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宴も終わりに近づいてきた。 桃園に戻ると、多くの仙が集まり別れを惜しんでいる。
明明は既に持ち場につき、こちらにも気付かず忙しなく動き回っていた。
覚悟していたがまだ明明を見るのは心苦しい。わざと姿の見えないおくの方へと歩みを進めて行くと、西王母と可馨が話していた。
自分がまいた種とは言え、どこへ行っても気が休まらない。苦笑いしそうになるな。
「颯懔、いいところに来たわ」
西王母に見つかって呼び寄せられた。可馨はいつも通りの顔だ。
「御用でしょうか」
「そう身構えないの。可馨と話していたのだけどね、近頃|肇海《ちょかい》村と言う所に|讙《かん》が出ているようなの」
「讙ですか。それは厄介ですね。今回は可馨に討伐を頼むのですか?」
神遷は時折、千里眼と言う遠くの場所を見ることの出来る術を使って問題の起きている場所はないか、俗世を見て回る。
明明が生け贄にされそうになっているのに気が付いたのも、俺が千里眼を使って見回っている時にたまたま見つけたからだ。
西王母が見つけたと言うことは、門下生の可馨に話しが言ったのだろうと想像がつく。
「そう。讙の肉は貴重な生薬になるからね。可馨が適任でしょう」
「なるほど、そうですね」
讙と言うのは怪の一種。怪と言うのは妖とはまた違う。妖は仙骨を持ち精気を得る為に人を襲うが、怪は仙骨を持たないけれど好んで人に悪さをする。
讙の肉は黄疸の治療薬として絶対な効果を発揮する。可馨は仙薬の材料を扱っているので、討伐人材としては一番適しているだろう。
「そんなに強い怪ではないし、俊豪ともう一人誰か向かわせようと考えていたのだけれど……私の記憶が正しければ、明明は肇海村の出身ではなかったかしら」
肇海村。どこかで聞いたことがあると思った。可馨の所で世話になっている時にでも、明明が故郷の話をしたのか。
「自分の故郷での困り事でしょう? きっと御家族もまだ存命中でしょうし、明明を一緒に向かわせてはどうかと思ったのよ」
可馨から提案されると色々勘繰ってしまう。明明と婚約関係と言う話は可馨も知っているはず。そして部屋から出て行かせた時のあの台詞。
いいや、考え過ぎか。
門下生に命令を下すのが一般的だが、この場合なら老君の門下にある明明に話しが来るのは不思議ではない。なにより西王母も聞いている。
でも、俊豪と……?
振られたのだから引き離そうなんて考えは馬鹿げている。明明の仙としての成長を考えれば、この話は受けるべきだ。
「明明も絶対に行くと言うだろう。分かった、話しておく」
「良かったわ。早い方がいいから、疲れているでしょうけど明日にも二人を向かわせましょう」
ニッコリと可馨が笑んだ。桃の花と言うよりは、棘を隠し持つ薔薇のような笑みで。
三日三晩続く、百年に一度の蟠桃会が終わった。