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珍しく3日程ミセスでの活動がなく、たまにソロの仕事をこなしながら今日も終え、ベットに潜り込んだ時だった。元貴からの連絡があったのに気づく。夜遅くに送ってくるのはざらではないが、正直今呼び出されたらちょっとしんどいななんて思いつつ通知を確認した。
『若井、ちょっと話がある。仕事は関係無い。手が空いたら連絡して。』
走り書きのような、端的な文。普段とあまり変わらないが、俺は確かに違和感を抱いていた。仕事に関係ないってじゃあ元貴の恋愛相談でも受けるのか?元貴なら有り得そうと思いふっと笑ってしまう。
この時は、まだ事態を知る由もなかった。
◻︎◻︎◻︎
元貴に電話をかけると、しばらく待ってもコール音が止むことは無かった。不思議に思いメッセージを送るとすぐに既読がつく。なら出てくれてもいいじゃないか、と少しムッとしたが送られてきた内容で全ての合点が一致した。
『今涼ちゃんと病院にいるの。入院することになって、病室にいるから電話は出来ない。今は説明を受けてる。急に倒れたとかではないから。』
入院で、病室にいる。なら仕方ないか。
……はっ?え、なんで?涼ちゃん盲腸にでもなったの?
一瞬受け流してしまいそうな程簡単に言うもんだから、大事な原因について聞くのを忘れるところだった。
『なんで?え、3日位前までは元気だったよね?ていうか俺も行く。入院でしょ?流石にお見舞い行かせてよ』
1秒1秒待たされるのにもどかしく思う。電話に出れないならせめて早く返信してくれ。やっと帰ってきたものはあまりにも素っ気なかった。
『若井の家から大分遠いから明日来て。住所とりあえず送っておく。』
と共に確かにバスで1時間くらいかかる場所だと分かるリンクが送られる。いや、結局どういう理由で入院するのか教えてくれよ。でもきっとこれ以上何を聞いてもはぐらかされるだろう。
目が冴えきってしまい、いても経ってもいられず適当な服に手を伸ばす。電話でタクシーを呼び、急いで運転手に住所を伝える。
「なんだか今日は忙しい日だね。昼にもお兄さんくらいの人が慌てて乗り込んできてさぁ」
話すタイプか…。普段なら別に気にしないしなんなら話し掛けてしまうくらいだが、返事をする気力もなく適当な相槌を打ってやり過ごした。BGMのように聞こえる雑談を感じながら、少し懐かしさを覚えていた。元貴が盲腸になったと聞いた時もこんな感じだったっけ。突然涼ちゃんから連絡が来て、あの時と立場逆じゃん。
なんだか、2人の間に俺に対してのものとは違う深い絆が見えたような気がした。疎外感を押し殺し、窓の景色に集中する。それどころじゃないだろ、涼ちゃんが大変なんだぞ。
「お兄さん着きましたよ〜」
そう呼びかけられ、はっとする。1時間とは思えないくらい、ぐるぐる考えすぎていたようだ。お金を渡し、気分を切り替えるために深呼吸する。夜でも明るく異質な雰囲気の病院に、1歩踏み出した。
◻︎◻︎◻︎
受付の人に名前を言い、事情を話し時間外だがお見舞いとして手続きをして病室に向かう。涼ちゃんは芸能人用やお偉いさんが入院中する時の部屋で、別棟な上に最上階の為かなり歩いてやっと辿り着いた。
「お邪魔します…」
限りなく小さい声で呟く。個室なので他の患者さんがいる訳ではないが、寝ていると涼ちゃんに悪いのでそうっと扉を開けた。中は暗く、一人部屋にしては広い。ベットはカーテンで隠されているがライトがついていて人の気配がする。隙間があったので思い切って覗き込んだ。
そこには、小さな天使の羽を生やした涼ちゃんと、椅子に座って寝落ちたような格好の元貴がいた。こちらに気付いた涼ちゃんが本を閉じぱっと笑顔になる。と同時に俺の醜い感情に後悔する。
羽が生えていた衝撃よりも、後悔の方が大きく自分が醜くて仕方なかった。
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読んでくださりありがとうございます!
この話だと初めてのひろぱ視点でした。彼の揺れ動く感情にぜひ注目して欲しいです。
次も読んで頂けると嬉しいです。