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沙耶の背中が人混みに紛れて消えていく。
悠真はその場に立ち尽くしたまま、冷たい風を吸い込んだ。
(……“好き”って、言葉にしろ、か)
浮かんできたのは、笑顔で「ごはん、ごちそうさまでした」と言う咲の顔。
真剣にノートに向かって眉をひそめる横顔。
夏祭りで浴衣姿のまま屋台を覗き込んでいた無邪気な姿。
(あのときも、このときも……俺は何度も心を動かされてたのに)
けれどいつも「妹ちゃん」と呼んで、気持ちをごまかしてきた。
彼女を傷つけないため――そう言い訳しながら、本当は自分が怖かっただけだ。
悠真は空を仰ぎ、吐き出すように呟いた。
「……俺は、どうしたいんだ」
答えはわかっている。
ただ、それを口に出す勇気がまだ足りなかった。