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「今日の一位はおうし座!運命の出会いがあるかも!」
たまーにつけてる朝のニュースの星占い。寝ぼけたまま準備をしながら片手間に見ていたら、大きな可愛らしいテロップとともに映し出された一位という文字。
「おぉ…一位だ…」
別にそんなに信じてるわけじゃあないんだけど、やっぱりちょっとだけ朝からいい気分になる。ラッキーアイテムは…、ネックレスかあ…
今日は収録あるし…あんまつけないほうがいいかも…
ぼうっと準備をしていると以外にも出る時間が近づいてきてしまっていた。少し慌ててテレビを消し、ネックレスは諦めて、上機嫌に鼻歌を歌いながら今日の仕事を思い出していた。
magicを聞きながら、マネージャーさんの車でスタジオへ向かっていく。まだ長く残っている、ゼンジンの余韻が広がっていく。
楽しかったなあ。ほんとに楽しかった。次は七月かあ…待ち遠しいな。
マネージャーさんの声に顔を上げた。礼を言って車を降りる。さあ、気合い入れてかないと。
ぴこん、とスマホがメッセージを知らせた。元貴からか。
『今日涼ちゃんち行っていい?』
思わずふふ、と笑いがこぼれる。明日朝はなんもないから、久しぶりに二人でちょっとゆっくりできるかも。楽しみだなあ…今部屋綺麗だったっけ。てか今から収録で会うんだからそん時伝えてくれてもよかったのに。
まあでもメッセージって特別感あっていいよね。お仕事の前にそんな会話しちゃったら気が緩んじゃうし。いいよって送っとこ。
スマホを少しだけ大事にしまって、気を取り直し、部屋へと入っていった。
「おはようございまーす」
数人のスタッフさんとすれ違う中、元貴と少し目が合って元貴がにやりと笑った。
え?かわい…、
「おはよ、涼ちゃん。」
「んふ、おはよう、元貴。」
「涼ちゃんにやにやしすぎだよ。」
「元貴だって。」
二人してにこにことにやけていると、若井も来たみたいで、え?なんかおもろいことあったの?、と不思議そうにしていた。
なんもないと返しながら、撮影のために着替え始めた。
撮影が無事終わり、次は打ち合わせのために移動していく。
いやー…今日のあれもうちょっと上手くしたかったなあ…、なんて一人反省会をしながら、一旦トイレに抜けた。
会議室まで行く帰り道、どこかの窓から春風がふわりと頬を撫でた。
そのとき、
「…涼架、くん?」
名前を呼ばれた気がして、振り返る。見覚えのない顔。
「あの…同じクラスだった、○○だけど。覚えてるかな」
確かに、そんな名前の人がいたような気がするかも…。でも、話したことはほとんどなかったはずだ。
「えっと…久しぶり。どうしたの?」
そう言いかけた瞬間、相手の表情が少し強張った。
「ずっと…話したいことがあって。今日、撮影がここだって聞いて…」
そこまで言ったところで、背後から俺の名前を呼ぶ声がした。
「涼ちゃん。」
振り返ると、若井が立っていた。いつもより少しだけ早い足取りで。
「会議始まっちゃうよ。もういこ。」
「あ、うん。今行く」
若井が俺の肩にそっと手を置き、自然な動作で体の向きを変えさせる。そのまま歩き出そうとしたとき、背後から同級生の声が追いかけてきた。
「ちょっとだけでいいから…!」
振り返ろうとした俺より先に、若井が静かに言った。
「仕事中なんで。すみません。」
同級生は言葉を飲み込み、一歩だけ後ずさった。
俺は軽く会釈して、若井に連れられるようにして会議室へ戻った。
「…あれなんだったの、涼ちゃん。」
「いや…知らない、同級生らしいけど。あんま覚えてないし。何だったんだろ。」
呟くと、若井は優しく笑った。
「さあ何だろね。今は仕事に集中してよ?」
その後若井が小さく何か呟いたけれど聞き取れなかった。
俺達が会議室に戻ってきたその直後くらいに元貴も帰ってきて、そのまま流れるように会議が始まったが、時々感じる若井から元貴への厳しい視線が気になって仕方なかった。
会議も終わり、それぞれが帰り支度をしていく中、若井が元貴に近づき小声で何かを伝え始めた。聞いている元貴の顔がどんどん険しくなっていっている気がする。なにか大事な話だろうか。
話し終わったらしく、二人が離れていく。元貴にそっと訊ねてみる。
「ねえ、何の話してたの…?」
「んー?仕事の話だよ。あ、涼ちゃん、俺いかなきゃいけないとこできちゃったからさ、一緒に帰れんくなっちゃった。先にマネージャーさんに送ってもらって。」
上手いことはぐらかされた気がするけど…まあいっか。仕方ない、帰ろ。
「あと今日、表は人が多いみたい。 裏口から出た方が早いよ。」
背中から聞こえた元貴の声に軽く返事をしながら、スタジオを後にした。
窓の外に見慣れた街並みが流れていく。車がふと、ある交差点で車が止まった。
――あれ。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
「あの、次の交差点、左に曲がってください。」
「どこに行かれるんですか?ご自宅はまっすぐですけど。」
「いや、一瞬通りかかるだけでいいんで、そっちからでも家つけますか?」
「了解です。大丈夫ですよ。」
車がなめらかに発進して、少しの揺れとともに車体が左に曲がり、そのままある建物の前を通過した。
ここだ。元貴と初めて出会った場所。夜の輝きに照らされながらぼんやりとその日のことを思い返した。
もしあの日がなかったら、今の俺はきっといない。元貴と出会ってから、俺の世界は本当に変わった。
仕事のことも、自分のことも、前よりずっと好きになれた。元貴がそばにいてくれるだけで、どんな日も安心できる。
窓の外を見ながら、自然と笑みがこぼれた。
俺にとっての運命は、あの日からずっと変わらない。
ハーブティーの香りが、ゆっくりと部屋に広がっていく。
「元貴、今日もお疲れさま。」
「涼ちゃんこそ。今日も可愛かったよ。あのトークはちょっと下手くそだったけどさ。」
「あはっ、それはそうだけどさあ。」
そう言ってふっと笑って、俺の手に重なる元貴の手は、いつも通り優しくて、触れるだけで安心する。
俺はソファに座り、元貴は隣に腰を下ろした。テレビもつけていない。音楽も流していない。ただ、二人で静かに過ごす時間。こんな夜が、一番好きだ。
「ねえ、元貴」
「ん?」
「今日さ、朝占いで運命の出会いがあるって言ってたんだよ。」
「…うん。」
「それで…帰り道元貴と初めて会った場所を通って、ああこれがほんとに、運命の出会いだったんだなって。思った。」
元貴は何も言わず、
ただ俺の頭をそっと撫でた。
その手つきがあまりに優しくて、
胸がきゅっとなる。
時計を見ると、針は11時59分を指していた。
「元貴、あの日出会ってくれて、ありがとう。」
元貴が目を細めて、泣きそうな顔になる。元貴が急に立ち上がり、棚の引き出しから小さな箱を取り出した。
「…こちらこそ、生まれてきてくれてありがとう、涼ちゃん。」
十二時の鐘が鳴るように、時計の針が日付をまたぐ。元貴の指が箱を開く。
落ち着いた深みのある赤色の中に、光を受けるとまるで内側から炎が揺らめくような、鮮やかな真紅の小さな宝石のネックレス。内部に閉じ込められた無数の光の破片が、万華鏡のようにきらきらと乱反射を始めていた。
「え…これ…」
「やっぱ誕生日はさ、一番にお祝いしたかったんだよね。」
元貴は俺の首にそっと手を回し、ネックレスをつけてくれた。指先が肌に触れるたび、胸がくすぐったくて、嬉しくて、涙が出そうになる。
「似合ってる、涼ちゃん。」
「…ありがとう。すごく、すごく、嬉しい。」
元貴は微笑んで、俺の頬に手を添えた。
その笑顔が、俺の世界のすべてを照らしてくれる。
「涼ちゃんおめでと。これからもほんとにね、愛してるよ。」
あの日のあなたとの運命の出会いに感謝して。
#もりょき
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