最後の日が来るまで、俺たちは玲子さんと共に過ごした。玲子さんともっと長く一緒にいたい。そう思った俺たちは学校を休み、朝も昼も夜もずっと玲子さんのそばにいた。どんなに時間が過ぎても、それは足りないと感じていた。玲子さんの誕生日の前日、深夜。俺たちは静まり返った寝室の中で目を覚ました。部屋の空気がいつもと違う気がして、妙な胸騒ぎがした。布団を抜け出し、辺りを見渡すが、玲子さんの姿がない。ヒロトもアキラも気づいたようで、三人で顔を見合わせる。
「玲子お姉さん……?」
俺たちは静かに部屋を出て、家の中を探した。そして、リビングの一角で灯る小さな明かりの下に、玲子さんの後ろ姿を見つけた。彼女は古びたアルバムを開き、一枚一枚、写真に指を滑らせるようにして眺めていた。思い出を辿るように、静かに微笑んでいる。
「玲子お姉さん。」
ヒロトが小さな声で呼ぶ。玲子さんは驚いたように顔を上げ、そして優しく微笑んだ。
「ん? どうしたの、みんな。もう寝る時間でしょ?」
玲子さんの声は穏やかだった。でも、その奥にあるかすかな寂しさを、俺たちは感じ取っていた。
「本当に……明日死んじゃうの?」
アキラが震える声で尋ねた。その言葉が夜の静寂に沈み込むように響く。玲子さんは少しの間、言葉を探すように沈黙し、それからゆっくりとうなずいた。
「……うん。」
アキラは顔を背けた。肩が震え、大粒の涙が頬を伝う。そして次の瞬間、ポロポロとこぼれ落ちた涙が宝石に変わっていった。ヒロトも拳を握りしめ、こらえきれずに肩を震わせている。俺もまた、何も言えずに立ち尽くしていた。
「そんな……そんなの嫌だよぉ……!」
アキラが声を上げて泣きじゃくった。玲子さんはそっとアルバムを閉じ、俺たちのもとへ歩み寄る。その動作はゆっくりで、少しぎこちなかった。
「皆、泣かないで。」
優しく微笑む玲子さん。でも、その顔を見れば見るほど、俺たちの涙は止まらなかった。
最後の日が来るまで、俺たちは玲子さんと共に過ごした。玲子さんともっと長く一緒にいたい。そう思った俺たちは学校を休み、朝も昼も夜もずっと玲子さんのそばにいた。どんなに時間が過ぎても、それは足りないと感じていた。
玲子さんの誕生日の前日、深夜。俺たちは静まり返った寝室の中で目を覚ました。部屋の空気がいつもと違う気がして、妙な胸騒ぎがした。布団を抜け出し、辺りを見渡すが、玲子さんの姿がない。ヒロトもアキラも気づいたようで、三人で顔を見合わせる。
「玲子お姉さん……?」
俺たちは静かに部屋を出て、家の中を探した。そして、リビングの一角で灯る小さな明かりの下に、玲子さんの後ろ姿を見つけた。彼女は古びたアルバムを開き、一枚一枚、写真に指を滑らせるようにして眺めていた。思い出を辿るように、静かに微笑んでいる。
「玲子お姉さん。」
ヒロトが小さな声で呼ぶ。玲子さんは驚いたように顔を上げ、そして優しく微笑んだ。
「ん? どうしたの、みんな。」
玲子さんの声は穏やかだった。でも、その奥にあるかすかな寂しさを、俺たちは感じ取っていた。
「本当に……明日死んじゃうの?」
アキラが震える声で尋ねた。その言葉が夜の静寂に沈み込むように響く。玲子さんは少しの間、言葉を探すように沈黙し、それからゆっくりとうなずいた。
「……うん。」
アキラは顔を背けた。肩が震え、大粒の涙が頬を伝う。そして次の瞬間、ポロポロとこぼれ落ちた涙が宝石に変わっていった。ヒロトも拳を握りしめ、こらえきれずに肩を震わせている。俺もまた、何も言えずに立ち尽くしていた。
「そんな……そんなの嫌だよぉ……!」
アキラが声を上げて泣きじゃくった。玲子さんはそっとアルバムを閉じ、俺たちのもとへ歩み寄る。その動作はゆっくりで、少しぎこちなかった。
「皆、泣かないで。」
優しく微笑む玲子さん。でも、その顔を見れば見るほど、俺たちの涙は止まらなかった。
「どうしてお姉さんが死ななきゃいけないの……! こんなに元気なのに……!」
アキラの叫びが胸に刺さる。玲子さんは、アキラの頬を撫でながら小さく笑った。俺は知っていた。玲子さんが隠れて星屑を吐いていることを。その量は日に日に増え、明らかに以前見た時とは違うほどだった。あんなに吐いておいて、体が元気であるわけがない。
「最後に、私の願いを聞いてもらってもいい?」
玲子さんがそっと言った。俺たちは必死にうなずく。玲子さんは、震える俺たちをそっと抱きしめた。
「あなたたちも、自分の人生を悔いのないように生きて。何をしてもいい。そのためのお金はちゃんと残すから。だから、好きなことをして、やりたいことをして。どんなに小さなことでもいいから、夢中になれるものを見つけて、それを大事にしなさい。いいわね?」
玲子さんの言葉に、俺たちは涙をこぼしながら大きくうなずいた。
「必ず、悔いなく生きなさい。いつでもあなたたちのことを愛しているから。」
玲子さんはそう言うと、俺たちをより強く抱きしめた。その温もりを感じるたび、涙が溢れて止まらなかった。
でも、俺は気づいていた。玲子さんの体が少し硬いことを。その肌の下に、星屑が溜まり、体を蝕んでいるのを。それでも玲子さんは、最後まで俺たちの前で笑おうとしてくれていた。玲子さんは戦いに行く。それが彼女の最後の時だ。
朝、玲子さんは獅子合さんと出かけて行った。笑って、涙をこぼしながら「いってきます」と最後に残して。俺たちは見送るしかなった。
次の日、午前零時を回った頃。外の静寂を破るように、一台の車がビルの前に止まった。
俺たちは玄関に駆け寄る。ドアが開き、車から降りてきたのは獅子合だった。そして、その腕には大きく、美しい箱が抱えられていた。
「……玲子さん……?」
俺は震える声で呟いた。俺たちの前には優香さんがいて、優香さんも涙を流し
「早すぎるぞ、馬鹿……」
と、そうつぶやいていた。その瞬間、全てを理解した。あの箱の中にあるのは、玲子さんの遺体……いや、散ってしまった星屑。
獅子合は、玲子さんの全てを拾い集めてくれたのだ。
「……っ……!」
ヒロトとアキラもそれを理解し、声にならない嗚咽を漏らしながら泣き崩れた。俺は震える手で、星屑の入った箱を受け取る。
「……玲子……さん……。」
箱を思い切り抱きしめた瞬間、全てが崩れ落ちたような気がした。
死ぬことは知っていた。それなのに、まだ受け止めきれない。胸が苦しくて、息が詰まって、うまく呼吸ができているのかもわからない。こんな感情は初めてだった。大事な人がいなくなるというのは、こんなにも苦しいものなのか。
俺たちのヒーローは、夜空に散っていった。
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