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Side果歩
「何よ!|あの女《美緒》ばっかり‼」
家に帰るなり、苛立ちぶつけるようにバッグをソファーに投げつけた。
弾みでバッグが落ち、部屋に音が響く。
「どうしてあんな地味で何の取り柄もない女が、周りからチヤホヤされてるのよ!」
健治と本当に別れたのか確かめたくて、この前こっそり、後を着けた時も、三崎とか言う医者が迎えに来て失敗してしまった。
乱暴に椅子に座り、デスクの上に置かれたノートパソコンを開いた。
画面が点灯すると同時にSNSのタイムラインが目に飛び込んでくる。
そこには、笑顔で何かを投稿する人々の写真や、近況報告が並んでいた。
「真面目なふりして、私のことを悪者にして……。」
わたしはキーボードに手を伸ばし、打ち込み始めた。
いくつかある匿名のアカウント、そのひとつを使って書き込む。
『夫がいるのに関わらず人の旦那に手を出し、他にも彼氏がいる医者狙いの女だ。真面目そうに見えて、実は最低のヤリマン』
投稿を確認すると、気持ちがスッとし、自然と口角が上がる。
「これで、少しは|あの女《美緒》の評判が落ちるはずよ。どうせ誰も本当のことなんて分かりゃしないんだから」
さらに、美緒の職場名や関連するキーワードを匂わせる投稿をいくつも書き込んでいった。
虚偽の情報でありながら、それが正しい行動をしている様に思えて来る。
「これくらい、当然の報いよ」
次々と投稿を繰り返し、投稿を増やすほどに満足感で満たされる。
投稿を終えた後、椅子に深く座り込んだ。静かな部屋の中で、ただキーボードを叩く音だけが残響している。
「|あの女《美緒》さえいなければ……」
低く呟いた言葉は、どこか虚しく響いた。
「全部、あの女のせい……。私が悪いんじゃない……私は、何も間違ってない……」
SNSへの投稿を終え、リビングのソファに崩れ落ちるように座っていると、突然玄関のドアが激しく叩かれる音が響いた。
「果歩!開けなさい!」
その怒鳴り声を聞いて、一瞬で血の気が引いた。
父だ。
「……なんで」
動けずに固まっていると、玄関の鍵がカチャと開く。
合鍵を使ったのだ。
スーツ姿の父が険しい顔で中に入ってきた。
その目は怒りに燃え、わたしを鋭く睨みつけている。
「お前、何をやらかしたか分かってるのか!」
「……何よ、いきなり怒鳴らないでよ」
強気で返したが、父の威圧感に押されて、後ずさりするしかなかった。
「お前は、謝りに行ったのか?傷害事件の捜査が進んでいるだぞ!お前、分かってるのか?このままじゃ逮捕されるんだぞ!」
「だから何よ!私は何も悪くない!全部あの女が悪いのよ!」
その言葉に父の顔がさらに険しくなる。
「何も悪くないだと? お前はいい加減現実を見ろ!このままじゃ社会的に終わるんだぞ!」
「うるさい!」
耳を塞ぐように叫んだ。
「もう、放っておいてよ!」
父はため息をつき、声を落として言った。
「お前がこのままじゃダメだ。精神科の入院手続きを進めてやる。少し頭を冷やせ。選択肢はないんだ。自分を守るためにも、ここで治療を受けるんだ」
「嫌よ!絶対に嫌!」
このままだと、病院送りになってしまう。
わたしは逃げるように、床の上のバッグをつかみ、部屋を飛び出した。
夜の街に飛び出したわたしは、無我夢中で歩き続けた。
行くあてもない。頼れる人もいない。
風が冷たく、薄手のカーディガン越しに体を刺すようだった。
「……何よ、みんなして私ばっかり……」
わたしは足を止め、街灯の下で佇む。
頭の中では、美緒の顔が何度も浮かんでは消える。
「あの女さえいなければ……。全部うまくいってたのに……」
頭を抱え、道端にしゃがみ込んだ。
誰も助けてくれない。
父も、成明も、そして健治も……。
「もう、どうしたらいいのよ……」