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「でもさ、だったら純のお母さんって有名人だったはずじゃ?」
「お婆さんが一生ひどいケロイドを負っていたし、百合子さんのお母さんも原爆病という事でさんざん差別されたらしいわ。百合子さんも『化け物の子』とか言われた時期があったみたいね。そして当時のマスコミが、面白半分に百合子さんの超能力を取り上げた。でも、最後にはインチキだって事にされて、科学的な説明とやらで否定されて、そのまま忘れ去られた。まあ、よくある話よ」
「あのさ……俺がこのセリフ言うのもどうかと思うけどさ……キリシタンの時代と言い、その原爆病の話と言い、純のお母さんのその扱いと言い、それって要するに、今で言う『いじめ』なんじゃねえの?」
「そう、前にも言ったでしょ? 大人の世界にだって、いじめなんてありふれてるって。いじめって人間の性なのかしらねえ」
那覇空港に到着した時はもう真っ暗になっていた。美紅の元の家と言うべきか、母ちゃんの実家と言うべきか、その大西風の家がある久高島へは船でしか行けず、もうその日の船は終わっていたので俺たちは那覇市内のビジネスホテルに一泊して翌日の朝、その島へ向かうことになった。
旅の目的が目的だから生まれて初めての沖縄と言っても俺は観光気分で浮かれてはいられなかった。モノレールで繁華街まで行き、そこからホテルまで歩いた。さすがに南国で珍しい木が生えていたり、街の雰囲気も本土とはなんとなく違っている。
しかし、旅の目的を見失ってはいけない。俺は自分自身にそう言い聞かせた。その時、母ちゃんが急に「キャッ」と短い声を上げていきなり走りだした。な! どうしたんだ? まさか早くも純のお母さんが?
俺と美紅もあわてて母ちゃんを追いかける。だが母ちゃんがダッシュした先はアイスクリームの屋台だった。
「きゃあ、懐かしいわね。紅イモ味に、シークワーサー味に……わあ、ほら雄二、あんたこれ知らないでしょ? ウージ味なんて東京で買うと馬鹿高いのよね。美紅はどれにする?」
あ、あのう……早くも旅の目的を見失いかけている人が約一名いるような気がするんですけど……
久高島へ渡るフェリーは沖縄本島の反対側の海岸から出ていた。俺たちはバスで安座真という港へ行き、そこから小さなフェリーに乗った。母ちゃんが言うには運よく高速フェリーに間に合ったそうだ。そして久高島の船着き場までたった十五分で着いてしまった。船で何時間もかかる絶海の孤島をイメージしていた俺は拍子抜けしてしまった。
フェリーを降りると、ノースリーブのワンピースを着た女の子が一目散に俺たちの方へ走って来た。そして叫んだ。
「美紅!お帰り!」
美紅もパッと顔を輝かせてその女の子に駆け寄る。
「小夜子ちゃん!」
ああ、この前の流星群の夜、美紅が電話で話していた幼馴染の女の子か。彼女は少し遅れて歩いてきた俺と母ちゃんにペコリと頭を下げて、元気いっぱいの声であいさつした。
「いらっしゃい! よく来たね。あたし、金城小夜子。美紅の親友!」
それから俺たちは美紅のお婆ちゃん、つまり俺にとってもお婆ちゃんなんだが、の家へ向かった。いや、しかし長崎の日差しも強烈だったが沖縄の昼間の暑さは東京とは比べ物にならない。美紅と小夜子ちゃんは大して汗もかいていなかったが、母ちゃんは久しぶりだからうっすらと汗をかき、俺はもう全身から滝のような汗をしたたらせていた。