その頃、健たちは……。『なぁ、晶哉遅くない?』
そう健が呟いた。
《晶哉?誰や、それ……?リチャ知ってる?》
〈知らんな〜。誰や?正門は?〉
【俺も知らんで、誰なん?】
健の手が止まった。
笑い話のように聞き流そうとしたが、誰の顔にも冗談の色はない。
『えっ!?みんな、ホンマに言ってるん?メンバーやって!佐野晶哉!!知らんの?』
声が裏返った。
だが……
《小島、大丈夫か?メンバーは、俺ら4人だけやで?》
【健ちゃん、疲れてるんちゃう?】
〈小島、大丈夫か?〉
健の耳の奥で、何かがひび割れる音がした。
『なんで誰も分からんねん……。俺は疲れてへん!!』
息を荒げたまま、健は楽屋を飛び出した。
静かな廊下。
壁の時計の針が、やけに大きく音を立てている。
健はそのまま廊下のイスに腰を下ろし、スマホを取り出した。
Aぇ!groupの公式ページを開く。
だが、どこにも晶哉の名前はなかった。
写真も、プロフィールも、1つもない……。
『どういう事やねん……。』
指先が震えた。
連絡先を開くと、そこには確かに“佐野晶哉”の名前があった。
健は迷わず電話をかけた。
コール音が数回鳴り繋がる。
『もしもし、晶哉どこに居るん?』
「……小島くん。俺……。」
『どうなってんねん!俺以外、誰も晶哉のこと知らへんし、スマホで検索しても出てこへん!』
「……俺も分からへん。いつの間にか、俺の存在自体がなくなってた……。」
短い沈黙。
通話越しに聞こえる蝉の鳴き声だけが、現実を刻んでいた。
『……っ。晶哉、今からそっち行くわ。』
「来んといて……。……小島くんも、俺のこと忘れてや。忘れへんと、周りから変な風に見られるやろ?」
『忘れるわけないやろ! 大切なメンバーなんに! 絶対に晶哉を探す、そこに居てや!』
言葉に込めた想いは熱かった。
けれど……
電話の向こうの声は、どこか遠く薄れて聞こえた。
通話が切れる直前、微かに聞こえた。
「……ありがとう、小島くん。」
ツー……ツー……
廊下の窓から差し込む光が、やけに白く眩しかった。
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