「帰れよ…。」
マルクとマルクソウルを倒した後、ワープスターがマルクの場所を探してくれた。
「一緒に帰ろ?」
「嫌なのサ。」
マルクを連れて帰りたかったけど、マルクは頑なにそれを拒否した。
「オマエとプププランドに帰ったところで、皆ボクを嫌ってるのサ。」
「そんなことないよ。」
なぜ一緒に帰りたいかと聞かれると、理由は無い。何となく自分のしたいことだったから。皆がマルクを嫌ってないと言えたのは、何となくそんな気がしただけだ。
もし本当に皆がマルクを嫌っていたら、マルクを酷く傷つけるって分かってるのに。
「皆がマルクを嫌ってても、1人は怖いよ。」
「……。」
マルクは数分黙り込んだ。ただぼーっと宇宙の中で揺れていた。
「カービィ、もし嫌われてたらどうすればいいのサ……?もし許して貰えなかったらどうすればいいのサ……?」
マルクは宝石みたいな大きな瞳を潤ませて僕に問うた。
「謝ればいいと思うよ。そうしたら、皆許してくれるよ。」
皆許してくれるこれだけは本当に確信があった。ワドルディたちも、デデデ大王も、メタナイトも、皆なんやかんやで優しいから。
「謝ったら、皆で一緒に遊ぼ?
マルクの得意なボール遊びして、皆でいつもする遊びをして、ちょこっといたずらもして。」
「……。」
マルクは何も言わなかった。何も言わなかったけど、ワープスターに乗った。つまりそういうことだ。マルクが少しでも心を開いてくれたことが嬉しくて、それが伝わったのかワープスターは一回転して、いつもより少し速いスピードでプププランドに帰った。
マルクはプププランドの山奥にある小屋に住んでるらしい。よく遊ぶようになったが、やっぱり僕の事が嫌いみたいでいつも会うと凄く嫌そうな顔をする。でもやっぱり一緒に遊ぶ。
今日も今日とてマルクと遊ぶ。例えマルクがそれをどんなに拒んでも。
マルクがいない。
カービィとかいう星の戦士を利用して、ギャラティック・ノヴァにお願いする。そしてポップスターを我がものにする。と言って何故か居候し続けていたローアを出た以来。数ヶ月が経った。マルクの事だから、きっとカービィとやらにも勝って好き放題できるだろうと引き止めなかった。が、マルクが帰ってこない。マルクにノヴァの話をしない方が良かったのかもしれない。
「ローア、マルクが生きてるか調べてヨ」
ローアのモニターに文字が浮かぶ
「生存しています。」
「何処にいるか分かるノ?」
「分かりません。」
ローアはそれだけをボクに伝えた。とりあえずマルクが生きていることに胸を撫で下ろした。しかし、ローアは真面目すぎる。感情があるのであればたまには分かりマスターとかつまらないギャグでも言って欲しいものだ。独りだと、笑い方を忘れそうになるから……。
「ローア、マルクを探しに行くヨォ」
「分かりました。」
そう応えてローアは異空間ゲートを開き、そこに向かって勢いよく飛び立った。
マルクが生きているなら、マルクを見つけるまで探すだけだ。
「マルク、遊ぼ?」
ボクの家の扉からちょこっと顔を出してピンクのボールは、ボクを遊びに誘った。
ボクはわざとらしく怪訝そうな顔をしながら、了承した。
まぁそのピンクボール本人は鈍感の権化みたいなもので、わざとらしく怪訝そうな顔をしたって、ボクの本心として捉えるのだから。それなのに、ボクを嫌わず何度も何度も遊びに誘ってくる。まぁ、いつも山奥の小屋でぼーっと外を眺めたり、マホロアから譲ってもらった本とかを読んだりしているだけで暇を持て余しているからいいのだけれど。
でもカービィ達と遊ぶのは少し面倒でもあった。わざわざ演技して子供っぽく振る舞わなくてはならないから。まぁ、どっかの煮卵は可愛こぶるのに慣れているだろうけど……。
にしてもカービィはボクを誘う為だけにわざわざこんな山奥にまで来るのが面倒とは思わないのだろうか。まぁ、ワープスターを使えばわけないのだろう。
とりあえず立ち上がってカービィとワープスターに飛び乗ってプププランドのいつもの広場まで向かった。
ワープスターはすごい。あんなに大きいポップスターの上をすごいスピードで飛んで、すぐ目的地に着くのだから。それ故に乗り心地は最悪だが。でも、この数週間でその最悪の乗り心地も少しは慣れてきた。
今日は時間も忘れて10時まで遊んでしまった。正直面倒臭いけど面倒臭いより、楽しいの方が勝つのだろう。夜遅いからワープスターが家まで送ってくれた。隣にカービィはいなかった……。
真っ暗な山奥で、狭い部屋でただ1人。さっきまでの騒がしい空気とは違い、冷たい静かな空気になっていた。今日は何故か眠れそうにない。狭い部屋にしては空虚で、ベッドと机と椅子。たった1冊の本。もうこの分厚い本を何度読み返したか分からない。かなり前の3月21日に貰って以来この本を丁寧に読んでいた。暇な時にはずっと読んでいた。結果なんて分かりきってる本なのになんで読み続けるのか分からないけど、多分この本が好きなんだろう。
真っ暗で、空虚な真夜中に突然大きな騒音がした。少し気になったが、外には出ず窓を眺めるだけで終わった。でも、窓をずっと眺めていた。特にそこに変わったものなど無いのに……。なんならいつもと何も変わらないのに……。何故か凄く懐かしい感じがして窓に手を添えたままボクは停止した。
今1番マルクがいそうなプププランドに来てみたが、あたりは真っ暗だった。ずっと宇宙にいたせいで時間感覚が狂ったらしい。とりあえずローアを山裏に着地させて、ここから徒歩でマルクを探すことにした。
マルクは1人が好きという訳では無いが、騒がしすぎるのが嫌いだ。だからきっと町外れのところにいるだろうと思ってとりあえず目の前の山でも探してみるかと足(?)を進ませた。
「真っ暗ダナァ」
山の中は思ったより暗くて、見つかる気がしなかった。なんなら迷子になりそうな気もしてきた。
「ア、」
持ってきていた懐中電灯の電池が切れた…。自分で電気を供給しても良かったが、そんなことしたら見つけるよりも前に自分の体力がなくなってしまう。
「ホントドコ行ったんダヨォ…」
真っ暗な中たった1人でとぼとぼ歩いてると、本当に孤独に感じる。そもそも本当にプププランドにマルクがいるとも限らないのに、ボクは何をしてるんだろう。自分がどこにいるかも分からないのに、ただ前に進むだけじゃ、何も見つからないと分かっているのに…。
数分後やっとボクはぼーっとしていたことに気づいた。さっきの音がやっぱり気になったから本を持って外に出ることにした。
どこか冷たいとすら感じる夜風にあたりながら、ボクは空高く飛んだ。あたりを見渡しているとよく見知った舟を見つけた。
そういえばずっとマホロアのことを忘れていた。久しぶりに会いたくなって、ローアの方に向かった。
ローアの中は誰もいなかった。仕方なくローアに聞いた。
「マホロアの場所知らないのサ?」
ローアはモニターにプププランドのマップを映し、マップにピンを指した。そこはボクがさっきまでいた山だった。
「何してるのサ。アイツ」
バカバカしく感じ、少し笑いそうになってしまった。でも出てきたのは涙だった…。自分がどれだけマホロアを放置していたのか分かったから…。マホロアにどれだけ大切にされていたか分かったから…。
ボクはローアのモニターの前で仰向けになった。
「マホロアの匂いがするのサ……。」
さっきまで一向に眠れなかったのに、ローアの中は安心できて気がつけばそのまま眠ってしまった。
「仕方ない、今日は帰るカァ……。」
真っ暗な場所をとぼとぼ歩いていても仕方がない。来た場所を戻るにしても、来た場所が分からないから飛んで帰ることにした。
ローアの前に立つとローアが珍しく音を出して話した。
「おかえりなさい。マスター。
舟の中に入る場合はお静かにお願い致します。」
「エ?ナンデ?」
とりあえず指示に従って静かに入った。
ボクの目の前に現れたのは、ずっと求めてた者だった。かなり前にあげた本を大切そうに抱えながら床で寝ていた。
ずっと探して、ずっと心配していたのに。コイツはなんでもなさそうにローアの中で寝ている。とりあえず居候されてた時の部屋に連れて行ってベッドに寝かせた。
ボクも自室で寝ようと思ったが、何となくなんでもなさそうに寝てるマルクに腹が立ってきて、一緒に寝てやることにした。
素直になれば、一緒に寝たかっただけだけど…。
朝になって目が覚めた。何故かベッドで寝ていたから、マホロアが運んでくれたんだろうと思ってベッドを降りようとした。
「えっ???マホロア??」
なんかマホロアがボクの部屋で寝てた。
「ウルサイ…。」
「んぐッ」
接吻された。久々にこんなヤツだったなと思って無理やり顔をひっぺがすと、マホロアはボクを見るなりニヤニヤと笑っていた。ムカつく……。
「何するのサ……。」
「仕返シダヨォ」
「は?」
「ボクを相当不安にさせた仕返シ」
……。
その後マホロアと朝食を食べながら、めちゃくちゃ怒られた。マホロアの止まない憤怒にはうんざりしたが、マホロアが相手だと演じる必要なんてない。
だからやっぱり、マホロアと一緒がいいと思った。
今日もマルクを遊びに誘おうと思って、ワープスターに乗って山奥の小屋に行った。
でも、そこには誰もいなかった。
だけど、机の上にある手紙に気づいた。
見慣れない字でそこには
カービィへ
と書いてあった。
手紙を開けて、並べられた文字たちを読む。
カービィへ
勝手に何も言わずにいなくなって悪かったのサ。ボクもここに居たいって思える場所があるから、帰ることにしたのサ。
プププランドにいた時間は短かったけど、多分カービィのおかげで楽しかったのサ。毎日毎日遊びに誘ってくれてありがとうなのサ。
また会う時があれば、また遊びに誘ってちょーよ。
マルク
「またね。」
そう誰にも聞こえないのに誰かに宛てられた言葉は、誰にも返されないままだった。
ワープスターに乗って僕は帰った。
明日からもう、あの山奥に行く事はなくなるだろう。
少し心に穴が空いたような気がした。
thank you for watching
コメント
3件
この小説を読んでくださった方々へ。 カービィの二次創作の小説で私の小説がもっと読みたいと思ってくださった方は「ばちばsoul」というアカウントで投稿するつもりなのでそちらをご覧下さい