私
の名前はアリサ。
「アリサ」という名前は自分でつけたわけじゃないわ。パパがつけてくれた名前よ。
ママは私が生まれる前に死んじゃったから……私はずっとパパと二人で暮らしてきたの。
でもね、私はパパのことが好き! 大好き!! パパには内緒だけど、パパのお嫁さんになるのが夢だったりするのよね♪ だってパパはカッコよくて優しくて強くて素敵だもん♡ それに私が生まれたとき、パパはすごく喜んでくれたらしいの。私が生まれて本当に良かったって言ってくれたの。
それから毎日のように「愛してる」「かわいい娘だよ」なんて言われたら好きにならないほうがおかしいと思うんだけど、どう思う? パパみたいな素敵な人と結婚できたら最高だと思うけど、今の世の中じゃ難しいかも……。
でも大丈夫! 今は無理かもしれないけれど、いつかきっと幸せになれるはず! そう思っていたのに――
ある日突然、パパがいなくなってしまったの。
どうして!? なんで!? どこに行ったの!? 最初は仕事の都合で遠くに行くことになっただけだと思っていたのだけれど、それっきり連絡が取れなくなってしまった。最後に会った時の様子がおかしかったから何かあったんじゃないかと思って心配していたら……。
『ごめんね』
短いメールだけが届いていた。謝っているということはやっぱり何かトラブルに巻き込まれたんじゃないだろうか。
電話してみてもつながらない。メッセージを送っても既読にならない。一体どうしたらいいのだろうか。このままだと心配すぎてどうにかなりそうだった。
その時ふと思い出したことがあった。そうだ、あれがあったはずだ。
私は引き出しの奥にしまっておいた小さな箱を取り出して中身を確認する。良かった、ちゃんとある。これがあればきっと何とかなるはずよ!
***
それから数日後、ようやく待ち望んでいた日が訪れた。今日は私の誕生日だ。
本当はもっと早く会いたかったんだけど、お互いに仕事の関係で予定を合わせるのが難しくなっていた。それでも誕生日当日だけはどうしても一緒に過ごしたくて無理矢理スケジュールを調整してもらったのだ。
「おめでとう!」
「ありがとうございます」
今年もこうして一番最初に祝ってくれたのは彼だった。去年までは二人でどこかへ出かけたりレストランで食事をしたりと特別なことをしてきたけど、今年からはお互いの家に遊びに行って家でゆっくり過ごすことにした。もちろんケーキを買ってきて一緒に食べることに変わりはないけれど、それでもやっぱりいつもとは違う特別な日になった。
今日は彼の家に泊まる予定だ。明日は朝から買い物をしてそのまま家に帰ることになっている。別に恋人同士なのだから何も問題は無いのだが、この歳になって親の目が無いところで二人きりというのはちょっと緊張してしまうものだ。
「もうそろそろ着くよ」
「うん、わかった」
彼が車の運転をしながらそう言う。私は窓の外を流れる景色を見ながら返事をした。それからしばらくして車は彼の家の駐車場に着いた。
車を降りると外はまだ明るいはずなのに薄暗くて少し肌寒かった。私は上着の前をぎゅっと掴む。それを見た彼が自分のしていたマフラーを取って私に差し出してくれた。私が首に巻こうとすると、彼は先に私の肩にかけてくれた。そして今度は自分がしてあげたいと言ってきたので、私は素直に従うことにする。
彼は慣れない手つきで私の首にマフラーをかけてくれる。顔が近いせいもあって恥ずかしくて思わず俯いて目を逸らしてしまった。だけど彼はそれがおかしかったようで小さく笑っていた。
「ごめんね、上手くできなくて」
「大丈夫だよ。ありがとう」
「あとこれプレゼント」
「えっ?」
私は驚いて声が出なかった。だってまさか誕生日でもないのにこんなものを貰えるなんて思ってもいなかったからだ。
「開けても……いいかな?」
「うん、いいよ」
丁寧に包装紙を開けると中には可愛らしい箱が入っていた。
蓋を開けてみると中には綺麗なチョコレートケーキが入っている。
「わぁー!美味しそう!」
思わず感嘆の声を上げると、隣から声がかかる。
「あら、良かったじゃない」
「うん。ありがとうね、絵美ちゃん」
「いえいえ、こちらこそ手伝ってくれて助かったわ」
今日は2月14日バレンタインデー。
友達の絵美ちゃんに誘われチョコ作りを手伝ったのだ。
「それじゃあ早速食べましょうか?」
「そうだね」
私達は椅子に座って食べる準備をする。
「それにしても……まさか本当に成功するなんてねぇ……」
「え?どういうこと?」
何か意味ありげなことを言い出した絵美ちゃんに聞いてみる。
「だってあんたが作ろうって言い始めた時は絶対失敗すると思ったもん」
「ちょっと!?」
酷い言われようである。
しかし反論できないところが悲しいところだ。
何故私が急に手作りチョコを作ろうと思い立ったかというと話は少し前に遡る。
***
『はいこれ』
いつも通り学校が終わった帰り道で突然差し出された小さな包み。可愛らしいリボンで飾られたそれに一瞬戸惑ったものの、俺は素直にそれを受け取った。
「えっと……ありがとう?」
俺の手に渡った瞬間、少女は顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。まるで告白に成功した女の子みたいだ。だけど別に俺たちは付き合っているわけじゃない。
じゃあなんでこんなことをしてきたんだろうか? そんな疑問を抱きつつチラリと横目で少女を見つめると、彼女はそわそわし始めていた。何か言いたいことがあるみたいだけれどなかなか切り出せないらしい。
「ねぇ……」
「うん?」
「どうして急に黙っちゃうのよ!」
そう言って頬を膨らませて怒っている様子の彼女を見て思わず苦笑してしまう。こういうところはまだ子供っぽさが抜けていないようだ。
「ごめんね。ちょっと考え事をしてたんだよ」
「またそういうこと言う! さっきからずっと私を無視しているじゃない」
「無視なんてしていないよ。ただ僕は君に見惚れていて……」
「もうっ!! またそういうことを言う!!」
僕の言葉を聞いて真っ赤になった彼女は、顔を手で覆ってしゃがみ込んでしまった。
「あれ? どうしたの?」
「どうしたのって……今の言葉、本当なのかしら!?」
「えっと……どういうことかな?」
「だって……さっき見惚れていたとかなんとか言っていたような気がするのだけれども」
「ああ、それのことか。もちろん本当のことだとも」
僕がそう言うと今度は耳まで赤く染まった彼女の顔がこちらに向けられた。
「ほ、本当ですか?」
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