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仁人side💛
ヒート明けの朝。
いつもなら、まだ体の奥に熱が残っていて、だるさも抜けなくて、動くのも億劫になる。
けれど今日は妙に軽くて、息を吸っても苦しくない。
頭もやけにはっきりしている。
その違和感に引っかかりながらゆっくり瞼を開けた瞬間…
すぐ隣に、人の気配があった。
仁「んんんっ!?」
視界に入った顔に、反射的に体を起こす。
勇斗が、すぐ横で寝ている。
距離なんてほとんどないくらいの近くで。
仁「な、なんで……っ」
声が裏返る。
その音に反応するみたいに勇斗のまぶたがゆっくり開く。
勇「ん……」
少し寝ぼけた声のまま視線が合った瞬間、ふっと柔らかく笑った。
勇「おはよ、仁人」
まるで恋人に向けるみたいな、甘い声。
その一言で、全部思い出す。
昨夜のこと…
熱に浮かされて理性が飛んで、自分からあいつを求めて、縋って、全部見せてしまったこと…
仁「……っ///」
一気に顔が熱くなる。
そのまま視線を逸らしたとき、自分の体にかかっている感触に気づく。
これって……
ぶかぶかのパーカー。
袖は長くて手が半分隠れて、首元にはほんのり残る…勇斗の匂い…
仁「あっ……///」
理解した瞬間、さらに熱が上がる。
なに着てんだよっ…
昨日あいつが被せてきたやつだと思い出す。
しかもそれを着たまま隣で寝ていたという事実に、逃げ場がなくなる。
でも、その匂いにほんの一瞬だけ安心してしまった自分がいて、それが余計に嫌で、胸の奥がぎゅっと締まる。
最悪だ…
あんな姿、全部見られた。
隠してきたものも抑えてきたものも、全部。
迷惑…かけた…
視線を逸らして唇を噛む。
気づいたら涙が滲んでいた。
勇「えっ、ちょっ…どした?」
すぐに距離が詰まる。
大きな手で頬を包まれて、逃げ場をなくすみたいに優しく閉じ込められる。
勇「辛い?まだ痛い?無理してない?大丈夫?」
矢継ぎ早に降ってくる言葉、その全部が優しすぎて、
仁「……ごめん」
ぽつりと落ちた。
勇「え?」
仁「ごめんっ、汚いとこっ見せて……頼って……迷惑かけて……っほんと…っごめ……」
息がうまくできない、言葉が止まらない。
勇「謝んな」
空気を切るみたいな声。
顔を上げた瞬間、目が合う。
さっきまでの優しさとは少し違う。
でも確実に目を逸らさせない強さを持った視線で、真っ直ぐに見られていて、
勇「それ、絶対言うな」
低く、はっきりとした声に、言葉が止まる。
仁「でっ…も…」
勇「でもじゃない」
被せるように言われて、そのまま頬を包む手にほんの少しだけ力が込められる。
その温度から逃げられない。
勇「俺さ」
一度だけ息を整えるように、勇斗がわずかに視線を落とす。
勇「前から、仁人のこと好きだった」
一瞬、意味が分からなかった。
仁「え………」
思考が追いつかないまま、間の抜けた声が出る。
勇斗は、そこで逸らさない。
そのまま、言葉を重ねる。
勇「バースとか関係なく、ずっと好きだったし」
少しだけ苦く笑って、
勇「だから昨日のことも、仕方なかったとか迷惑とか、そういうので終わらせられるのは嫌」
ゆっくりと、言葉が落ちてくる。
勇「仁人と…叶うなら…恋人にも、なりたいし」
勇「番にも…なりたいって思ってる」
心臓が、強く跳ねた。
指先が、無意識にパーカーの裾を掴む。
理解が追いつかないまま、でも言葉だけが確実に胸の奥に刺さってくる。
勇「……ごめん、一気に言いすぎたかも」
少しだけ困ったみたいに笑って、
勇「今の、すぐ答え出さなくていいから…」
声は柔らかいのに、逃がすつもりはないって分かる距離感で、
勇「ただ、俺がどう思ってるかは、ちゃんと知ってほしかった」
静かに、落ちる言葉。
仁「……っ」
喉が詰まって、言葉が出ない。
そんなの…聞いてない。
気づいてもなかった。
仁「なん…で……」
ぽつりと零れる。
勇「ん?」
仁「そんなの、全然……気づかなかった……」
視線が揺れる。
どう受け取ればいいのか分からなくて、でも、嘘だとも思えなくて…
仁「普通に、接してたじゃん……」
少しだけ責めるような響きになるのは、戸惑っている証拠で、
仁「いつも…通りで……」
だから、分からなかった。
勇斗は、その反応を見て、ふっと、少しだけ笑う。
勇「そりゃそうだろ」
軽く肩をすくめて、
勇「バレないようにしてたし」
あまりにもあっさり言われて、思考が一瞬止まる。
仁「……は?」
勇「だって、バレたら今みたいに困らせるし」
少しだけ視線を落として、
勇「それに、本能でどうこうなる前に、ちゃんと“好き”として見てほしかったから」
その言葉に、また胸がざわつく。
仁「………」
言葉が出ない。
嬉しいのか、怖いのか、分からない。
ただ、逃げたいのに、逃げたくない。
勇「でももう無理」
軽く笑いながら、でも目は真っ直ぐで、
勇「気づかせた以上、引く気もないし」
少しだけ距離を詰める。
勇「これからは俺のこと…ちゃんと意識して?」
仁「……っ///」
呼吸が近づく。
勇「遠慮しないから…」
その声は、柔らかいのに、どこか逃げ道を塞ぐような強さを持っていて…
何も言えなかった。
ただ、パーカーの袖をぎゅっと握ったまま、その匂いに少しだけ救われている自分を、どうしても否定できなかった。
なんだよ…それ…
知らなかった。
なのに、胸の奥が、どうしようもなく、熱かった。
勇斗が飲み物を取ってくると、寝室から出ていった。
ドアが閉まる音がして、部屋に静けさが戻る。
その瞬間、さっきまであった温度が一気に引いていくみたいで、
仁「はぁぁ……」
力が抜けて、そのままベッドに倒れ込む。
静かすぎて、全部思い出してしまう。
昨夜のこと、自分がどんな顔して、どんな声で、どれだけ必死に求めていたか。
あんなの、自分じゃない。
いや違う。
あれも自分だ。
それがいちばん嫌で、シーツを掴む指に力が入る。
仁「気持ち悪っ……なんで…あんな……」
“もっと”って言った。
“キスして”って言った。
あんな声で、あんな顔で。
醜い…
そう思って顔を覆う。
あいつは優しかった。
全部受け止めて、何もなかったみたいに普通に接してくれて、それが余計に苦しくて、
優しすぎだろ…
あんなの見て引いてもおかしくないのに、好きだとか、選んでほしいとか、
仁「ふざけんなよ…///」
嬉しかったくせに。
胸の奥がじんわり熱くなる、それを認めたくなくて強く息を吐く。
俺なんかに…あんな言葉、向ける価値ない。
パーカーの袖をぎゅっと掴む。
まだ匂いが残ってる。
それだけで少し落ち着いてしまう自分がいる。
これ以上依存したら終わる。
分かってる。
あいつはαで、自分はΩで、この関係はどこかで歪む。
なのに…
触れられた感覚を思い出してしまう。
体が勝手に反応しそうになる。
ダメだ。
頭を振る。
仁「距離、置かないと…いけない…」
これ以上近づいたら戻れなくなる。
あいつにとっても良くない。
あんな優しいやつがこんな自分に縛られるのは違う。
離れないと…
でも、パーカーの袖をもう一度強く握る。
その匂いだけで、さっきまでの安心が少し戻ってしまう。
仁「無理…だろ…っ」
離れなきゃいけないのに、離れたくない。
その矛盾がいちばん醜くて…
目を閉じても、胸の奥だけがぐちゃぐちゃにかき乱され続けていた。
勇斗side🩷
ドアを閉めた瞬間、
勇「はぁぁぁぁぁぁぁ……」
押し殺していた息が、一気に漏れた。
静かになった廊下に、自分の呼吸だけがやけに響く。
さっきまであの部屋にあった空気も、体温も、匂いも、全部まとめて置いてきたみたいで、数歩歩いたところで足が止まる。
そのまま壁に軽く背を預ける。
仁人に伝えた…言った…
遅れて実感が追いついてくる。
「好きだった」って、
「恋人にも、番にもなりたい」って、
あんなに、全部まとめて。
勇「いや、まとめて言いすぎだろ…笑」
小さく笑うけど、全然笑えてない。
仁人の顔が浮かぶ。
驚いた顔。
戸惑って、追いついてなくて、でも、ちゃんと聞いてくれていた。
逃げなかった。
勇「……っ」
無意識に、息が詰まる。
あの反応。
気づかなかったって言ってた顔。
勇「……だろうな」
ぽつりと落とす。
バレないようにしてたし、バレたくなかった。
あいつが今みたいに困るのを、分かっていたから。
でも、もう隠すのは、無理。
あそこまで近づいて、あんな顔見せられて、何も言わないまま引くとか、無理に決まってる。
勇「ふぅぅぅ……」
もう一度、深く息を吐く。
正直、余裕なんてない。
あのまま、もう少し距離詰めていたら、多分止まれなかった。
思い出すだけで、喉が鳴る。
熱に浮かされた目。
縋るみたいに掴んできた手。
俺の名前を呼ぶ声。
勇「やめろよな…」
軽く頭を振る。
今は違う。
欲しいのは、あれじゃない。
ああやって、本能で縋られて、流されるまま手に入れるのは…違う。
ヒートでもなんでもない時に、仁人の意思で、「勇斗がいい」って言ってほしい。
それだけ。
それだけなのに、
勇「きっとまだまだ先だな…笑」
苦く笑う。
だって、さっきの反応。
完全に、まだ整理できている様子ではなかった。
嬉しいとか、嫌とか、そういう前の段階で、ただ、追いついてない顔。
勇「また考え込むやつだろ、あれ」
視線を落とす。
分かる。
あいつのそういうとこ。
一人で抱えて、勝手に結論出して、勝手に自分を悪者にする。
“汚い”とか、“迷惑”とか…
勇「どこがだよ…」
思わずため息混じりになる。
あんなの、“可愛い”以外の何でもなかった。
隠そうとして、でも隠しきれなくて、それでも俺の名前呼んできて、
勇「……っ///」
思い出すだけで、体が反応しそうになるのを抑えて、目を閉じる。
でも、それでも。
勇「奪うのは違うよな」
はっきりと、言い切る。
あいつが、自分で選ばない限り、意味がない。
まあ…逃がす気は、ないけど。
どれだけ距離取られても、どれだけ避けられても、やめるって選択肢はない。
勇「絶対、落とす」
小さく笑う。
さっき言った言葉…「遠慮しない」。
あれ、本気だから。
あいつが逃げるなら、追う。
ただし、奪わない。
ちゃんと、選んでもらう。
全部分かった上で、それでも「勇斗がいい」って言ってくれたら…その時は、
勇「もう我慢しねぇけど」
小さく呟いて、壁から体を離す。
歩き出しながら、ふと、さっきの最後の顔を思い出す。
戸惑って、でも、ちゃんとこっち見てて、逃げきれてなかった顔。
勇「あれ、反則だろ///笑」
苦く笑う。
ドアの向こう。
きっと今、あいつはまた一人でぐちゃぐちゃになってる。
勇「待ってろよ」
小さく、呟く。
ちゃんと迎えに行くから。
その言葉は、口には出さずに、胸の奥に落とした。
ちゃ
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