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そこそこの大学に進学して、卒業して、それで晴れて就職したのがドがつく程のブラック企業で。薄給、パワハラ、オーバーワークの三拍子に見事に呑み込まれ、上手い抜け出し方も分からず、いっそのこと死んでやろうと思ったのが大体一週間前のこと。

クソ上司にバレない程度に良くしてくれる数少ない同僚や、連絡はあまりとっていないが時折仕送りを送ってくれる両親の存在を天秤にかけて、それでも死の魅力が勝ったのが昨日の夜 。

ビルの屋上まで来たはいいものの、高さに足が竦んで動けなくなってしまって、なんとかもう一度決心をつけたのがつい先刻。

そして、両足揃えていざ飛び降りようとした丁度その時のこと。

俺の目の前に”死神”が舞い降りた。

黒のローブをはためかせながら宙にふわりと浮かぶ少女。なめらかな銀髪は月の光を受けて神秘的に輝き、その肌は白く淡く透けるよう。たおやかに微笑む様は女神のようだが、長い銀のまつ毛に縁取られたその瞳は不気味な程に紅い。

形の良い唇を開き、彼女は歌うように言った。

「はじめまして、私は貴方の死神です。貴方をお迎えに上がりました」

死神。宗教には疎いので正直詳しくは知らないが、ニュアンス的には命を彼岸へと送り届ける者のはず…だと思う。しかし。

「…俺、まだ死んでないんだけど」

「えっ」

互いにじっと見つめ合う。当然ロマンティックな雰囲気など微塵もない。その存在を見極めようと目を凝らし合い、薄暗い屋上に静寂が広がる。

先にその静寂を破ったのは、どうやら俺が本当に死んでない様だと気付いた死神の方だった。

「ちょ、ちょっと待ってて下さい!」

死神が慌てた様子でどこからか真っ黒い手帳を取り出し、パラパラと勢いよくめくり始めた。最初の荘厳な雰囲気はどこへやら。丸い瞳をぱちぱちと忙しなく瞬かせている様子は、普通の少女と特にこれと言った差異は見当らない。

「お、おかしい…死亡時刻は一時二十三分、丁度ぴったりこの時間のはずなのに…」

混乱したようにぶつぶつと呟く死神を見かねて、思わず冷静な声が出た。

「もしかして、秒数が違うんじゃないの」

死神が弾かれたようにこちらを見る。そしてわなわなと唇を震わせた後、まっすぐ叫んだ。

「確かに!!」

マジかこの死神…

俺は頭を抱えたくなった。

「お前…”確かに”じゃないだろ!」

「そ、そうですよね!!ごめんなさい!初仕事で舞い上がっちゃって…!」

「初仕事…?」

そんな物があるのか?死神に。だって、死神だろう。そんな現実の社会人のような物が本当にあるのか?死神というフィクションの存在に。

俺が眉を顰めて考えて込んでいると、死神はこくこくと大きく頷きながら必死に、かつ真剣に、矢継ぎ早に言った。高い声でするすると話すものだから、聞き取るのが少々大変な程だ。

「私、死神になってまだ日が浅い方なので、実はこれまで悪霊の退治しかしたことがなかったんです。あ、悪霊というのは死神が上手くお迎えできなかった人間の魂の成れの果てのことで…じゃなくて!これは今言う必要ありませんよね、すみません!えぇっと…だから、経験が足りなくて人間の魂のお迎えというものにどうにも慣れていないのです!だからどうか、勘弁してください!そして…__」

そして?

目線で続きを促すと、死神は意を決した様に真っ直ぐ俺を見つめ、大きな声でこう言った。

「そして、どうか今すぐそこから飛び降りてください!!」

………ん?

死神と指切りをして

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