テラーノベル
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「若井くん。……目、覚めた?」
ぼんやりとした光の中で、知らない天井を見つめていた若井は、低く優しい声に振り返った。
ベッドの横にはひとりの男。きれいな茶髪、すっとした目元、けれどその奥にあるものだけがわからない。いや、それ以前に…
「……誰、だよ……お前」
その瞬間、男の顔が一瞬だけ歪む。だがすぐに柔らかい笑みに変わった。
「そっか。やっぱり……覚えてないんだね。……仕方ないよ、あんな事故だったもん。」
「……事故?」
「うん。俺は元貴。お前の、恋人だよ。」
全くの嘘だ。
彼らは「ただの同僚」だった。
若井が女にモテるのを、軽口叩くのを、無邪気に笑うのを、大森はずっと隠れて睨んでいた。
誰も知らない場所で、誰にも気づかれないように。
その好意は、ただの片想いなんかじゃなかった。執着、所有、そして…
「よかった、こうしてもう一度、会えて。」
「……なんで泣いてんだよ、、」
「……うれしくて。」
笑って、大森はそっと手を握る。
若井は逃げない。いや、逃げられない。
何も知らず、何も疑わず、白紙になった脳で大森を見つめるその顔が、あまりにも無垢だったから。
“ 今度こそ、最初から全部、俺のものにする”
やさしく、やさしく壊していく。
だって若井は、もう“本物の関係”なんて知らないのだから。
コメント
3件
新しい作品も好きですわぁ〜
めちゃくちゃ好きなシチュエーションです。ありがとうございます、最高です!