「旦那様、ユウとは終わったか? ……どうした、2人とも」
ナジュミネを先頭に全員が戻ってくる。彼女はムツキとユウの少し悲し気な顔を見て、思わず2人に訊ねた。
「何もないぞ」
「何でもないよ」
2人とも妖精たちにご飯を食べさせてもらいながら、少し奥で腕を組んでふんぞり返っているケットをチラチラと見て、これ以上、怒らせないように気を付けていた。
「そうか」
ナジュミネはケットも含めて何かあったと勘付くも問いただすことはせずにただ一言呟いた。
「……ダーリンは何で猫ちゃんに食べさせてもらっているの? 甘えん坊さんなの?」
メイリは不思議そうに訊ね、ナジュミネが小さく口を開く。
「あ、そうか。旦那様の呪いの話をしていなかったな」
「ムツキさんの呪い?」
ムツキとユウは朝食を食べているので、ナジュミネとリゥパがムツキの呪いについて説明する。サラフェ、キルバギリー、コイハ、メイリは思わず唸る。
「なるほど……。最強である代償に、生活に関する行動がほぼできないのですか……」
サラフェは顎に指を当てて思案する。自分も楽できるのではないか、と。あと、彼女はムツキの世話をするかどうかをイメージしたが、自分が甲斐甲斐しく世話をしているところは全く想像できなかった。つまり、彼女にやる気はない。
「サラフェも似たようなものじゃないですか。できないのではなく、しないだけですけど」
キルバギリーは、まるでサラフェの思考を読み取ったかのような物言いをする。
「うっ……キルバギリー……先ほどからちょっと辛辣になっていませんか?」
「いえ? この点においては前々から言っています。世話する身にもなってください」
サラフェとキルバギリーの関係性は、主従関係も友人関係も混ざったような気の置けないもののようだ。
「うっ……キルバギリー……それは俺にも効くんだけど……」
ムツキもまた、キルバギリーの言葉に被弾する。一方のユウは気にした様子がない。
「マスターはしたくてもできないのですから仕方ありません。むしろ、そういう呪いをかけた人が悪いのです」
「うっ……キルちゃん……それだと私が辛い……」
次はユウがキルバギリーの言葉に被弾した。
「当然です。神とはいえ、反省してください」
「うわーん! レブテメスプみたいな物言いが私の心にグサッと突き刺さるーっ!」
「ユウ様、食事中に立ち上がったらダメニャ」
「……はい」
「ご主人もさも当然のように受け止める準備をしニャいニャ。食事中ニャ」
「……はい」
ムツキに慰めてもらおうと椅子から立ち上がろうとしたユウと、それを受け止めようとするムツキに、ケットが容赦なく釘を刺す。先ほどのムツキとケットからのお叱りもあって、彼女は今のところとてつもなく大人しい。ただし、いつまで続くかは誰にも分からない。
「まあまあ……、だけど、妖精族がこんなにいるのも納得だね。妖精王ケット・シーまでいるのはびっくりだけどね。最近、樹海にいないって聞いていたけど、こんなところにいたんだ」
メイリは終わらない漫才を止めるように、強引にケットの話に持っていく。
「ニャ? ん-、もしかして、前に会ったことあるかニャ?」
ケットはメイリの方を見て、首を傾げる。それに合わせて、彼女もまた首を傾げる。
「ん-、どうだろ? 会ったことあるようなないような?」
「どっちなんだ?」
メイリの曖昧な回答にナジュミネが思わずそう訊ねたが、結果は変わらず、首の傾げているのもそのままである。
「うーん。分かんないなあ。僕、1,000年も生きているんだよ? よほどのことがなければ、誰と出会ったとかなんて、覚えてなんかないよー」
「せ、1,000!? 1,000!? え、1,000!? ……1,000?」
ムツキは思わずメイリの言葉に耳を疑う。そして、ナジュミネと同じように驚いた。リゥパが思わず笑顔になって笑い始める。
「フフフ……ムッちゃんとナジュミネが同じ反応なのね……。飼い主に似たのかしら?」
リゥパがそう言うと、ナジュミネは彼女の方をすぐさま見た。
「……何? そうか、妾は旦那様に似てきているのか! そう見えるのか、なんだか照れるな……」
「いや、褒めてないのよ? もう少し言葉の意味を汲み取って? どうして、ムッちゃんが話に絡むと知能がガクッと下がるのよ……」
ちょっとしたからかいのつもりで放った言葉がナジュミネにはまったく効いておらず、リゥパは肩をがっくりと落とした上で、この話の持っていき方を悩んでしまう。
「ぷふっ……こんなに多いと、至る所で漫才が始まるな」
コイハが笑い、メイリの方を向く。メイリも面白かったのだろう。彼女もまたコイハの方を向いて笑顔を見せる。
「楽しい生活になりそうだね、コイハ」
「そうだな、メイリ」
その言葉に全員が微笑ましい表情になった。
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