ライブの幕が下りた直後、楽屋にはまだ熱気が残っていた。
涼架は、ステージ衣装の羽織だけを脱ぎ、鱗のような煌めきの衣装のままソファに座り込んでいた。
滉斗も、ギターを置くとすぐに、同じように近くに腰を下ろす。
「……お疲れ、涼ちゃん」
かすれた声でそう言った滉斗は、涼架の横顔をじっと見つめていた。
汗で乱れた髪。
濡れたままの襟足。
スポットライトの名残か、涼架の体にはまだ、淡いオーロラのような輝きが残っている気がした。
涼架も滉斗の視線に気づき、静かに笑う。
「……なに、見惚れてんの?」
冗談めかして言ったが、すぐに滉斗がそっと顔を寄せてきた。
鼻先が触れそうな距離。
「……だって、綺麗すぎるからさ」
その囁きに、涼架は思わず息を呑む。
さっきまで何万人もの前で輝いていたはずなのに、今はたった一人、滉斗だけの視線が、体中を焼いていた。
滉斗の指が、涼架のキラキラした胸元をそっとなぞる。
衣装越しに感じる滉斗の温度。
それだけで、涼架の体は震えた。
「……ライブ、めっちゃよかったな」
「うん……」
言葉を交わしながら、いつしか滉斗の手は涼架の頬を包んでいた。
そのまま、引き寄せられるように、唇が重なる。
最初は軽く触れるだけだった。
けれど、すぐに互いに貪るようなキスへと変わる。
ステージの熱が、まだ二人の体に宿っているかのようだった。
「……もっと、涼ちゃんに触れたい」
滉斗の手が、涼架の衣装の裾を乱暴にめくり上げる。
鱗のように煌めく素材が、ざらりと音を立てた。
「……滉斗、ここ……楽屋、だよ……」
涼架が震える声で言う。
でも、それ以上に滉斗の指先が心地よかった。
止めたくても、体が素直に従えなかった。
滉斗は、涼架の耳元に唇を寄せ、熱っぽく囁く。
「大丈夫。……誰にも、見せないから」
滉斗がそう囁いた直後――
涼架はふっと滉斗の胸に手を添えた。
そして、そっと、押し倒す。
「……本気、出していい?」
耳元で、いつになく低く甘い声。
普段は天然で柔らかい涼架が、滉斗だけに見せる、もう一つの顔。
「 今日の俺……頑張ったよね?」
「……ああ、すげぇ綺麗だった」
「なら、ご褒美……欲しいな」
涼架の指先が、滉斗の頬を撫でる。
そのまま喉元をなぞり、胸元へと滑り落ちていく。
滉斗は、自分の鼓動が高鳴っていくのを止められなかった。
ステージよりも、何万人の視線よりも、涼架のこの視線が、一番心臓を震わせる。
涼架は、ゆっくりと指先で滉斗の肌に触れる。
汗ばむ肌に、指先の冷たさが心地いい。
「……ねぇ、もっと、声……聞かせてよ」
甘く、妖しい誘い。
涼架は滉斗の耳たぶを軽く噛み、舌先でくすぐる。
それだけで、滉斗の体がびくりと震えた。
「涼ちゃん……ほんと、ズルい」
「……ズルいのは、滉斗だよ」
そう囁くと、涼架は滉斗の胸にキスを落とし始める。
優しく、でもどこか焦らすように。
滉斗の息が少しずつ荒くなっていく。
涼架は微笑んだ。
こんな滉斗、誰にも見せたくない。
自分だけが知っていたい。
「……滉斗、俺だけ見てて」
吐息混じりの声でそう告げると、涼架は滉斗の唇を塞いだ。
深く、舌を絡めるキス。
さっきまでステージで見せていた神秘的な表情とは違う、もっと、原始的な欲望の顔。
唇を重ね、息が絡まるたびに、涼架の中の理性はどんどん溶けていった。
涼架は滉斗の衣装をはだけさせると、肌に直接唇を押し当てる。
胸元、腹筋、腰骨。
触れるたびに滉斗の体が小さく震える。
「……涼ちゃん、そんなとこ、触ったら……」
滉斗がかすれた声で抗議するけど、涼架はいたずらっぽく笑った。
「やだ、もっと触りたい」
甘えるように言いながら、涼架は自分の衣装にも手をかけた。
キラキラと輝く鱗模様の生地を、滉斗の目の前でゆっくりと外していく。
次第に露わになっていく、白く滑らかな肌。
滉斗の喉が、ごくりと音を立てた。
「……綺麗すぎて、やばい」
思わず漏れた滉斗の声に、涼架は嬉しそうに微笑みながら滉斗の手を取り、自分の肌へと導く。
「触って……滉斗の手、あったかいから」
誘われるままに、滉斗は涼架の腰にそっと手を添えた。
指先に伝わる、体温。
やわらかく、でも確かな存在感。
滉斗をもっと近くに感じたくて、涼架はふいに滉斗の手を引いた。
そして、楽屋の一角――
化粧直し用の大きなメイク台に、滉斗を押し付けた。
「涼ちゃん、ここ……っ」
滉斗が戸惑った声を漏らす。
けれど涼架は答えない。
そのまま、メイク台に置かれたパウダーやブラシ、小物たちを手で一気に払い落とした。
カラン、カラン――
音を立てて床に散らばるコスメたち。
そんなこと気にも留めず、涼架は滉斗をメイク台に無理やり座らせる。
ふたりの姿が、正面の大きな鏡にくっきりと映っている。
「……滉斗、鏡……見てみて……」
涼架がかすれた声で囁く。
滉斗はハッと気づき、視線を上げた。
そこには、
頬を紅潮させ、涙ぐんだ目で涼架にしがみつく自分と、
必死に滉斗を受け止めながら、同じく乱れた涼架の姿が映っていた。
「……こんな顔……滉斗にしか、見せたことない……」
涼架は小さく呟きながら、さらに腰を強く押しつけた。
滉斗もたまらず、涼架の腰を掴み、動きを合わせる。
腰を打ちつけるたびに、机がギシギシと軋む音。
鏡越しに映る、自分たちの乱れた姿。
すべてが、背徳的で、異常なほどに美しかった。
「涼ちゃん……エロすぎ……」
「滉斗だって……顔、真っ赤……」
熱を帯びた視線を交わし合いながら、互いに貪り合う。
滉斗の手が、涼架の背中を撫で、涼架が体を押し上げるたびに、
鏡に映るふたりはさらに淫靡に乱れていった。
互いの呼吸が重なり、熱を孕んだまま、最高潮へと駆け上がる。
「……好き、滉斗……好き、好き……」
「……涼ちゃん、俺の中で、イって……」
甘く誘うような声。
涼架は限界を迎え、滉斗を抱き締めると、そのまま激しく果てた。
滉斗もまた、涼架の熱を感じた瞬間、
涼架の名前を叫びながら絶頂に達した。
鏡の中に映るふたり――
ぎゅっと抱き合ったまま、汗に濡れ、震え、
それでもしがみつくように、お互いを求め続ける姿は、
どんな神話よりも美しく、どんな伝説よりも官能的だった。
メイク台の上、コスメが散らばる足元で、
ふたりはしばらく動けなかった。
滉斗の首にしがみつきながら、涼架は震える声でささやく。
「……滉斗、大好き……」
滉斗も、涼架の髪を撫でながら答える。
「……俺も。ずっと、涼ちゃんだけ」
鏡に映るその姿は、
まるでふたりだけの秘密を、永遠に閉じ込めたかのように、
いつまでも輝き続けていた。
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