目の前に居る敵に対して、キラは特別表情を変えようとしなかった。
するとメテオはキラを見た。
「それよりも!キラ君、寒くない?今、キミは全裸だからさ。服持ってる?貸そうか?」
キラはハッとした。
そういえば、僕、裸だった、と心の中で呟いた。
「うーん、分からない。服、あったっけ……」
キラは自分の胸元のマークを無意識になぞりながら言うと、ぱあっとそのマークが光り出して目の前が真っ白になった。
「……!?」
「うお!?なんだ!?」
光が収まると、キラは服を着ていた。
耳元には星のイヤリング、マフラーには星の飾り、全体的に黒い服を身にまとっていた。
キラはそれに驚いて自分の容姿を見ていると、メテオは赤い瞳を大きく開けてそれを興味深そうに見て笑った。
「い、今のどうやったんだ!?」
「し、知らない……な、なんか勝手に……」
「勝手にってなんだよ、はは!こりゃ不思議な力を持っていそうだなぁ、キラ君」
キラは自身の力を把握していない。
説明が出来るほど、自分のことを知れていないのである。
メテオが興味深そうにキラをずっと見てくる。
キラは少し困ってしまった。
だが、星との約束通り、ここを抜け出さなければならない。
キラはここを抜けだけ出すのにどうしたらいいのか考えていた。
その時、閃いた。
「ねぇ、メテオ、ここってどこなの?」
まずは場所を把握する事だった。
場所が分からなければ抜け出せない。
「ここはな、『タハト』っていう星の本部だ。この辺りの人達は皆、この銀河を作り替える為に集っている」
「銀河を……作り替える?」
キラは自分の目的に引っかかるものかもしれないと思い、注意深く話を聞く。
「そう、この銀河はとても醜い。黄道十二星座達がそれを守っているんだ。そんなもの、なぜ守る必要がある?どうせ、銀河は遠い未来で消えるというのに」
メテオは窓から見える星空に手を伸ばしながら言う。
役者もどき、というものだろうか。
「なんて、出会ったばかりのキミに言ってもしょうがないことだったな……」
「別に……いいけど」
「はは、呆れないんだ?」
メテオは改めてキラに近付く。
「そうだ、キラ君。今からこの場を案内しようか?」
その言葉は、キラにとって大きなチャンスだった。
キラは頷いて、メテオに案内してもらうことにした。
この地___『タハト』はどうやら『銀河を作り替え、新たな銀河を作り出す』というのを目的としているらしい。
それが本当かどうかはキラ自身はまだハッキリと理解していない。
母である星から『銀河を救う』ことを約束としているキラにとっては新しく銀河を作り替えられることは、とても厄介なことだった。
___案内してもらううちに、どこに何があるかを覚えていくことにした。
これから自分が抜け出す為に把握しておく必要があるからだ。
物の配置もなるべく覚えるようにしたが言うほど記憶に残ってないかもしれない。
ここは研究所のようで、この本部というものはかなり広いらしい。
初めて来るキラにとっては迷いそうで不安な気持ちでいっぱいになった。
最終的にたどり着いたのが、本部の入口だった。
「ざっくり紹介してこんな感じだな」
「結構広いんだね、迷っちゃいそうだよ」
「はは!慣れないうちはまだ俺が案内してやるから安心しろ〜!」
メテオはキラの背中をトンっと叩く。
その仕草にキラは怪訝そうにしたがノーコメントでいることにした。
キラはこの地の星空を眺めた。
どこを見ても、ただの光る星があるばかりで、彼の母である星はどこにも見当たらない。
お母さん、どこだろう、とぼんやりしているとメテオがキラの顔の前で手を振ってるのに気が付いた。
「キラ君、大丈夫か?起きたばっかりだからまだ意識が遠いのか〜?」
「え……えっと……」
少し間が空くと、ぐ〜っとお腹がなる音がした。
メテオは、うん?と不思議そうにキラの顔を見た。
「おっと、キラ君〜?お腹空いてるの?」
「た、多分……?」
「多分じゃないだろ、じゃなきゃお腹は鳴らないぞ……そうだ!さっき通った食堂行こうぜ、そこなら腹が満たせるぞ〜!」
そう言ってメテオはキラの肩に手を回して再び施設内へ戻って行った。
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目の前に出された食事はハンバーグ定食だった。
ご飯もあり飲み物もある。
ファミレスのハンバーグのような、そんな見た目だった。
意外と美味しそうな見た目にキラは興味津々にした。
「これ、なに?」
「ハンバーグだよ〜、ジューシーで美味いんだ!」
そう言ってメテオはハンバーグをナイフで切る。
肉汁がじゅわぁっと美味しそうに溢れてきて、肉の良い匂いがする。
キラは初めて見るご馳走に瞳を輝かせた。
「これ、僕も食べていいの?」
「もちろんだとも!その為にキラ君の分も用意したんだから」
敵にこんなものもらっていいのか、正直そう思ったが、今は自分も食べなければいけないなと思った。
「じゃ、じゃあ、いただきます……!」
メテオの手つきを見ながら、キラもハンバーグをナイフとフォークで切る。
同じように、中から美味しそうな肉汁がじゅわぁっと音を立てた。
「……!」
フォークでハンバーグの一切れを刺して、口の中へ運ぶ。
噛めば噛むほど肉の旨味が口の中に広がる。
キラは驚いた。
だがそれと同時に感動した。
「わ……美味しい!」
「お?星から来たキラ君でも食べれるんだね?良かった良かった〜」
キラはもらった食事を美味しそうに食べる。
それをメテオは興味深そうに見つつ、自分の食事を食べる。
「ご馳走様でした!」
キラはほんの数分ぐらいで食事を終えてしまった。
「お!?キラ君、早いね。俺はまだだから待ってて〜……ってかキラ君、ちゃんも噛んで食べてる?」
「うん?ちゃんと噛んだよ」
「それで……この速さ……凄いな」
メテオは不思議に思いながら、食事を数分で終わらせた。
「ふぅ、食べた食べた」
メテオが食べ終わったのを確認して、キラはメテオに言った。
「ねぇ、メテオ。この世界、あと何があるの?案内してよ」
キラの言葉にメテオは少し困り笑いをした。
「案内してもいいけど……今は夜だよ、キラ君。おねんねしなくていいのか?」
「あ……」
「はは、お楽しみは明日にだ。とりあえず部屋に戻ろう。いっぱい寝て、明日は色んなところに案内してやるぞ〜」
メテオはそう言って、キラを部屋に連れた。
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「え、僕、ここで寝ていいの?」
キラは自分の寝床を見た。
布団がメテオのベッドの隣に置かれている。
布団、と言ってもとてもふかふかしてそうな見た目だった。
「良いんだよ、それにソファより寝心地は良いからね〜」
メテオはそれだけを告げて自身のベッドの上に寝転がる。
キラ君も寝なよ、と言ってるみたいにメテオはキラを見つめている。
「……そっか」
キラがそう言った後、彼は布団の中に潜る。
見た目通り、ふかふかしていてとても心地が良かった。
こんなにくつろいでいいのか、そんな気持ちもあったが、布団の感触が心地よくて睡魔が襲いかかる。
キラはそのまま___眠ってしまった。
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朝になった。
キラは目が覚めた。
天井の方を見るとメテオがこちらを覗き込んでいるのがすぐ視界に入った。
「……!?」
「キラ君おはよう、ようやく起きたんだな」
「ッ、もう……びっくりしたよ……」
「あはは、驚かせてごめんね、寝顔可愛いなって思ってさ」
「え?」
「はは、さぁさぁ起きて!案内するから」
キラは少し困惑したが、この後、身支度や食事を終わらせて、二人は外に出た。
その後、キラとメテオはこの世界にはどんなものがあるのかを見て回った。
街もあれば店もあり、興味深いものが多く、キラは瞳を輝かせていた。
だがキラはその裏腹に、『ここを抜け出す』という星から与えられた試練がある。
何があるのかを覚えつつこの辺りの場所を回った。
星空が見やすい所も案内してもらった。
キラが母である星を探すためである。
まだ日がある空に向かって、キラは心の中で静かに誓うのだった。
___お母さん、僕が銀河を救うから。
続く。
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