だな。語彙力が足りないアレとは次元が違う。
それなら正直に言うしかないだろうな。
「言い訳なんか無い! 俺は脚立が倒れないように支えただけだからな! それが結果として脚立じゃなくて、院瀬見だったってだけのことだ。その、足を無意識に揉んでいたのは謝る! それだけはごめん!!」
脚立にしては細すぎると思っていたが、まさかの生足だったとは予想出来るはずも無い。多少の重みもあったし仕方が無かったとしか言えん。
「…………はぁ」
長い沈黙と深すぎるため息はどっち側なんだ?
どういう許しが得られるのか院瀬見を見ると、地面に刺さった枝切りばさみを拾い、転がっている脚立を自分で片付けようとしている。
枝切りばさみはともかく、脚立はさすがに。
「それは俺がやるから! 院瀬見はアレだ。その辺で落ち着くまで――」
「わたしの腕や手に触れたからって素足まで触るなんて、それが生徒会長のすることですか! それってどうなんですか!!」
これはマジな怒りだ。不可抗力って言ってるのにまるで取り合ってくれそうに無い。
それならば彼女にも同じことをしてもらえばいいのでは?
「生徒会長は関係無いぞ。わざとでもなかったし、謝ったのに何が問題なんだよ?」
「余裕ぶった態度がムカつくんです!! だってわたしだけこんなの……」
「……それならお前……院瀬見も同じことをすれば気が収まるんじゃないか?」
「同じこと?」
怒りで我を失ってる奴には、実際問題として何を言っても無駄に終わる。だが目の前にいる最強美少女は、俺の塩対応に何故か好反応をしてくるタイプだ。
それなら普通じゃありえない提案をすればそれに乗っかってくる可能性が高い。
「俺が院瀬見の肩に乗っかって肩車――」
「却下です!! 出来るわけないじゃないですか!」
それもそうだ。院瀬見は脚立並に軽かったが、俺を肩車するとなれば間違いなく肩を壊すことになる。
そうなると次なる選択肢は、
「じゃあ、その……俺の腕とかに触れるってのは?」
我ながらアホな提案をしているな。こんな逆セクハラみたいな提案に乗る女子がどの世界線にいるというのか。
「生徒会活動をしてる時には出来ない隙をこれから全開放するってことですか?」
「へ?」
「だから、南を見つけたらいつでも体当たりしたり、足をかけて転ばせたり、投げ飛ばしてもいいって意味ですよね?」
これはまた、何とも変な方向で理解されたぞ。俺としては同じように足に触れて構わないし、いつでも握手していいという意味で言ったのに。
何でそんな不意打ち攻撃いつでも歓迎みたいなニュアンスで取られるんだよ。
「いや、そうじゃなくて……」
「違うんですか?」
ズイっと俺に迫りくる院瀬見があまりにも近すぎる。
さっきまで密着していたというのもあるとはいえ、この動悸は何なんだ?