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ばさばさと、鳥にしては大きい羽音を背後に感じる。
なんとも不思議な空間だ。地面は藍色で水が貼っていて、よく見れば海だとわかる。それ以外太陽も何も無く青空だけが広がっている。匂いがしない。風もない。
俺はゆっくりと振り返った。
そこには予想通り、君がいた。でも、最後に見た姿とだいぶ違う。真っ白で壮大な羽、同じ色の睫毛、シルバー気味の瞳。髪も光に当たると反射して透明に見えるくらい白い。
息を飲んだ。美しい。言葉では表しきれない程に。
君は俺を見てふっと微笑む。厳かだと思いつつ近づこうと1歩踏み出すと、もやのように消えていなくなってしまった。
すると羽が1枚降りてきて、掴んだ。まるで、居なくなった君を意識するため縋っているように。
◻︎◻︎◻︎
身体中の違和感で意識が浮上する。右手に違和感を覚え開いたが、何も無く目を細めた。
さっきのは夢だ。椅子で寝てしまったのと、ショックによる寝不足のせいであんな内容だっただけだ。そう割り切ると段々周りの状況が分かってきた。
涼ちゃんはベットで眠っていて、俺は膝に毛布がかけてある。涼ちゃんが掛けてくれたのかと思ったが、すぐ側の棚の上に歯磨きやら充電器やら置いてあり若井の存在を悟った。昨日入院が決まったことを、メッセージで送った後夜遅くなのに来やがったな。
だが人の心配をしている場合ではなく、病院で勝手に寝落ちてしまったことを怒られてしまうかと思った。が意外にも診察してくれたお医者さんがミセス好きだからか何か言われることは無かった。それどころか看護師さんは何か飲み物お持ちしましょうか?と言って気遣ってさえくれる。一応罪悪感から断っておいた。
涼ちゃんが目覚め、朝の体調チェックを終え一段落着いたところで話し合える体系になる。昨日の夜は入院準備や関係者への連絡、手続きも沢山あり話し合え無かったから、マネージャーを交えて色々決めなくてはならない。若井も勿論含めて話したかったが、今日は生憎朝からロケらしく事後報告となった。
朝の忙しい雰囲気とは裏腹に、3人だけの部屋には重苦しい空気が漂っている。それを切り裂くように涼ちゃんが口を開いた。
「まずは、ごめんなさい。僕が病気にさえならなければ…しかも大事な時期なのに」
「はいストップ。涼ちゃん謝るの禁止。1ミリも涼ちゃん悪くないから、異論は認めないよ。分かった?」
「まあまあ、元貴くん落ち着いて。…涼ちゃん、とりあえず体調は今どう?」
マネージャーに制されて目で訴えるが、朗らかに流されてしまう。涼ちゃんは少し俯き、さっきよりもトーンを落として言った。
「実は、あんまり良くなくて。日に日に体力が削られてくような感覚で…」
そこまで言うとぎゅっと布団の裾を握る。いちばん不安なのは本人のはずなのに、俺は何してるんだ。
「そっか…。中々ないらしい奇病だし何事も無理は禁物だよ。そういや昨日若井くんが来たんだよね?」
と彼は充電器を手に取り頼んだの?と尋ねる。
「あー、うん。欲しいものある?って譲らなくて…そしたら近くのコンビニで買ってきてくれたんだ」
苦笑しながらそう零す。じくりと胸の辺りが傷んだ。俺が寝ている間に若井がそこまでしたのか。別に納得がいかない訳ではない。彼はつんとしているように見えて意外と面倒見がいいから。俺の様子に気付いたのかベットの上から涼ちゃんが覗き込んできた。
「元貴?ごめん、昨日の今日で疲れてるよね。僕の代わりに色々手続きとかやってくれたし。僕は新島さんともう暫く話すから。これからも作曲とかあるでしょ?」
「えっ、いや俺は大丈夫___」
「そうだね。元貴くんご飯もちゃんと食べてないだろ。タクシー呼んどくから帰ってからか途中になんか買いなよ?」
2人がかりで丸め込まれる。そんなに子供じゃ無いんですけど。涼ちゃんと一緒に居たいし。そう口を尖らせると涼ちゃんは笑って、
「ありがとね」
と困ったように言った。久しぶりに見た笑顔に心臓が飛び跳ねる。こういう所本当にずるい。名残惜しいながらも、俺はタクシーで病院を後にした。
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読んでくださりありがとうございます!
もうすぐMステですね、久しぶりの青と夏の歌唱楽しみです。夏うたが今後多くなるなら点描の唄とかも聞きたいですね〜
話は変わりますがありがたいことに最近フォロワー様が急増していて、短編集の方であればリクエストを受け付けてみようかなと思っています。もしあればコメントで教えて頂けると幸いです。
次も是非読んで頂けると嬉しいです。