もう戻れない今、愛を囁いたりしないで欲しかった。
光貴がくれる愛には気が付かないまま、なにももらえないままだから仕方なかったと、卑怯な理由を身に着けて旅立ちたかった。
「律。かわいいな。愛してる」
博人も光貴も裏切って、囁いてもらった愛を都合よく受け入れてしまうどっちつかずの人間になってしまった。
「ぁあっ、ん、光貴…あっ、んんっ……」
それでも思う。私は光貴だけを愛したかった。
私の中であなたは、やっぱり大事な人だから。
「痛くないか? 今までごめん」
もっと早く聞きたかった。
「大丈夫。気持ちいいよ…あ、ん、光貴…――」
博人とは違う形で私は光貴に優しく愛された。
「もっと気持ちよくなって」
光貴が泣きながら私を愛してくれている。
どうして今なの?
光貴は私と博人のことを気付いているの?
それならどうして問い詰めないの?
怖くて聞けない。
「ごめんな…僕、律のこと上手に愛せなくて、ほんとにごめん…」
頬を摺り寄せられた。地獄の歌姫になる前だったら、あなたが与えてくれる真っ白で美しい愛を胸いっぱい受け止めて、歓喜の涙を流しながら歌っただろう。
でも私は歌えない。
真っ白で美しく穢れを知らない歌を、もう歌うことはできない。
罪と欲望で薄汚れた暗い舞台が似合うように、博人とふたりで作り変えてしまったから。
「そんなことない。大事にしてくれてありがとう。私のほうこそごめんね…ごめんね、光貴……」
こんなに切ないセックスは初めてだった。
今、私はどんなふうに歌っているの?
自分でもわからなかった。
「あ、ん、光貴、あぁ、ああっ・・・・」
胸先を口内に含まれて優しくこね回され、腰を動かされた。
あれだけ感じてみたいと思っていた光貴の愛撫に、今、この瞬間――初めて感じている私がいた。
優しく私を愛してくれる光貴の肩へ回した指に、ぎゅっと力を込めた。
「律。ごめん。ずっと…今までも、これからも、愛してる……」
謝らなくちゃいけないのは私。
光貴は私を愚直なほどまっすぐに愛いてくれていたのに。
どうして満足できなかったのだろう。
ただ、光貴を大切に想って生きたかった。
詩音と3人で、時々けんかして、笑いあって、仲睦まじく暮らしたかった。
どこで狂ってしまったの。
ううん。狂ったのは光貴のせいじゃない。
ぜんぶ私が、自分の気持ちにちゃんと気が付かなかったせい。
大事なひとなのに。
これは、あなたを愛せなかった、私の罪。
「光貴…」
今日を終えたら私はもうあなたの前にはいない。
これが最後。
私が嬌声と共に上げる卑猥な歌声は、光貴との別れの歌なのだと――
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