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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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エトラとの戦闘を終え、エリザを箱に片付けたシアはすぐにミラルの元へ駆け寄った。

かなり乱暴な救出になったが外傷は特にない。


こうやってまじまじと見て初めて、シアはミラルの手の包帯や、頬や首筋に残る切り傷の痕に気がつく。


「……こんな傷だらけで、なに人の心配ばっかしてんだか……」


シアには想像もつかないような事情が、彼女にはあるのだろう。ウヌム族の里に用があるのも、ゲルビア兵に追われていることやエトラの”聖杯”という言葉と関係があるハズだ。


こんな少女が、一体何に巻き込まれているというのか。そんな状態で、何故シアや里の心配までしてしまうのか。


「とにかく、義理は果たすわよ。ほったらかすと寝覚め悪いし」


自分に言い聞かせるような言い訳を漏らしつつ、シアはミラルを背負おうとする。しかしその瞬間、上空から刺すような殺気が降りてきた。


「エトラ・グランヴィル。彼はもう終わりだね。ニ度も失敗するなんて」


半ば反射的にシアが振り返ると、そこには巨大な翼を舞わせて宙に浮く、一人の男の姿があった。


これだけ派手に化け物じみていれば考えるまでもない。エリクシアンだ。


肩にかかる程度の薄茶色の髪と、美しい切れ長の瞳。美男子と言って差し支えない見た目だ。


「美しい僕に見惚れているが……僕の瞳に映る君の姿もよく見た方が良い。君もまた、美しい」

「……そりゃどーも。後で一杯どう?」

「喜んで。僕が奢るよ。その少女と引き換えに、ね」

「――――エリザっ!」


エリザは今、エリクシアンの血を吸って興奮している。立て続けに使ってコントロール出来るか不安だったが、エリクシアンを相手にするにはこれしかない。


だが次の瞬間、男の翼から数本の羽が発射される。


それはまっすぐにエリザの箱に突き刺さり、まるで楔のように箱を閉じた。


「見ていたよ。人形遊びには付き合いたくないな」

「つれないのね。女子は人形遊びが好きなのよ」

「言わないだけで男子も好きさ。ただ、今日は遠慮しとこうかな」


そして男は、ポケットから一つの十字架を取り出す。それがなんなのかシアが考えるよりも、その十字架が力を発揮する方が早い。


「元素十字《エレメントクロス》……風《ウィンド》」


男の言葉が呪文となり、十字架が――――元素十字が力を放つ。

局所的に発生した突風が、シア達に吹き付ける。


「っ……!」


思わず腕で顔を庇ってしまう程の強風だ。しっかりと足に力を入れておかなければ態勢を崩されてしまう。


そしてこの突風で、エリザの入った木箱は数メートル先まで飛ばされてしまっていた。

エリザも木箱もかなり軽い。これだけの突風が吹き付ければ簡単に飛ばされてしまう程に。


「さて、どうする?」


これで一気に、シアには戦う術がなくなった。


恐らくあの十字架……元素十字は魔法遺産《オーパーツ》だ。エリクシアンな上に戦闘用の魔法遺産まで持っているとなると、最早シア一人では手に負えない。仮にエリザを使えたとしても、飛べないエリザと安全圏から攻撃出来るあの男が相手では圧倒的に不利だ。


逃げるのは難しい。森の中に身を隠して祈るしかないのかも知れない。


「答えが、君の瞳に映ってる。降伏した方がいいよ」

「あらそう? 一応あたしの目には”ぶっ殺す”って書いといたつもりだったんだけど」

「口が悪いのは良くないね」

「口の悪い女にしかない色気ってのがあんのよ。ばーか」


減らず口を叩くシアに、男はふっと笑みをこぼす。


「仕方ないな。あまり好きなやり方じゃないけど、強引に行かせてもらうよ」


そう言って、男が翼をはためかせた……その時だった。


「待て待て待て待て! ちょっと待て!」


突如、大ババ様の家の方から青年の声が響いてくる。


見れば、そこにいたのは二本の足でしっかりと立ち、こちらへ歩いてくるシュエット・エレガンテの姿があった。


「誰だ……君は? 手配書の少年とも違うな」

「ハッハッハッ! 俺を知らないとは幸福な奴だな。今から俺を知ることが出来るのだから!」


のたまいつつ、シュエットはシアの前に立つと、腰に下げた剣を……アダマンタイトソードを抜いた。


「シュエット! アンタ、まだ起きてきちゃダメでしょうが! こんな短時間じゃ、傷は完全には治らないわよ!」

「心配してくれるのか? ならそれが一番の秘薬だ。俺はこの通り、ピンピンしている!」


治癒の秘薬は、確かに強力な治療薬だ。人間の持つ自然治癒能力を極限まで高め、眠っている間にあらゆる傷を短期間で治す。

だがシュエットが眠っていた時間はほんの数分間だけだ。多少は治療出来ていても、決して万全ではないハズだ。


「俺の名はシュエット・エレガンテ。誇り高きヴァレンタイン騎士団で……いずれ最強になる男だ!」

「ふぅん。知らないけど」

「なんだー! その興味なさそうなリアクションは! お前も名乗れ! 失礼な奴だなまったく!」


憤慨するシュエットに、男はつまらなさそうにため息をついて見せると、渋々と言った様子で名乗り始める。


「僕はゲイラ・バーキット。マーカス隊の副官だよ。これでいい?」

「よし、では決闘だ。俺は強いぞ」

「……そうは見えないけど?」

「ふっ……聞いて驚けよ。俺はかつて……あのサイラス・ブリッツと一対一で戦い、生き残った男だ!」

「なに――――ッ!?」


声高に叫ぶシュエットに、ゲイラだけでなく後ろのシアまでもが驚愕した。


「バカな……あのサイラス・ブリッツと戦って生き残っただと……!?」


ゲルビア帝国において、イモータル・セブンの隊長とは最強クラスのエリクシアンである。特にサイラス・ブリッツの高い戦闘力は知れ渡っており、単純な近接戦闘の強さだけなら右に出るものはいないと称されている程だ。


そんなサイラスと正面から戦って、無事に生きて帰れる人間など、ゲイラからすれば考えられない。サイラスの噂を聞いたことのあるシアにとっても、それは驚くべき話だった。


「シュエット……アンタそんなに強かったの……!?」

「……うん? ああ、うん……そうだ!」


嘘は言っていない。


実際シュエットは、サイラスと戦って生き延びている。

しかし別にサイラスは能力を使っていないし、途中でチリーが乱入しなければ死んでいたのは間違いない。


(ふっ……勢いで言ってしまった!)


内心冷や汗をかきつつあるシュエットだったが、もう吐いた言葉は戻せない。このタイミングで今更事情を説明してしまうのも格好がつかない。

どうしたものかと顔をしかめている内に、ゲイラの方が動きを見せた。


「なら……油断は出来ないな……元素十字――――炎《フレア》ッ!」


ゲイラの言葉に元素十字が応える。そして元素十字の魔力が、炎となって渦巻き、シュエットへ迫った。


「う、うわーーーー!? アダマンタイトソードォォォォッ!」


慌てて、シュエットはアダマンタイトソードを振り回す。レクスのアダマンタイトブレードと違い、盾の代わりに出来る程のサイズはない。


だがアダマンタイトソードもまた、魔力に耐性のあるアダマンタイトで打たれた剣である。魔力で作られた炎に対して、アダマンタイトソードは力を発揮する。


「あッ……すごい! すごいぞアダマンタイトソード!」


シュエットのアダマンタイトソードは、なんと魔力で作り出された炎を切り裂いて見せたのだ。

滅茶苦茶に振り回したおかげか、炎は切り刻まれて小さな火の粉になって散っていく。


「炎を切った……!? どうやら、さっきの話はあながち嘘でもないようだね……!」

「そうともさ。来い、何度でも切ってやる!」


アダマンタイトソードの切っ先をゲイラに向け、シュエットは大見得を切って見せる。


しかし背中の辺りはもう、厭な汗でびしょびしょだった。


(あ、危ね~~~ッ!!!)


とりあえず、チリーが来るまでもたせよう。そう決意して、シュエットは改めてゲイラを見据えた。




***



「おいで! かわいいウサちゃん! 早くおいで! こっちですよォーーーーーーッ!」


ルベル・C《チリー》・ガーネットは、恐らく過去最悪の窮地に立たされていた。


(クソッ……! こんな、こんなふざけた状況があってたまるかッ……!)


「人参……ふふ、ありますよ……。こんなこともあろうかと、僕が厳選した最高の人参が……ここに……ふふ」


まだ推察の域を出ないが、マーカス・シンプソンの能力はあのピンク色の霧だ。そしてその効果は、吸った人間を動物の姿に変えるという、驚異的なものである。


チリーはその小さくて真っ赤でつぶらな瞳で、自分の身体が真っ白な毛に覆われているのを今まさに直接見ている。自分では見ることが出来ないが、頭の上では長耳がピクピクと動いていることだろう。二本足で立つことが出来ず、チリーは地面に”前足”をついて、着られなくなった自分の服の中から様子を伺っている状態だ。


もっとも、この状態もいつまでもつかわからない。


「中々堕ちませんね。やはりエリクシアンには効きが悪いのでしょうか」


僅かに吸った程度でこの姿に変えておいて、効きが悪いとは恐ろしい話である。


「普通は姿が変わってすぐに動物さんの本能に抗えなくなるのですが……もしかして、あまりお腹が空いてないんですか!? ウサちゃん!」


実のところ、チリーはそれなりに空腹な状態だ。

エリクシアンとしての生命力の高さ故にこまめに食事を取らずとも活動することは出来る。しかしそれは、食事が全く必要ないということではない。エリクシアンだって空腹になれば食べたいと感じるし、眠って仮死状態にでもならなければ生命活動の維持が困難になる場合もある。

そして今のチリーは、真っ白な子ウサギなのだ。今のところ思考能力までは奪われていないが、ウサギとしての本能は間違いなくある。


つまりチリーは、今死ぬほど人参が食べたいというのが本音だった。


(なんでこんなに耐えられねえんだ……!?)


エリクシアンになって以来、抗いがたい程の食欲に襲われたことは一度もない。それ故に、本能的な食欲はまるで未知の感覚であるかのようだった。


ウサギが本当に食べたいのは人参の根ではなく葉の方。という今はどうでもいいことを、チリーは実体験として理解した。マーカスが用意した人参には、切り落とされていない葉の部分がたっぷりとついているのである。


「さあ、我慢しないでください。おいで? お食べ……」


(冗談じゃねえッ! ひとまずここは様子を見て、奴の弱点を――――)




***



マーカス・シンプソンは子供の頃から動物が大好きだった。


それは今も変わらない。いつまでも動物に囲まれていたいし、全ての動物を撫でるために無数の手がほしいと思ったことさえある。


夢中で餌を食べる動物の姿は、どれだけ見ていても飽きはしない。

かわいらしい小さなウサギが、夢中になって人参の葉を頬張っているのを見ていると、マーカスは思わず頬をほころばせてしまう。


抱きしめたくなるが、動物の食事は邪魔をしないのがマーカスの流儀だ。


それでも耐えられずに少しだけ撫でて、マーカスは笑みをこぼす。


「おいしいですか? ルベルちゃん……」


ウサギは何も答えず、ただひたすらに人参の葉を食べ続けていた。

The Legend Of Re:d Stone~賢者の石と聖杯の少女~

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