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ペイン邸の門を出ると、ひづめの音が乾いた間隔で石畳を打つ。

昼の光は均一で、王都は変わらずせわしないくらいに人々の営みを乗せて動いていた。


ランディリックは馬の歩調を落とし、思考を整理する。


ダフネは――焚き付ければ動く。

その見積もり自体は、間違ってはいなかった。


問題は、ランディリックにでさえ予測不能の動きをすることだ。

もともと図々しい娘だとは思っていたが、想定以上に要求がストレートで、前に出過ぎるきらいがある。


本音を言えば、セレン――いや、ここではセレノ皇太子殿下と考えるべきか――。とにかく彼と並ばせ、デビュタントに同行させた方が、ランディリックとしては都合がよかった。

そうさせれば、ゴシップ好きの社交界のこと。

何もせずともセレノとダフネに関する下世話な噂が立って、周囲も勝手に二人は〝そういう仲〟だと納得しただろう。


――だが、まだ時期尚早なのだ。


ランディリックとしては、セレノ・アルヴェイン・ノルディール皇太子殿下が、正式にリリアンナを求めてくることがあったなら、その時に初めてダフネを使いたいと思っている。

すべてはリリアンナをセレノに奪わせないため。

だが、今はまだセレノ自身が、リリアンナに惹かれているであろう気持ちを公言しているわけではない。

そんな段階でダフネとの下手な火種を撒けば、間違いなく要らぬスキャンダルとなる。

こちらにとって何のリスクもない現状で、マーロケリーとの関係に余計な影を落とす必要性はない。


我がイスグラン帝国の皇太子、アレクト・グラン・ヴァルドール殿下が望む和平に、余計な傷をつける理由はない。

イスグラン帝国と、マーロケリー国とが友好的な関係になれたなら、ランディリックの国境警備役としての仕事は随分楽になるだろう。

ある意味願ったり叶ったりなのだ。


一度でもセレノとダフネが懇意にしているような証拠を押さえられてしまえば、噂では済まされなくなる。

〝そういうもの〟として固定されてしまう。


今はまだ、その段階ではない。


ダフネは癪に障る娘だが、いざというときにこれ以上ないほどの手札になる。

使い道も残っている。


だからこそ、今はまだ前に出させるわけにはいかなかった。


ダフネは、そのためにランディリックが手元に置いている駒だ。

保険とは、本来そういうものだ。

使う前に効力を失っては意味がない。


馬の首が揺れ、視界が開ける。

思考をいったん切る。


静かに進むはずだった。

歯車は、まだ噛み合っている。


ランディリックは、先のダフネとのやり取りで、軌道は修正できたと信じていた。


だが、そのことで別の火種が生まれたのは想定外だった――。

ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する

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