テラーノベル
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防音のミーティングルームは静かで、おれと元貴の吐息や唾液が混ざり合う湿った音がやけに大きく響く。 執拗に口内を舐めまわす元貴は、息をする間さえ与えてくれない。
さすがに苦しくなって元貴の背中を叩くと、ようやく解放された。離れぎわにぺろっと唇を舐められる。
「りょうちゃんの唇、甘くて美味しい」
「…あ、さっきおれプリンシェイク飲んだから…?」
「物理的な意味じゃねーよ」
そこ恥じらうとこでしょ、と笑う元貴にぎゅうと抱きしめられる。元貴の胸元に顔を埋める体勢になり、彼の体温と甘い香りを感じる。
色々なことが次から次へと起こって頭の処理が追い付いていなかったけど、我に返ると急に恥ずかしくなってくる。
心臓の音もやけにうるさくて、耳の横に心臓があるみたい………あれ、これおれのじゃないな。
元貴の腕の中で顔をあげると、微妙な顔をして目を逸らす彼がいた。
「かっこわりー。心臓とまんないかな?」
「とまったらしんじゃうでしょ、だめだよ」
ふふ、と笑いながら、愛おしさに胸がいっぱいになる。こんなにドキドキするくらい、おれのことが好きってことだよね…?
照れくさそうな元貴が珍しくて可愛くて可愛くて、もっとその顔が見たくなる。
「ねぇ、いつからおれを好きでいてくれたのよ…?」
「………」
無の顔で遠くを見つめる元貴。
「教えてよ、おれだってさっき恥ずかしいこといっぱい言ったんだからさ、もう無礼講だよ!」
「いや言葉の使い方間違ってんのよ…」
はぁ…とため息をついた元貴がオマエ引くなよ?とボソッと言う。
話してくれそうな様子に、嬉しくなってコクコクと頷く。
「昔よくりょうちゃんと2人でさ、プロモーション巡ってたでしょ?」
「あー行ったね、関西とかあんまり行ったことなかったから楽しかった〜」
「夏に地方行った時にさ、CDショップ巡ったりけっこうバタバタで。ラジオに間に合わないって2人でめっちゃ走ってさ、汗だくでラジオ局行ったことあったじゃん」
「懐かしい〜、結局すごい余裕で間に合ったんだよね、走らなくてよかったじゃんって」
「そう、その時りょうちゃんなんかテロテロしたシャツ着ててさ、汗でそのシャツが体に張り付いてすげーエロかったんだよね」
「…………は?」
「あっオレりょうちゃんそうなんだって気づいちゃって。そんで泊まるホテルも2人同室だったじゃん?あの時は…」
「待って!!!思ってたのと違った!!!」
もっと甘酸っぱいエピソードが聞けると期待したのに!!! 慌てて両手で元貴の口を封じる。
封じた手はやすやすと外され、ヒャッヒャッヒャッ、と元貴が楽しそうに笑う。
「りょちゃん〜、顔真っ赤だよ」
「まさかこのタイミングでそんなこと言うと思わないでしょ……」
「仕方ないじゃん、俺も若かったんだから。なんかあれで大人の階段登った感じしたなぁ〜」
しみじみと話す元貴に、どんな顔をしていたらいいかもう分からない。
「まぁそれはほんと、自覚したきっかけだけどさ」
おれの頭を抱きしめるように腕を回される。
「出会った瞬間から俺は貴方に惹かれてましたよ。ほわほわした雰囲気も、誰も傷つけない優しさも、俺の音楽に真剣に向き合ってくれるところも、自分に自信がなくてすぐ落ち込むけど変なとこでめちゃくちゃ芯があるところも。
一緒にバカやってくれて、辛い時はそばにいてくれて、でも俺がダメな時はちゃんと叱ってくれて。貴方がいてくれるから、俺は………息ができる」
突然降り注ぐ言葉の雨に、鼻がツンとなってじわじわ目に水分が集まってくる。
「さ、最初っからそれ言ってよぉ………」
嬉しさを誤魔化すように文句を言いながら元貴を見る。 やっぱり、元貴もちょっと泣いてるじゃん。意外と涙もろいんだよね。
「大好きだよりょうちゃん。下手なことして失うくらいなら手に入れられなくてもいいって思ってた。」
はぁ、と息を吐いて微笑む元貴。
「俺この曲、作ってよかったぁ………」
「…それ、スポンサーさんには言えないね」
2人で泣きながら笑って、またそっと口付けた。
その後、ずいぶん時間がたってしまっていることに気づいて、2人で慌ててミーティングルームを出た。
心配そうに待っていてくれた若井に、おれがもう大丈夫って報告したら、すごくホッとした顔で笑って肩を叩いてくれた。本当にいいやつ。おれのつまらない嫉妬に巻き込んでしまってすごく申し訳なかったなって反省した。
その日からデモ音源もしっかり聴けるようになって、無事レコーディングも終えた。
元貴と話してから歌詞を聞くと、なんだか違うように聞こえて恥ずかしくなることもあったけど………おれの考えすぎだよね、うん。
コメント
2件
この場面、すごく好きです💕 物理的な意味じゃねーよがジワリます🤭♥️💛 いつも更新、ありがとうございます❣️