テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
210
808
今回シリアスです
mzybのnmmn
ガッツリzmem
以上が大丈夫な方はどうぞ
ーーーーー
『知らない君を捕まえたい』
ああ、寒い。
窓から差し込む街の灯りを眺めながら毛布を身体にきつく巻き付ける。それでも消えない腹の底から冷えていくような感覚に細く息を吐いた。
たまに、こんな夜がある。
どんな夏場でもどんな暖かい部屋でも寒くて仕方ない夜。昔からそうだ。いつもは暑がりの体はこんな時に限って震えが止まらなくて、布団を被っても寝られない。
この街に来てからは、こんなこと無かったんやけどな。
越してきて数年、人と人外の入り交じるこの街は賑やかだけどトラブルだらけで、自分の勤める市役所はいつだって忙しく騒がしい。それを共に乗り越え街を支える仲間達はいい人ばかりで、たまに罵り合ったり仕事を押し付けられたりしながらも楽しく働いている。
だから、こんな寒い夜はもう来ないと思っていたのだけれど。
大先生とトントンさんが出張に行った。ショッピくんがシステムの調整でしばらく籠っていて、シャオロンさんとゾムさんは人手が足りなくなって街のあっちへこっちへと忙しなく行き来している。書類仕事が主な自分はずっと市役所に居るけれど、彼らが市役所に戻って来ることは少ない。雑談すら出来ず書類を渡すだけなのがほとんどで、今日なんて業務報告すらメールだけだった。
「ーーー寒い、な。」
こういう時の対処法を、一つだけ知っている。
ベッドから降りてクローゼットを漁る。緩めのシャツにカーディガン、細身のジーンズ。いつもの服はどうやら目立つようなのであまり着ない服を選ぶ。オールバックの髪は下ろして、靴はスニーカー。眼鏡はそのままでいいか、と鏡を見る。うん、これならパッと見では市役所のエーミールだと分からないだろう。財布とスマホだけ持って外に出る。
夜の街は光と音に溢れていた。看板のネオン、店から漏れる光、賑やかな人々の声。そういうものを通り過ぎて小さなバーの前に立つ。市役所で運営しているバーではなく、この街に来た最初の頃、こういう夜のために調べておいた店。
この店に来るのは初めてだが似たような店には何度も訪れたことがある。
ーーー誰かと一夜の出逢いをするための店。
カラン、と音を立てて扉を開いた。
「ーーーエミさん?」
ふと、夜の喧騒の中に見知った人物を見つけた気がして呟く。
こちらに気づかず歩いてゆく姿は見慣れぬ服装に身を包んでいるが、そんなことで俺がエミさんを見間違える訳がない。
後ろ姿を追って歩き出す。最近は忙しくて碌に顔も合わせられていなかったから、丁度今会いに行こうとしていたところだ。エミさんはこんな時間にどうしたのだろうか。いつもなら寝ている時間だが、どうしても買いたいものでもあったのか。いや、きっとエミさんも俺に会おうと思ったに違いない。
いやーすれ違わなくて良かったーと思いながらエミさんが入って行った路地裏を覗き込んだ。
カラン
そこにあったのは小ぢんまりとした店の扉。ドアベルの余韻が残る路地裏には誰もいない。どうやらエミさんはこの店、バーに入ったらしい。
なんや、俺に会いに出かけた訳じゃないんか。
少し残念に思いながら看板を見ると、何故かその店名が引っ掛かって首を傾げる。何だったか、どこかでこの店名を見た気がーーー
「…あ、」
ーーー確かここ、ゲイバーやなかったっけ?
市役所でバーを運営することになった時、参考に市内のバーを検索しまくって引っ掛かった店の一つだ。
え、エミさん女にモテなさすぎてついに男に走ったんか?それともただ酒が飲みたくて知らずに入ったとか?どっちにしろどうすればいいか分からなくてわたわたするエミさんが見れそう。えーそれ見たいわー。
よし、変装でもして入るか。
大きな白い布をコートの中の闇から取り出して頭の上から被る。コートはそのまま闇の中に収納し靴も中へ、手袋はそのまま。布の目に被る場所に穴を開ければ“オバケのような見た目の人外”が完成だ。
キィ
ドアベルが鳴らないようそっと扉を開ける。
店内には人間と人外合わせて十もいない程度の客。開いた扉に気付かず談笑していて、見た目は人のバーテンダーだけが軽い会釈をしてきた。
なんか、普通のバーやな。
何となく端の席に座って店内を眺める。カウンター席にエミさんが座っているのを見つけたが、一人で静かに酒を飲んでいるだけで何か面白いことを起こしてくれそうな気配はない。期待していたものは見れなさそうだとぼんやりしていると、近くの席の会話が耳に入ってくる。
「あの人、初めて来た人じゃない?」
「カウンターの?確かに見たことないな。でもなんか、落ち着いてるっていうか…慣れてそう。」
「だよね。街の外から来た人かな。」
「引越して来たばっかり、とか?声かけてみよっかな。結構好み。」
「君おじさん好きだったっけ?」
「いや、でも真面目そうなのに隙のある感じが良いなって。じゃ、行ってくる。」
声の主の一人、体格の良い男がカウンターに近づいて自然な仕草で席に座った。
「どーも、オニーサン今一人?」
「こんばんは。見ての通り一人ですよ。」
挨拶を返したエミさんが緩やかに笑う。その笑顔が何だか見慣れないもので心がざわつく。
「初めて見る顔だなーって思ったんだけど、最近この街に来た人?」
「いえ、ちょっと前から住んでて。この街に来てからこういう店には来て無かったんですけど、今日はちょっと…」
「人肌恋しくなっちゃった、とか?」
ずい、と男が顔を寄せた。
あからさまな色目。さてエミさんはどう返すのか、とそば立てた耳に信じられない言葉が届いた。
「そうなんです。だからーーー」
少し潤んだ流し目、匂い立つような声音。
「ーーー温めてくれませんか。」
つ、と手の甲をなぞる指先に、ごくりと唾を飲み込んだのはその男か、俺自身か。
「じゃあ…痛っ!」
エミさんの肩を掴もうとした男の手を弾く。
睨んでくるそいつを睨み返してエミさんを見下ろした。
「何してるん、ここで。」
「あ…」
きょとんとした顔が「ぞむさん…?」と口だけ動かしたのを見てカウンターに札を置く。
「行くで。」
酔っているのかふわふわした足取りの体を引っ張って夜の街へと歩き出した。
ーーーーー
ちょっと続きます
コメント
3件
すみません読むの遅くなりました💦 すごく大人な雰囲気でめっちゃ好きです💕エミさんの「温めてくれませんか」のところが普段からは感じられない大人の色気があってひとりで悶えてました。続き楽しみに待ってます!!
うわ、第6話めっちゃ好きな雰囲気……!エミさんの「温めてくれませんか」ってあの潤んだ目線であの声、マジでやばいやつやん。本人は酔ってるのかなんなのか分からんけど、あれはゾムさんが止めに入って正解だったわ。逆にゾムさんの方が落ち着いてない感じがして、そこがまた萌える。次で続くってことでしょ、続き早く読ませてくれ〜!🔥