コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ー変わりなく騒がしいバスの中ー
ラ・マンチャランドの討伐から2日が経とうとした。
私達は、未だに目的地に着けず、進んだり止まったりを繰り返している。
そんなバスの中でも囚人達は、変わりなく騒いでいた。
ドンキホーテは響く声で冒険譚について話していたり、
ロージャがグレゴールを揶揄ったり…。
何度も目にした光景が続いていた。
「では、今回はこの方針ということでよろしいですか、ファウストさん?」
「はい、その方が適切かと」
バスの前方でヴェルギリウスとファウストが会話する光景が見える。
私と同じく見てしまった何人かの囚人は察してしまうだろう。
嫌な…予感がする。
ギギイイ!
乾いた大きな音と共にバスが急に止まる。
「うわあぁぁぁっ!?急に止まるな!」
大きくいびきをかいていたヒースクリフがブレーキを踏んだカロンに怒りをぶつける。
「仕方がいない。緊急事態だから。」
「緊急事態…?またゴロツキか突っかかってきたんですか?」
「ま・そ・ひ(またか、そのまま轢けばいいだろ?)」
「戯言で無駄に時間を消費するな、とりあえず全員下車だ」
囚人達が疑問を投げかける中、ヴェルギリウスが降りろと命令を下した。
私たちは疑問と共に止むを得ず下車した。
ーある裏路地ー
「ヴェルギリウス殿、当人達がやっつけるべき悪人はどこにおられるのでありますか?」
バスから降りたドンキホーテが開口一番に不思議そうに質問した。
ヴェルギリウスは、バスの中で呆れた目で見るだけだった。
「おちびちゃん、まだそうだと決めつけるには早いんじゃない? 」
「でも、幾度の時もそうでなかったでありませぬか?」
《とりあえず、話を聞いてみよう》
ほとんどの囚人達は、なんだ?いつものやつじゃないのかと言いそうな顔をして
周囲を見渡している。
外で待っていると、ファウストが降りてきた。
「今回の事例は少々特殊なものなります」
「特殊…ですか?今までにそんなじゃなかったことありましたっけ?」
「確かに、何かあった時に毎回特殊って言ってたような気がしますね〜」
「勿体ぶらずさっさと報告したらどうだ?」
囚人達が自由気ままに喋り出したあと、やっとファウストは喋り始めた。
「道中で新たな黄金の枝と思われる気配を観測しました」
「…どういうことだ?黄金の枝は大体巣に一つにしかないと、言ってなかったか?」
「だから特殊と言いました」
「…」
ファウストの正論を受けたウーティスは引き下がった。
「で?その黄金の枝はここのどこに転がってるんだ?」
「まあ、こんな裏路地にあるとは思わないが…」
「黄金の枝はここにあると一度も言ってません」
「は?それ以外どこにあんだー」
「こことは別の…具体的に言えば鏡の世界と同類の時空にあります」
………
《えええぇ!?》
「うわっ!?急にでっかい声出すな、時計ヅラ!!!」
《ああ、ご、ごめん》
《というか、みんなは驚かないの?》
「まあ、今まで鯨の中だったり、変な遊園地にあったりしたから、まあそろそろそこまで行きそうだなって思ったし」
ロージャは淡々と私の疑問に答えた。
「落ち着きましたか、管理人様?」
《うん、まあ…》
「しかし、まだ晴らせていない疑問が一つ」
「なんでしょう?」
「その位置が鏡の世界と同類なら、なぜ我々は下車したのでしょうか?」
そういえば、確かに私たちが降りる意味が見出せなかった。
「ええ、確かに降りる必要はなかったでしょう…」
「しかし今の時点で鏡を通じて移動することは不可能です」
《え?一体どういうこと?》
「鏡は…並行世界を見するものに過ぎず。」
《へ、並行世界?》
「多次元宇宙、マルチバース、パラレルワールドとも呼べる、この世界と同じような世界が多数あるという理論だ」
「うむ、鏡は中立ちがあらば映るべくこの世界を軸にて並行世界を映したれど、
中立ちがなくば他界を映すことはあたはず。」
「黄金の枝がその異世界とやらにあるんですよね?それがあるなら鏡にも映るのでは?」
「確かにその可能性もありますが、その世界にある黄金の枝は異物として推測するのが適切かと
思われます」
《じゃあ、一体どうするんだ?》
「とても単純な事です」
ファウストがそう言ったのち、ヴェルギリウスに合図を出し…。
「カロン、次元切断だ」
「うん、じげんせつだんだん、発射」
ガシャン!
何かが起動する音と共にバスの前方からそれほどに大きい銃口が姿を現す。
そして、光が銃口に収束し…。
ビュゥゥ!
藍色の光線が銃口から放たれ、建物の壁を貫いたと思ったら…。
ギシャァァァァァン!
鏡が割れるような音と共に大きな衝撃が伝わった。
「うわああああ!?」
「ちょ、ちょっと強すぎじゃない!?」
「問題ない、K社時の爆発ほど殺傷性はない」
皆んなが飛ばされる中、目にした光景が。
光線が貫いた壁に、この世のものとは思えないほど綺麗な色を持つ穴が空いていた。
「おぉ…!とても綺麗な色をしておられますな…」
「そうですね、最近の壊し方はこんなにも芸術的なんですね〜 」
「いや、流石に違げぇだろ。というか、馬鹿みたいに回る鉄道の時のめっちゃ斬ってくるバケモンと
同じみたいじゃないか?」
「ああ、確かにそう見えなくも…」
「ふん、そいつのだったら綺麗に見えてくるな」
皆んなが感心する中、バスはいつのまにか船の形態に変形していた。
「惨めに置いてかれたくなかったら、さっさと乗るんだお前ら」
ヴェルギリウスの声と共に船が穴に向かって動き出す。
「ああああ!?待ってくだされーーーー!?」
私達は急いで船に乗り始める。
こうなるのなら最初から乗ってた方が良かったんじゃないかな…と思う中。
最後の囚人が船に乗った時には、船は既に穴を通過していた。
ー次元の狭間ー
「おお!シンクレア君!あの1人で大きく輝くお星様が見えませぬか!」
「ふふっ、とても綺麗…ですね」
穴を潜ったバス…もとい船は、広大な宇宙の中で流れに沿って進んでいる。
都市に隠されたその宇宙は、2人の言う通り確か、綺麗に輝いている。
《ねぇ、ファウスト?この船ってなんで宇宙の中でも問題なく進んでるの?》
「…では、過去に、次元切断の技術を持つ翼があったのはご存じですね」
次元切断…w社の人格から聞いたことはある。
確か、技術を見つけたは良いものの、有意義な使い方が見つけられず折れてしまった翼だったはず。
ファウストは続けて説明する。
「その翼は、独自でこの次元の狭間を探索してたのです」
「そして当時 の記録によると、‘開けた穴を始点に、川のような流れが生成され次の時空の穴まで
流れ続く’という法則を見出したようです」
《なるほど、だから船は止まらず動き続けるんだね》
「理解が早くて助かります」
「にしても、今まで見てきた中でここは一番綺麗ね〜」
「綺麗といっても、さまざまな綺麗がありますので、正確に最も綺麗とは言えません」
「ふーん?じゃあ、ファウストは何が一番綺麗だと思う〜?」
「ファウストに好き嫌いはありませんが、私は…そうですね、月が綺麗だと思います」
答えを聞いたロージャは鼻で笑うかのような、揶揄うような表情を見せたあと、再び
外の光景に目を戻した。
《月か…ちゃんと見たことないな 》
私と囚人達は、それぞれで時間を過ごし、何事もなく船は川で言う中腹まで到達した。
「……進路先に同様の穴を発見した、このまま進んでも問題はないでしょう」
前方でずっと船の進路を観察していたウーティスが、声を上げた。
「分かりました、ではこのまま速度を維持してください」
船は眠ってしまいそうな速度だが、確実に終点に近づいている。
流石に、嫌なことは起きないだろうと誰もかも思っているだろう…。
「……」
…バスの後ろで眠らず辺りを見渡すヒースクリフを除いて。
「あ?なにジロジロ見てんだ?時計ヅラ」
《いや、ヒースクリフが珍しく寝なかったから、つい》
「…流石にそんなに眠くねぇし、それに 」
ヒースクリフは一瞬言葉を詰まらせたが。
「…なんか嫌な予感がするんだ」
《嫌な予感?》
「ああ、辺りを見渡してもそれっぽい奴はいないけどさ、なんか感じるんだ」
「そうですか?私にはそういった予感は…」
ヒースクリフと話している途中、イシュメールが間に入ってきた。
「感じないのか、お前?湖生きてきたんだろ?」
「ええ、そうですよ?半生をゴミみたいに生きたいあなたと違って」
「あ?なんだお前?……はぁ」
「まあ、ゆっくりしたほうがいいんじゃないですか?」
「あぁ、うん、まあそうするよ…」
そう言われたヒースクリフだが、まだどことなくぎこちないようだ。
《じゃ、じゃあ私が見とくよ?》
「いや、大丈夫だ、時計ヅラも戻ったほうがいいんじゃないか?」
《うん…じゃあそうするね》
中々譲ってくれないヒースクリフから目を離し、バスの前方に戻ろうとした。
が。
《なんだ…あれ…》
バスの窓から見える…空間の果てに…
私達を見つめるような‘黒い球’が…
うっすらだが、確実にそこにいる。
「時計ヅラ?どうしたんだ?馬鹿みたいに止まって」
「管理人さん…?」
囚人がかける言葉にも耳を傾けず、私は急いで前方に走る。
「管理人様?どうされましたか?」
《スピードを…上げてくれ》
「ダンテが速度を上げることを推奨しています」
「できない。上げちゃうと落ちちゃう」
《それでも…上げてくれ》
「相当ダンテは混乱されているようだが……何があったんです?」
「あまり刺激しないほうがいい、素直に提案を-」
ギィ
《あ、まずい》
何かよからぬ音がバスの後方で響く。
「ん?なんだ?」
ヒースクリフの後ろ…裏口が突然切り抜かれたように消えた。
ぽっかり空いた穴からさっきの黒い球が接近しているのが見える
「うわぁ!?なんで急に…!? 」
「うおぁぁぁぁぁ!?す、吸い込まれてしまいますー!?」
「あぁ!おちびちゃんが、放り投げられちゃう!」
「くっ…スピードを上げて、少しでも早く到達することを推奨します!」
「いいえ、上げてしまうと確実に流れから外れてしまいます」
「じゃあ、次元切断弾とやらを使えばいいだろ!」
「充電は完了してる…けど」
カロンが言いかける中、ファウストが口を挟む。
「それもいい提案ですが、次元内で生成された穴は、極めて不安定です。
最悪の場合、体が圧してしまいます」
「虚空に放り込まれるより、こちらのほうが確実に成功すると思います」
「管理人!ここは、慎重な判断をお願いします!」
究極の選択肢を投げつけられしまった。
もし、選択を間違えてしまえば、私と囚人だけではなく、ヴェルギリウスもカロンも
死んでしまうことになるだろう。
スピードを維持してあの黒い球に呑まれてしまって何が起きるかがわからないし、
巻き戻して治せるものなのか?
そうして私が、必死に頭を回したあと、私はある答えに辿り着いた。
《…速度を上げて》
「…カロン」
「わかった、もし落ちたら撃つね」
カロンがアクセルを全開させ、船のスピードを上げる。
エンジンが高らかに鳴り響き、流れの中を進んでいく。
そのおかげか、黒い球は段々と小さくなっていくのが見えた。
《よし…離れてきてるね》
「ダンテ、どうやら別の問題あるようですが見えますね」
ファウストが質問してきたが、この問題は言っても意味がないと感じた。
《ううん、何でも。ちょっと危なさそうだったから》
「ふむ、記録上に災害の事例はなかったですが」
「ここはまだ未知数なので、このような判断は適切だったかもしれませんね」
とりあえず、目の前の問題は解決したが……。
「裏口が…」
イサンが無くなってしまった裏口を見て呟いた。
視線の先でドンキホーテとシンクレアが投げ出されまいと、
必死に手すりに掴まっているのが見える。
「これ、結構やばくないですか?」
「うわああああ!?誰か、助けてください!」
「鍛えてなかったお前が悪い」
「あぁ、タバコもっと持ってくればな…」
皆んなが次の問題に頭を抱える中。
「……あっ」
ゴトン
何かを乗り越える大きな音とカロンがやらかしてしまった声が聞こえると同時に
視界が上を向き始めた。
《ああああっ!?》
「やっぱり、あんあ急カーブを曲がるのはきつい」
カロンが冷静に分析しているが、そんな状況ではない。
「すごいですね〜、アトラクションはここまで進化したんですね!」
「ああ、もう駄目だぁ」
私達が決められた結末に向かう中、カロンは何かを見極めている。
「ここ」
ガシャン!
カロンがスイッチを押し、先程の弾が撃たれる。
ギシャァァァァァン
光線が空間を裂く道中で、割れる音と共に穴が開いていく。
「流石だな、カロン。さあ、お前ら」
「衝撃に注意ー」
ガシャン!
真っ逆さに落ちる船が開ききっていない穴に衝突したと同時に、強い衝撃が襲う。
「ぐふぉ!? 」
《ぐ、グレゴールーーー!!!》
「はぁ、本当に惨めですね。全く軍人らしさはどこに行ったんですか?」
この衝突で、船首…後はグレゴールがやられたが、それ以外被害はないようだ。
…可哀想なグレゴール、後で巻き戻してあげるよ…。
と、言いたいところだったが。
ピキピキ
「…穴が開いてきているな」
「…これは、駄目ですね」
《え?》
ドゴォォォン!
「うわぁ!?こ、今度は何ですか!?」
穴を通過すると共に、新たな衝撃と眩い閃光が前方から襲う。
《う、うわぁぁぁ!?》
私が意識を失っていく中、ファウストが私に向かって何かを話し始めた。
「ダンテ、私は何かを見失ってしまってもいつかあなたは見つけてくれると思っています。
何故なら…」
ファウストが言いかける中、私は衝撃に耐えれず意識を手放してしまった。
ー青く澄んだ空の下で走る電車の中ー
《う、うぅ…》
どれくらい経ったかは、分からないがようやく目を覚ました。
《みんなは、大丈…夫?》
体を必死に起こして、みんなの無事を心配したが、その気持ちは誰もいない部屋で
情けなく消えた。
《あ、あれ?ここは?》
ようやく状況に気づく。何故か私は、バスではなく見たことがない電車の中で
揺れている。
これ、ワープ列車かと一瞬身構えたが、窓を見つけた時点でその考えは消え去った。
窓からは、神秘的と言える湖のような地形と青く澄んだ空の風景が覗いている。
《ひ、人は?》
人はいないだろうか?立ち上がり、車両を進み始める。
定期的に揺れとガタン、ゴトンという音と…私の声が鳴る。
《あっ…あれは!》
何車両を通り抜け、やっと人の気配を感じた。この車両のドアの向こうに見える
一つの車両だ。両座席に人が1人ずつ座っているのが見える。
《人だ!ああ、待って》
そういえば私は囚人以外と話せないことを思い出した。
でも、ジェスチャーで会話できるかもしれない。
……私のミスでした
考えている中、右側の席に座る女性が話し始める。
青く長い髪に白を基調とした制服を着こなしているが、よく見ると
目立つ鮮血を流していることがわかる。
私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況
助けようと、扉を開けるが、何か引っ掛かっているようで開かない。
結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったこをと悟るだなんて……。
……今更図々しいですが、お願いします。
先生。
女性は、血を流しているのに、何ともないように話し続ける。
反対側に座る「先生」と呼ばれている男性は、動こうとせずただ話を聞くだけ。
もう助からないのだろうか?
きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。
何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……。
ですから……大事なのは経験ではなく、選択。
あなたにしかできない選択の数々。
責任を負うものについて、話したことがありましたね。
あの時の私には分かりませんでしたが……。今なら理解できます。
大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。
それが意味する心延えも。
……。
そして言葉を詰まらせた後、改めて話す。