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チュンチュン……。
気が付けば、窓の外から鳥の鳴き声が聞こえてきた。
空は白み始めており、新しい一日の始まりを告げている。
「はう……、集中しすぎちゃった……。
でも、ようやく作る物が決定――」
……と言いつつ、突然の眠気に負けながらふらふらとベッドに飛び込む。
今からなら1時間……いや、1時間半は眠れるはず……。
ああ、でもさすがにそれくらいなら徹夜してしまった方が楽かもしれない――
…………。
「――はっ!?」
気を緩めた瞬間、深い眠りに落ちてしまいそうになる。
うぅーん、今日はいっそ休みにさせてもらおうかな……。
錬金術師のみなさんにはいろいろと指南はしてあるし、今日も特に難しいものを作るわけでもないし……。
私がいなくても、何がどう変わるということも無いだろう。
それに休みとは言っても、遊びに行くんじゃなくて、魔星戦の切り札を作りに行くわけだから……1日くらいは大目に見てもらえるよね?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――というわけで各所と調整した結果、今日は自由行動をさせてもらえることになった。
ここら辺、まるでフリーランスというか、自由業のような感じだ。
ちなみにルークとエミリアさんは、いつも通り戦場へと向かった。
少し申し訳なくは思うものの、私は私で頑張ることにしよう。
まぁ、作るものは決まって素材も調べ終わったから、あとは買い物をするだけなんだけどね。
「……さて、今日買うものは――」
『闇の魔導石』と『魔響鉱』……っと。
普通に『永続封魔の矢』を作るだけなら『闇の魔導石』だけで良いんだけど、もうひと手間を加えて、別の能力も付けることにしたのだ。
そのためには『魔響鉱』という、ちょっとレアな鉱石が必要になった。
さて、『魔響鉱』は今まで聞いたことがない素材だけど、どこで売っているんだろう……?
こういうもので悩んだときは、やっぱり冒険者ギルドに行くのが良いよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
記憶を頼りにクレントスの街を歩き、冒険者ギルドへと向かう。
しばらく歩いていくと、徐々に懐かしい光景が見えてきた。
そしてそのまま、とても懐かしい建物が目に入ってくる……。
――クレントスの、冒険者ギルド。
私が初めて立ち寄った冒険者ギルドだ。
……そうそう、私はここで冒険者登録をしたんだよね。
懐かしい気持ちを噛み締めながら、私は建物の中に入っていった。
以前よりも冒険者の数はかなり少なく見えるが、それでも何組かの冒険者たちがいるようだった。
そして、入口から見える受付カウンターには懐かしいあの人が――
「ケアリーさん!」
「……え?
あ!! アイナさんっ!?」
「お久し振りです、お元気でしたか?」
ケアリーさんは私と目を合わせると、少し涙ぐみながら笑顔を見せてくれた。
まさに涙の再会だ。……私は泣いていないから、何となく自分が薄情に思えてしまうけど。
「おかげ様で何とか……!
アイナさんはどうですか? ……そうだ、仲間の方と一緒なんですよね?」
「私はまぁ……噂に聞いているかもしれませんが、いろいろとありました。
あと、私の仲間をご存知なんですか? 王国軍と戦いに行っているので、今は一緒ではないんです」
「そ、そうでしたか……。それではアイナさん、一人で来たんですね」
「はい、今日はちょっと用事があって。
機会があれば、ケアリーさんにも私の仲間を紹介しますね!」
「是非、よろしくお願いします!
それよりも、アイナさんは大変だったようですね……。その、神器を作ったり……?」
「あはは、いろいろあって作っちゃいました!
それもこれも、この街で英雄シルヴェスターと神剣デルトフィングを見たからなんですよ。
かっこいいなーって思って、それで私の旅の目標になったんです」
「そ、そんな流れだったんですね……。
あの、『世界の声』……っていうんですか? あれが聞こえてきた次の日、ここにアイナさんのことを――
……あ、ごめんなさい。何でもないです!」
話の途中、ケアリーさんは不自然にその話を切ってしまった。
「え? ちょ、あの、ケアリーさん?
その話の終わり方はちょっと……」
「す、すいませんっ」
「私もいろいろ大変だったので、多少のことではもう驚きませんよ。
気にしないで教えてください!」
「う……。あの、その……、『世界の声』が聞こえた次の日、ヴィクトリア様がやってきて……。
ずっと冒険者ギルドで騒いでいて、大変だったんです……」
「む……。う、うーん、何だかごめんなさい……?
そういえばヴィクトリアって、今は幽閉されているって聞いたんですけど」
「あのころは、街の中で戦いが起きているような状態だったんです。
神器云々の混乱に乗じて、アイーシャ様が一気にこの街を制圧したんですよ。そのあと、アルデンヌ伯爵のご家族が全員幽閉された、と……」
「え?」
「制圧したあとは、街門を閉じて王国軍が中に入れないようにしたんです。
おかげで、街の中だけを見ればずいぶん平和になりました」
「あぁ~……。
全然意識していませんでしたけど、私も一役買っていたんですね……」
「そういうことになりますね……!
ところでアイナさん、忙しそうですけど、お時間はあるんですか?」
「今日は自由時間にしてもらったんです。
クレントスに戻ってきたのは1週間くらい前なんですが、今は錬金術の工房をまわったりしていて――
……って、ここに来るのが遅くなってしまって、ごめんなさい!」
「いえいえ。私のこと、覚えて頂いただけで嬉しいですよ!
それで、もしよろしければ昼食をご一緒しませんか?」
「もちろん、喜んで!
それじゃそれまでに、私は用事を済ませちゃおうかな」
「はい! ちなみに今日は、冒険者ギルドに御用でしたか?」
「『闇の魔導石』と『魔響鉱』っていうのが欲しいんです。
多少高くても良いので、すぐに手に入れたいなって」
「『闇の魔導石』なら冒険者ギルドに保管されているものがありますよ。
『魔響鉱』……は、ちょっと待ってくださいね」
ケアリーさんはそう言うと、少し離れた棚の資料を取り出して、何かを調べ始めた。
そのまましばらく待っていると、嬉しそうにこちらに戻ってきた。
「『魔響鉱』の在庫はありませんでしたが、以前売却したお店の情報が残っていました。
あと、レアとは言ってもそれなりに量があるアイテムなので、依頼を出せば多分出てくるとは思います。
まずはお店を訪ねてみて、手に入らなければ依頼を出すのはいかがでしょうか。
もしくは、重複する可能性はありますが、同時進行しても良いかもしれませんね」
そう言いながら、ケアリーさんは過去の取引情報を教えてくれた。
冒険者ギルドとしては、金貨2枚で売却していたらしい。
「それくらいの値段であれば、同時進行でお願いしたいです。
依頼の準備、お願いしても大丈夫ですか?」
「はい、もちろんです!
それでは規則なので、冒険者カードの提示をお願いします。……アイナさんのことは知っているので、見なくても大丈夫なんですけどね♪」
ケアリーさんは事務作業を進めながら、少しお茶目な感じで笑った。
以前に比べると笑顔が多くなった気がする。
……ヴィクトリアがいなくなったからかな? いや、さすがに――……いや、無くは無いか。
「規則は大切ですよね。
あ、これは自慢なんですけど――」
「……自慢?」
私は冒険者カードと一緒に、錬金術師ギルドのカードも出してみた。
「王都の方で、ちょっと凄いことになったんですよ!」
「……うわぁ!? 錬金術師――S級!? ですか!!?」
「ふふふ♪ これだけで、いろいろあったって察せますでしょう?」
「一体何があったんですか……!
で、でもそれは昼食のときに聞かせて頂きますね! それではアイナさん、こちらの書類に記入をお願いします」
そう言いながら、ケアリーさんは依頼票をカウンターの上に出してきた。
あと何か所かを埋めるだけで、私の作業はおしまいになる。
……むむむ? ケアリーさんって、こんな仕事が早かったっけ?
「ケアリーさんの受付スキルが、とっても上がっているような気がします……」
「そんなことはないですよー。
でも私なりに頑張っているので、そう言ってもらえると嬉しいです♪」
ケアリーさんの笑顔が改めて眩しかった。
冒険者ギルドはいくつかの街で訪れたけど、やっぱりここが一番好きだなぁ。
……大体はケアリーさんのおかげなんだけど、ね。
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