テラーノベル
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新曲のリリース日が決まり、元貴を中心にMVの構想が練られていく。若井とおれも打ち合わせに参加し、すごいスピードで段取りが決まっていった。
撮影は山に囲まれた緑の多い場所で行われた。
おれの地元によく似た風景に、くつろいだ気持ちになる。
「あー、これがライブの翌日じゃなかったらなぁ〜!体がいてーよぉ!!!」
古民家の縁側におれと並んで座った若井が、大きく伸びをしながら言う。
「ほんとだねぇ、今日しかスケジュール空いてなかったから仕方ないけど、体はビックリしてるだろねぇ」
配信を含めてとんでもない規模で行われた2日間のアニバーサリーライブを思い返し、満足感と心地よい疲労感に満たされた体を労るように自分の手で撫でさする。
「まぁでも、元貴は今日ドラマの撮影までこなしてから来てるからねぇ…」
「あいつマジでどうなってんの?ロボットなの?体力おばけ過ぎるでしょ!」
スタッフさんに日傘とハンディファンで厳重に守られながら、監督さんと話をしている元貴を見る。
あの日お互いの気持ちを伝え合ったおれ達だけど、ありがたいことに毎日スケジュールはパンパンで。ゆっくり2人で時間を過ごす暇もなく数ヶ月が経過していた。
そりゃあ時々元貴の家に行って、少し甘い時間を過ごすこともあるけれど……
「あれ、涼ちゃん暑い?なんか顔赤くない?」
「え?!イヤ大丈夫、全然!そんな!!」
こんな真っ昼間に思い出すことではなかった。頭を振って記憶を追い払い、誤魔化すように立ち上がる。
ちょうどスタッフさんから撮影開始の声がかかった。若井と一緒に元貴のそばに集まり、監督さんからの話を聞く。
今回の撮影はわりと自由な感じ。元貴も自然の中でリラックスできるといいなぁ。
撮影は順調に進んだ。 みんなでお散歩したり、川遊びをしたり、美味しいお素麺もいただいた! お仕事だけど、なんだかちょっとオフっぽいかも。
それぞれのソロカットもあるから今おれは少しの待ち時間で、撮影に使わせてもらっている古民家近くにいたヤギさん達とたわむれていた。
ヤギさんを撫でていると後ろから元貴の声がした。
「もう仲良くなったの?さすがだね」
「元貴!うん、可愛いよ〜」
ヤギさんも仲良さを証明するかのようにおれの手に頭をこすりつけてくれる。
何か指示があるのかとヤギさんにバイバイと手を振って、元貴の方へ歩み寄る。
「若井は?」
「今カバー写真の撮影に行ってる」
そうだ、今回若井には大役が任されているんだ。彼が日頃から楽しんでいる写真を取り上げるなんて、さすが元貴だなぁ。
そう感心していると、するっと元貴に手を取られた。指を絡ませ、いわゆる「恋人繋ぎ」で握られる。
「え、ちょっと元貴?」
「俺らがくっついてるのなんて今更だし、別に誰も気にしないよ」
繋いだ手を引き寄せられ、体の側面がピタッと密着する。
周りをキョロキョロ見回すと、若井の撮影に同行しているのかスタッフさんの数は少ない。
残っている人たちも慌ただしく動いていて、確かにおれ達に意識を向ける人はいないようだった。
外に出ることが少ない元貴だから、久しぶりにお日様を浴びて開放的になっているのかもしれない。
おれも元貴がくっついてきてくれることは嬉しいし、歩き出した元貴にまぁいいか、と密着したままついていくことにした。
古民家の裏側、日陰にある長椅子まで連れてこられ、一緒に腰を下ろす。
相変わらず手は繋いだまま、ピッタリとくっついて座るから、おれ汗かいてるな…元貴いやじゃないかな?と様子を伺う。
元貴がじっとおれを見ている。あれ、やっぱり汗くさい…??
「可愛い」
元貴の顔がさっと近づいて、唇を奪ってすぐに離れる。
「ちょっと………!」
慌てて周りを確認する。幸い誰もいなかった。
悪戯っぽく元貴が口角を上げる。
「髪型、すごくいいね。ずっとキスしたくて我慢してた」
もう一度近寄ってくる顔を、さすがに押しのける。
「う、嬉しいけど!ここじゃだめだよ〜…!」
恥ずかしくなって、小声で注意する。
ここはスタジオの中でもないし、周りに一般の方だっているんだもの。
ムゥ、と下唇を突き出す元貴。
「りょうちゃんが足りない……こんな綺麗で可愛いりょうちゃん用意したの誰?俺だ、衣装決めたの。あー、このまま家に持って帰りたい」
可愛いことを言う元貴がおかしくて、ふふっと笑う。
「…本気なんだけどね?」
不意に鋭くなった視線にドキッと心臓が跳ねる。何か言おうと思った時、スタッフさんの元貴を呼ぶ声がした。
「…チッ。………はーい、ここです」
元貴が立ち上がり、じゃね、と手を振って歩いていく。
舌打ちはだめだよぉ……と見送りながら、鼓動が早くなった胸に手を当てていた。
コメント
2件
私もbehindのヤギとたわむれる💛ちゃん好きなので、そのシーンがあり、嬉しかったです🤭❣️