テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
165
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「案内人…?」
自分でも驚くほど掠れた声が水に溶けていった。涼架はくすりと笑い、長い髪を揺らしながら立ち上がった。水の中なのに、涼架の動きは風をまとっているように軽い。
「うん。ここに来た人を、ちゃんと行くべき場所まで連れていくのが僕の役目なんだって。まあ、そんなに堅苦しいものじゃないけどね」
そう言って、涼架はひょいと手を差し出した。白く細い指先が、淡い光を受けて揺れている。触れていいのか迷った。触れたら、何かが壊れてしまいそうで。でも、触れなければ、二度と届かない気がした。そっと手を伸ばすと、涼架の指が温かく絡んだ。
温かい。海の底なのに、死んだはずなのに、どうしてこんなに温かいんだろう。
「元貴の手、冷たいね。」
「…死んだばかりだから?」
冗談めかして言ったつもりだったが、声は震えていた。 涼架は一瞬だけ目を伏せ、次に顔を上げたときには、どこか寂しげな笑みを浮かべていた。
「ううん、怖かったんだと思うよ。」
胸の奥を、そっと撫でられたような気がした。
「元貴は、怖くなかった?」
力なくふるふると首を振る。何も言わなくてもいいことがうれしかった。きっと上手く言い表せないし、上手く伝わりもしないと思うから。胸の奥がじんと熱くなった。誰にも、自分にすら言えなかった感情が、初めて受け止めてもらえた気がした。
小さく頷いてから、涼架は手を引いてゆっくりと歩き出した。その歩幅は小さく、まるで元貴がついてこられるように気遣っているようだった。
崩れた神殿の影を抜け、光の粒が舞う道を並んで進む。手は、まだ繋いだままだった。
「こっちだよ。」
差し出された手を取りながら、さらに内部へと進んでいく。どこの景色も同じようにぼんやりと青白く照らされて、方向感覚を失ってくらくらしてくる。つながれた手のみがはっきりと感じられ、命綱のようだった。
涼架に導かれながら、静かに崩れた柱の間を歩いていく。深海の光が涼架の髪に触れるたび、銀色の影がゆらりと揺れた。
「ここは…何なの?」
「伝説上の海の底に沈んだ都、アトランティス。」
「…それは分かってるけど…じゃあなんで存在してるんだ。伝説上のものだろ?君は、誰なの?」
涼架は言葉を選ぶように、ゆっくりと視線を前へ戻した。
「ここは…、…大切なものを置いていく場所、…緩やかな終わり、永遠の縛り、そしてひとの象徴」
大切、終わり、縛り、ひと…
「どういう…こと…?」
涼架はまた微笑んだ。その笑顔は優しいのに、どこか壊れそうなほど儚かった。
「いずれ、わかるよ。」
「…君は?」
「僕は…ここの案内人で、ひとを見守る存在。ここに来た人がちゃんと大切なものに気づくように。」
「ずっと…一人なの?」
「ずっとじゃないよ。たまに人は来るし、元貴みたいにね。」
「…さっきの音、すごく綺麗だった。なんの楽器?」
「あは、ありがと~!サンゴでね、自分で作った笛なんだ。」
「また、聞かせてくれる?」
「もちろん!誰かに聞かせたことなんてなかったから緊張しちゃうなぁ。
あっ、ここ!この天井の隙間からね、夜は星が見えるんだよ。すっごく綺麗なんだ。」
指の先を見つめてみると、崩れた石の天井から確かにぼんやりと青空が覗いていた。
歩きながら、涼架は時折、元貴の袖を軽く引いたり、気になるものを見つけると子どものように目を輝かせたりした。
「次は~、こっち!時々すっごい大きい魚が通るよ。リルっていうんだけどね。とっても優しいんだあ。」
「あ、あっちは気を付けてね。あそこだけ流れが速くて、連れていかれちゃうかもしれないから。」
アトランティスはかつての栄華を強く香るように広大で、どの石片も細やかな細工が目についた。少し歩いたのち、日の入りが近づいてきたのか、淡い蒼に縁どられていた世界が、柔らかく蜜柑色に染まっていった。その色に何故か瞳が緩んで、心地よかった。
「ここが最後。アトランティスの最奥。」
空からの光に気を取られていると、いつの間にかこれまでの雰囲気とは全く異なるような、異様な空気に包まれた場所に出てきていた。神殿を青白い光が一層強く照らし出している。
中心には、円形の広場があった。白い石でできた床には複雑な紋様が刻まれ、その線が淡く光を帯びている。光はゆっくりと流れ、まるで呼吸しているようだった。
広場の中央には、透明な水柱のような光の柱が立ちのぼっていた。水ではない。けれど、水のように揺れ、触れれば濡れそうなほど澄んでいる。
その柱の中には、小さな光の粒がいくつも漂っていた。それらは蛍のように瞬き、時折ふわりと柱の外へこぼれ落ちる。こぼれた光は床に触れると静かに溶け、紋様の中へ吸い込まれていった。
吸い寄せられるように光の柱に近づいた。近づくほどに、胸の奥がざわつく。懐かしいような、怖いような、言葉にできない感覚が押し寄せてくる。
「大丈夫。今は分からなくていいよ。いつかきっとここに来る、ここに来なきゃいけなくなる時がくるから。」
その言葉は優しいのに、どこか痛みを含んでいた。瞳の奥には、重たくて暗い何かが沈んでいるような気がした。
光の柱が静かに脈打ち、二人の影を長く伸ばす。その光の中で、自分の胸の奥のほうの痛みがくすぶったような気がした。
歌詞パロってめちゃむずいなあ~😢
フォロワー様がとっても増えてきてうれしいですっ🥹
ありがとうございます!!