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# omr _ .
9
山奥を出てから、一週間が経とうとしていた。
四人は人目を避けながら移動を続けていた。
昼は森の中。
夜は使われなくなった山小屋や廃駅で休む。
追手はまだ完全には振り切れていない。
それでも
以前より少しだけ賑やかだった。
「レイ、それ食べられる?」
ヒロトが焚き火の前で聞く。
レイは串焼きをじっと見つめていた。
『……わからない』
「わからないじゃなくて食べてみるんだよ」
『たべる?』
「うん」
レイは恐る恐る一口かじる。
そして
『……おいしい』
「だろ!」
ヒロトが少し嬉しそうに笑う。
最初は誰も近づけなかったレイだったが、今では少しずつ言葉も増えていた。
感情も、表情も。
まだ不器用だけれど、 ちゃんと人らしくなってきている。
少し離れた場所では、モトキが寝転がっていた。
狼耳をぴくぴく動かしながら空を見ている。
その隣には涼架。
「涼ちゃん」
「んー?」
「平和だね」
涼架は空を見上げた。
夕暮れだった。
赤く染まる雲、 風に揺れる木々。
確かに平和だった。
…少なくとも今は。
「そうだねぇ」
涼架が笑う。
その横顔を見て、モトキも笑った。
そんな時間が好きだった。
何も起きない時間。
戦わなくていい時間。
ただ一緒にいられる時間。
久しぶりのゆっくりした時間を満喫していた。
だから。
その違和感に気づくのが少し遅れた。
遠い。
森の奥。
かすかな光が見えた。
涼架の表情が変わる。
「……モトキ」
モトキの狼耳が立つ。
「いる」
空気が張り詰めた。
ヒロトも立ち上がる。
レイは無言で森を見る。
そこには、 誰もいない。
なのに。
気配だけがある。
見られている。
そんな感覚。
「移動しよう」
涼架が立ち上がる。
だが、
次の瞬間だった。
パンッ!!
乾いた音。
銃声ではない。
何かが破裂したような音。
足元から白い煙が噴き出す。
「っ!?」
ヒロトが咳き込む。
モトキが鼻を押さえた。
甘い臭い。
薬品?
その瞬間。
涼架の顔色が変わる。
「みんなっ!、吸わないでっ!!」
遅かった。
煙が森中へ広がる。
視界が白く染まる。
『なんかへんなにおい…』
とレイがつぶやく。
モトキ、ヒロトも身体への影響は特になかった。
だけど、涼架は違った。
身体が動かない。
視界が揺れる。
「なん……で…」
涼架は、その薬を知っていた。
施設時代に存在したもの。
獣人用ではなく、
人間専用。
研究員を生け捕りにするための特殊薬剤。
つまり。
最初から狙いは…
「涼ちゃんッ!」
モトキが手を伸ばす。
そのとき
森の中から黒い影が飛び出した。
10人以上の武装部隊。
拘束具や 電磁ネットを持ち出してきた。
一瞬で涼架の身体が引き倒される。
「離せ!!」
モトキが飛び込む。
だけど、煙を吸いすぎてしまっていた。
モトキの足がもつれる。
ヒロトも動けない。
レイが飛び出そうとした、その時。
森の奥から声が響いた。
「撃つな」
全員が止まる。
聞き覚えのある声。
榊だった。
黒いコート。
銀縁眼鏡。
顔には静かな笑み。
榊は倒れた涼架の前にしゃがみ込む。
「やっと見つけた」
涼架は睨みつける。
「……榊」
「君が必要なんだ」
その目には狂気のような執着があった。
研究対象を見る目ではない。
もっと歪んだ何か。
榊はそっと涼架の髪に触れる。
「君だけなんだよ」
レイが動く。
空気が震える。
だが
その瞬間
森中に無数の赤いレーザーサイトが現れた。
レイへ。
モトキへ。
ヒロトへ。
そして、涼架へ。
何十人もの狙撃手が狙っていた。
榊は静かに言う。
「動けば撃つ」
モトキの拳が震える。
レイの赤い目が光る。
それでも、 動けない。
涼架がいるから。
榊は立ち上がった。
「連れて行け」
兵士達が涼架を拘束する。
モトキが叫んだ。
「涼ちゃん!!」
涼架は最後に振り返る。
そして、
無理やり笑った。
泣きそうな顔のまま。
「……大丈夫だから」
その言葉が、 最後だった。
車のドアが閉まる。
エンジン音が響いた。
そして。
榊達は夜の森へ消えていった。
まるで何事も無かったかのように森が静まりかえる。
誰も動かない。
数分後。
モトキが立ち上がる。
その顔から笑顔は消えていた。
狼耳が真っ直ぐ立つ。
金色の瞳に宿るのは決意だけ。
「迎えに行く」
ヒロトが顔を上げる。
レイも振り返る。
モトキは前を向いたまま言う。
「絶対に」
夜風が吹いた。
こうして。
涼架を取り戻すための戦いが始まった。
コメント
1件
うわあ、この第12話、めちゃくちゃ心臓に悪かったです……。ようやく四人に平和な時間が戻って、レイが「おいしい」って笑ったところでほっとしてたのに、まさかあのタイミングで榊が来るとは。涼架が「大丈夫だから」って泣きそうな顔で笑ったシーン、胸が締め付けられました。モトキの「迎えに行く」の一言に、もう次が気になって仕方ないです。続き、早く読みたいです!