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仕事帰りの大学近くの道。
白い吐息を見上げながら歩いていた悠真は、不意に聞き覚えのある声に足を止めた。
「……悠真?」
振り向くと、そこにはかつての恋人・沙耶が立っていた。
コートの襟を掴み、少し戸惑った笑みを浮かべている。
「久しぶりだね。……元気そう」
「……ああ。沙耶も」
短く返すしかなかった。胸の奥にかすかな痛みが走る。
気まずい沈黙が続いたあと、沙耶がぽつりと切り出した。
「……復縁したいとかじゃないの。ただ……どうしても言いたいことがあって」
悠真は黙って耳を傾けた。
「浮気した私が悪いのは、わかってる。全部、自業自得だって」
彼女の声は震えていた。
「でもね……あのとき思ってたの。悠真は、もっと自分に素直でいればよかったのにって。“好き”って言葉ひとつだって、ちゃんと聞けなかった」
冷たい風が頬を打つ。
悠真は返す言葉を見つけられなかった。
「もし今、好きな人がいるなら……ちゃんと、その気持ちを伝えてあげて」
それだけ言い残すと、沙耶は小さく頭を下げ、歩き出した。
取り残された悠真の胸に、強烈なざわめきが広がっていた。