第2話
放課後の教室って、なんか落ち着く。
みんなが帰って、窓の外からオレンジ色の光が差し込んでくるこの時間。
――よし、今日は本気出す。今度こそ。
机にノートを広げて、ペンを構える。
……けど、五分で集中力が行方不明になった。
「うーん……ねむい……」
ペンをくるくる回して、気づいたらまた落書きしてる。
「……はぁ、私ってどうしてこう……」
そのとき、ガラッと教室のドアが開いた。
「忘れ物取りに来たけど……お前、まだいたのか」
顔を上げると、そこには黒瀬颯太。
教科書を片手に、あのいつもの無表情で立っていた。
「べ、別に! 残って勉強してるだけだし!」
「勉強?」
黒瀬が机の上をちらっと見る。
「ノート真っ白だけど」
「こ、これから本気出すとこ!」
「そのセリフ、何回目だっけ」
むっ。
またそれ。そうやって冷静に言い返してくるの、ずるいんだよ。
「そっちこそ! なんでわざわざ戻ってきたの? 忘れ物って嘘でしょ!」
「いや、本当に忘れ物。」
黒瀬が机の中から教科書を取り出す。
「……あと、気になったから」
「え?」
「……いや、お前、絶対居残り勉強なんて無理だと思って」
「はぁ!? できるし!」
そう言いながらも、私のノートはまだ真っ白。
颯太の視線が刺さるたび、余計に手が止まる。
「……あーもう!」
勢いでペンを置いた。
「黒瀬のせいで集中できない!」
「俺のせい?」
「そう! その顔! ムカつく顔!」
「顔に罪はない」
「はぁあ!? その言い方もムカつく!!」
颯太は少しだけ口元をゆるめた。
――あ。笑った。
「……ま、少しくらいはやる気出たみたいだな」
「う、うるさい!」
ペンを握り直して、ノートに一文字だけ書く。
“英語”。
……うん、タイトルから始めるのは悪くない、よね。
窓の外で、夕陽が少しずつ沈んでいく。
教室には、ページをめくる音と、遠くの笑い声だけ。
心の中は、なんだかざわざわしていた。
――ムカつく。けど。
その笑顔、ちょっとずるい。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!