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それから八カ月の時が経った。俺たちは新しい学校でサッカークラブに入り、昔のようにサッカーをしていた。玲子さんが「せめてクラブ活動には入っておいた方がいい」と言ってくれたからだ。それならと、俺たちは迷わずサッカークラブを選んだ。練習後の汗を拭いながら、俺たちは笑い合い、ほんの少しだけ過去の自分たちに戻れた気がしていた。 クラブ活動の帰り道、玲子さんが迎えに来てくれた。彼女は買い物を済ませていて、大きな買い物袋を両手に抱えている。

「みんな、お疲れさま。今日はカレーよ」

玲子さんの穏やかな笑顔に、俺たちは自然と顔をほころばせた。そんなささやかな幸せを感じながら、俺たちは家路につく。

だが、その平穏は唐突に崩れ去った。

曲がり角を曲がった瞬間、左から猛スピードで車が突っ込んできた。

「うわぁっ!」

「コウタ、大丈夫!?」

尻もちをついた俺は、膝に走る鋭い痛みに顔をしかめた。血が滲んだが、それはすぐに結晶化し、皮膚を覆うように固まる。その瞬間だった。

「……奇病持ちだ!捕まえろ!!」

男たちの怒声が響いた。

全身に冷たい恐怖が駆け巡る。視線を上げると、車に乗っていた数人の男たちがこちらを睨みつけていた。俺たちを狙っていたのか? それとも偶然なのか? 考える時間はなかった。

「みんな、今すぐ走って!!」

玲子さんの叫びと同時に、俺たちは一目散に走り出した。

息が切れるのも構わず、全速力で家へと駆け込む。そして玄関に飛び込むと、セキュリティシステムを作動させた。

「お姉さんも早く!」

シャッターが閉まりかけたその瞬間、外で鋭い銃声が響いた。

「……っ!」

「玲子さん!!」

駆け寄りたい衝動を必死に抑える。玲子さんの姿がまだ見えない。外では、男の声が響いていた。妙に冷静な口調だった。俺たちを最初から狙っていた――そう確信するには十分な雰囲気だった。

「早く、警察に連絡しなきゃ!」

ヒロトが家の電話へと駆け出す。その間も、俺たちは万が一奴らが侵入してきたときに備え、隠れる場所を探した。

しかし次の瞬間、驚くべきことが起こった。

玲子さんが、壁をよじ登って窓から家の中へ飛び込んできたのだ。

「お姉さん、大丈夫!?」

アキラが駆け寄る。玲子さんの顔色は青白いが、苦笑を浮かべている。

「え、えぇ、大丈夫。すぐに警察が来るから……」

だが、アキラが言いたいのはそこじゃない。玲子さんが撃たれるのは、これで二度目だった。

一度目は、誰かをかばって。二度目は、明確な殺意を向けられて。それなのに、なぜ彼女は気にしていないように振る舞えるんだ?

警察が来るまでの間、俺は玲子さんのそばを離れずにいることしかできなかった。

 警察が到着し、いろいろ事情を聴かれた後、俺たちは優香さんの事務所へ向かった。奴らは俺たちの家を知っているのであの家にはいられない。しばらくの間、あの家にはいないほうがいいだろうということで優香さんがビルの三階を俺たちが住めるように手配してくれたのだ。優香さんの事務所の扉をたたくと優香さんが快く出迎えてくれた。

「大丈夫だったかい?」

「えぇ、子供たちは何とか。私も腕をかすめただけ。」

銃撃をぎりぎりで避けたのか?なんにせよ、思ったより軽症でよかった。

「そうか。命があるだけ十分だよ。寒かったろう、中へお入り。」

「お邪魔します。」

中は必要な家具等が置かれていた。勉強道具や大事なものはある程度車に乗せて運んできた。部屋を見て回っていると獅子合が勢いよく扉を開けて入ってくる。

「お前たち、大丈夫か!?」

「獅子合お兄さん!」

獅子合は俺たちに怪我がないことを確かめると深いため息をついた。そして玲子さんに事情を聴き始める。途中、どこかへ電話をかけていたが二人が話していることは俺たちにはさっぱりわからなかった。しかし、玲子さんは戦う気だ。今日襲ってきたやつらを許すわけにはいかないと。そしてこれが玲子さんのやりたいことなのだと。

あぁ、この人はいつもそうだ。人を守るためにいつも命を投げ出す。俺は玲子さんのそういうところが大嫌いだった。いくら病気の影響で二十五歳の誕生日を迎えるまで死ぬことはないとしても、もっと平穏に暮らすことだってできたはずなのに。なんでこの人は誰かのヒーローであろうとするのだろう。誰かを助けたとしても、それがいつも自分に返ってくるとは限らない。

「人にやさしくすれば見返りがある」そう誰かに教わった気がする。そんなのはきれいごとで嘘っぱちだ。そんなことあるはずがない。あれはただの妄想だ。それならもっと自分のために行動して、自分のために生きてていいはずなのに。どうして、この人は……。

「これ以上傷ついてほしくない」そんなことを考えていたら、俺は玲子さんの裾をつかんでいた。本人は気づいていないようだが、少しでも俺はこの人の信念や思いに抵抗したかった。そんなことをしたって、この人は止まるわけがない。そうわかってはいるけれど、それでも……。


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