コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
スパイキー・スパイク 〜 サーカス団 内部 自室にて 〜
自分の部屋に戻ると、僕たちは冷凍ケースを窓際に置いた。先程の会議でクロウが言っていた。この子達は寒帯、つまり寒いところでしか生きられないと。ならば窓際のほうがいいと思った。僕たちって頭いいね。
「大丈夫? お腹空いてない?」
冷凍ケースを開けると、シモドリが中から僕たちの顔をじっと見つめてきた。怪我をしているのは片方の翼。ほんのり赤く染まった翼を僕たちは観察する。あの森の木々は寒さのあまりカチンコチンに凍っているため、もしかしたらなにかの拍子に翼をひっかけて怪我をしたのかもしれない。
「んと、君、お話できない、よね?」
シモドリは僕たちのように会話はできないのかもしれない。さっきからこうして話しかけてはいるけれど、返事は帰ってこない。でも、僕たちの言っていることは理解しているみたいだった。
「いしそつう? ができないのは仕方ないか。でも、僕たちの言ってることがわかるなら安心かな?」
僕たちは棚から包帯と消毒液を取り出した。これはハッターが僕たちのような魔物が怪我をした時に使うと一瞬で治る魔法の薬だ。ハッターに頼んで治療してもらってもいいのだが、自分の責任は自分で負わなければならない。
「傷、手当するね?」
恐る恐るシモドリに手を伸ばしてみた。ひんやりする。羽毛らしきものがついてるのでてっきりもふもふしていると思っていたのだが、翼はまるで小さな氷のように冷たく痛い。そして、重みがある。
「冷たっ!? 君、改めて触るとすっごく冷たいね?」
ツリーテイルから逃げていた時、この子を落とさないように必死に抱えていたから気づかなかった。もし、人間が素手で触ったらと思うとゾッとした。
「待ってね? 今治してあげるから。」
僕たちはシモドリの怪我をしている翼をすっと持ち上げて、薬で湿らせた布を傷口に当てた。
「ビー!!!??」
シモドリは、傷口に染みたのか甲高い声を上げ、翼をばたつかせた。さらに、冷凍ケースから氷が伸びてきた。僕たちはその氷にあっという間に捕まり、僕たちの部屋は南極と化した。
「ご、ごめんね! 痛いよね、ごめんね!?」
「ビービー」と鳴き声をあげるシモドリを落ち着けせるように反対の手でそっと撫でる。シモドリは、撫でている僕たちの手に気づいては鳴くのをやめ、伸ばした氷の侵攻を止めた。
「うん、うん。痛かったよね? 驚いてただけだもんね?」
「…。」
傷口の手当を終わらせて、シモドリの翼から手を離すと氷もあっという間に消えた。しかし、この氷に包まれると一気に疲労感がくる。恐らくこの子の能力なのかもしれないと思った。
「よ、し…、これで、だいじょう、ぶだよ。」
「ピー!?」
疲れに抗えずに僕たちは気絶するように眠ってしまった。朦朧とする意識の中、冷凍ケースを見つめたのが最後だった。
<スパイキー・スパイクの夢>
寒い、けれど。とても温かい。
「ねぇ、母さん。どうして、ぼくたちは太陽を浴びてはいけないの?」
話し声が聞こえる。とても弱々しくて、可愛い子どもの声だ。
「私達はね? 暑さにとても弱い体なの。だから、太陽を浴びてはいけないのよ。」
「でも、ぼく、太陽をみてみたいよ…。おじさんがね? 言っていたんだ。太陽は、ぽかぽかしていてとってもきれいなんだって。」
親子の、会話だろうか。「母さん」とても懐かしい響きだ。太陽。とてもきれいだよ。
「母さんも、見てみたいわ。でも、私達は大事な役割があるのよ。」
「大事な、役割?」
「そうよ、私達はね…。」
役割? それは一体なんだい? 大事な役割?
<現実>
僕たちは目を覚ますと、外はすっかり暗くなっていた。にしてもなんだか優しいような懐かしいような夢だった。
僕たちは、目を擦りながら冷凍ケースに目を向けると、そこにはシモドリはいなくなっていた。
「あ、あれ!? いない!?」
冷凍ケースを開けっぱにしていたからなのか、中にいたはずのシモドリがいなくなっていた。でも、あの怪我だと飛べないはず。そう思って僕たちが窓に視線を向けるとそこにシモドリがいた。
「あれ、君…。」
「(ありがとう…。)」
「へ?」
頭に直接声が聞こえてくる。それに、この声。夢で聞いた声と同じ声だ。
「君、なの? 僕たちに話しかけてるのは?」
シモドリはゆっくり頷いた。僕たちは、シモドリに近づいて見た。逃げる様子もなく、凍らせる様子もない。
「(ありがとう、ぼくをたすけてくれて。)」
「ううん。当然のことをしただけだよ。でも、すぐには飛べないよね…。」
シモドリは怪我をした翼をぱたぱたさせるが、まだ完治はしていないようだ。
「(そうだね、でも。森の近くまでいけばぼくは、飛べるようになるかもしれない。)」
シモドリは白幻の森の方をじっと見つめていた。寒い場所でしか生きられないというのならば、完全に飛べるようになるにはもう一度白幻の森に行かなければならないのかもしれない。
「連れていってあげようか?」
「(! ほんとうに?)」
「うん! 僕たちに任せてよ! 君を責任持って回復させるし、ちゃんと元いた場所に返さないといけないし。」
「(でも、きみのおともだちが…。)」
「大丈夫! 君も僕たちの友達になればいいんだよ!」
シモドリはきょとんとした顔で僕たちの顔を見ていた。
「友達になろうよ!」
僕たちの念に押されるようにシモドリは少し悩むと小さく「うん…。」と頷いてくれた。
「友達はね? 困ってたら助けてあげなきゃいけないんだ。だから、僕たちに任せてよ! ね?」
深夜、僕たちは冷凍ケースとマフラーを持ってアルマロスから出た。冷凍ケースの中にはシモドリを入れている。仲間には黙って来てしまったが、まあ、大丈夫だろう。
僕たちは、深夜の白幻の森へと駆けていった。窓から僕たちを見ている視線に気づかずに。