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セルグスク公爵の宮殿には重苦しい空気が流れていた。
セルグスク公爵は幸太に告げる。
「世界の滅亡を止める方法。……それは、君自身が死ぬことだ」
「え……」
「我は祖先にオーラを手にした聖人と呼ばれた者がいる。彼の力は別の者に渡ったが、その子孫には代々オーラを手にしたものの記憶とオーラ自体の記憶を見る事が出来るのだ。そして君の過去とオーラの記憶を見た。君は2022年7月5日にオーラに願っている。全ての人々が自分と同じように不幸になればいいと。そしてオーラは叶えた。君が不幸に耐えきれなくなった時に周りに不幸を起こすようにな。そしてその日にA県で局所地震が発生した。過去に発生した暴風雨も先日の複合災害も過去にオーラに願った結果だ。そして代償としてオーラは世界に異常気象を起こしている。それは最終的に宇宙規模で発生してこの世界は滅亡する。その始まりであり終わりが2025年7月5日だ」
「で、でも俺にはオーラの力があるんですよね!?それで回避することも……」
「あぁある。本来オーラの力はいくらでも使う事は出来る。選ばれた者ならな、しかし君はそうじゃない。見たところ君はもうオーラに願えない。そして以前に説明していると思うがオーラの力で世界を救う事は出来ない。それをすれば反動で世界は滅ぶ」
「そ……そんな……」
「これまでにも世界を救うために危機的状況でオーラを使った者がいたが、彼らは例外なく直後に死に、それからオーラは誰にも憑依することなく数年後に世界は滅亡してリセットされる。しかし今回はイレギュラーである君がオーラを持っている。さらに代償によってオーラは君に憑依したまま、世界と共に消滅するためオーラの力によるリセットもされない。つまり真の滅亡がやってくる」
「!?……」
「だがその真の滅亡はある種の救いではないかとも我々は思う。聖人や聖人の教えを知る者達は、これまで何度も世界の滅亡を防ごうとしてきた。しかし人類は同じ過ちを繰り返し、殺し合い、憎しみ合い、奪い合う。我々はそんな変わらない人類に嫌気がさしたのだ。だからこのまま真の滅亡をしても構わない。だが、そんな愚かな人類でもオーラの力を使って完全に統制することが出来れば、滅亡の未来も防げるかもしれない。その代わりに多くの人間を代償の犠牲にする必要があるがな。今、君には2つの選択肢がある。世界を滅亡から防ぐために独り死ぬか、それとも願いの代償である真の滅亡を見届けるため皆で死ぬか、どちらがいい?」
幸太はかすかに笑いながらつぶやく。
「……そっか……僕はどっちにせよ死なないといけないんですね……。ははは……」
――みんなも不幸ならこんなに苦しくはならないと思ったのになぁ……。
セルグスクは告げる。
「2025年7月5日。時間はまだ猶予がある。7月4日、それまでに結論を出すのだな」
そしてセルグスクは指示を出し、幸太はフミネに連れられてたどたどしい足取りで部屋に戻った。
「セルグスク公爵閣下。時間を与えれば彼が何をするかわかりませんが……」
「彼に何が出来ると言うのだ。逃げたとしても決断からは逃げられぬ。いずれは彼は死んで正統な選ばれし者の橘陽翔にオーラを渡して世界を救うのか、誰も救えずに世界を滅亡させて死ぬのかのどちらかを選ばざるを得ないのだから」
「それでしたら願いの代償。本当の事を伝えなくてよろしいのですか?」
「あれを伝えるべきではないだろう。なぜならば彼の本当の願いの代償は全ての人類が幸せを感じて一人死ぬこと。オーラはそのために全人類に不幸を与えるために滅亡規模の災害などの天変地異を引き起す。もしその状態で原因である彼が死ねば全人類は喜びに至るだろう。そしてこれまでの災害は全て彼に代償を支払わせるために起こされていたものでもある。願いと代償を同時に支払わせるためにな」
「彼が死ねば代償の支払いも終わり世界の異変も止まる、と……」
「そうだ。だが、彼が死なない限り世界は滅亡へと進んでいき2025年7月5日にリセットも起きない真の滅亡をする。我々はあくまでも世界を救いたい。よって決断次第では我らの手で彼を……。つまり彼には自死か、我らに殺されるかの選択肢しかない。そんな救いのない事を彼に言うべきではないのだ……。彼は世界を救いたいと願っていた。それならば最後くらいは世界を救った英雄として決断させてやるべきだ。私はそう考えている……」
「左様にございますね……」
「それに彼の死によって世界の未来が変わる。ならば彼には死に方を選ぶ権利があると思うのだ。しかし彼には酷な決断を迫っているな……彼はただオーラを憑依させてしまった、そして願っただけなのにな……。だがどんな理由にせよ彼は罪から逃れられぬのだ……」
「セルグスク様……」
セルグスクは遠くを見て少し考えて、アドラーに問いかける。
「……橘陽翔はあれからどうだ?」
「はい、世界が存続した場合に彼のオーラの力で全ての人類を完全に管理すると言った案に依然として拒否を示しております」
「そうか……しかし世界が存続したのなら彼の力を使わねば人類に未来はないのだ。このオーラに選ばれし者にのみ与えられた望みを叶える力と代償の向かう先をある程度選べる力を用いて完全管理しなければ、人類は再び滅亡の未来を歩むことになるのだ。歴史はそれを証明している」
「橘陽翔には福永幸太の死の事実を伝えなくてよろしいのですか?」
「あぁ、伝えてはならない。友の死が自らの命を助けたと知れば、彼がその後どうするのかなどわかりきったことだ。さらにその友の死で継続した世界で人に不幸を与えながら生き続ける事など耐えられるはずもない。彼には引き続き福永幸太との接触を禁ずる。それは彼の為にもなるのだ」
「かしこまりました……」
「では、下がって良いぞ」
「それでは失礼致します……」
アドラーは静かにその場を後にした。
――オーラよ、我らに何を望んでいるのだ、人類が変わらない事は知っているはずだ……。それなのにあんな若人達に酷い選択を与えるとは……。
「いや、それを作り出したのも我々か……。しかし……」
セルグスクは、1人呟いた。
閉じられた部屋の中、陽翔は窓から外を見ていた。
窓から微かに見えるこの外に広がる全ての命を守るために、その命を代償に救う事は本当に救いなのかと。
――なんで僕がそんな事をやらないといけないんだ!未来の滅亡を防ぐためだなんて信じられるもんか……。生きるために誰かを殺すなんて、そんな悲しい事があっていい訳ないよ……。幸太……君は今何処で何をしているの?君なら、どうするの?……。
「そうか……俺は俺の願いの代償に死ぬしかないのかぁ……。でも、俺が死ねばみんなを救えるんだよなぁ……。みんなを不幸にしてきた俺が世界を救えるんだ。それって良い事なんだよな、俺一人の命で陽翔達のいるこの世界を救えるんだから。なら、俺は死ぬべきだよな。……みんなもそう思うだろ?……なぁ……」
幸太が部屋の中で壁を見て話すのをフミネは静かに見つめていた。
――また、あの時と同じ顔で話している……。貴方はずっとそうして生きてきたのね……。必死に前向きな言葉を発しているけど、貴方の本心は……。
満面の笑みで話しながら涙を流す彼の心中は誰にもわからない。
一方その頃、ゼコウ達は動き続けていた。
「本隊長、昨日のニュースずっと流れてますね……」
「あぁ、恐らく救世主教会と繋がりのある世界政府による工作だろう。俺たちが再び幸太達を保護した時に全世界が敵になるためにな」
「でも、その繋がりの情報すらも本当なのか……フミネ副本隊長はミフジと言って幸太達を連れ去ったんですよ?」
「そうだな。だが、俺は思うんだ。フミネは敵じゃないと」
「ど、どういうことですか?」
「まず彼女はモパン達と同じ宇宙人だ。あの時の飛行物体や身体操作は間違いなく宇宙人の技術だ。そしてあのミフジと名乗る女性はこれまで一緒に行動していたフミネと同一人物なのだろう」
「だとしたら、やはり副本隊長は敵じゃないですか……」
「だがな、そうだとしたらなぜ我々を殺さないんだ?彼女は常に我らと一緒に頑張ってくれたぞ」
「でも……」
「そして彼女は世界を救うと言っていた。それがどのような手段なのかわからない。危険な方法なのかもしれない。だが、世界を救うと言った彼女を俺は信じたい。そしてこれまでの彼女を信じたいんだ。だから幸太達を助ける時に彼女も連れて帰ろう!彼女の本心を聞くためにな!……話さないと何もわからないんだ!」
「その通りだ……ゼコウ」
「僕たちも彼女の目的を知りたいんだ!」
「そして何故生かされたのかを……」
「お、お前らは!?……」
辺りにどよめきが走る。
「モパン!?生きていたのか!」
「あぁ、あの日ハワイ付近で俺たちはミフジと名乗る女性、いや、俺たちの探していた先輩であるフミネに船を攻撃された。彼女は幸太達を俺たちを殺してでも奪い取ると言って来た。そんな相手に渡せるはずがない。我らは一瞬の隙をついて幸太達を下ろして彼女諸共特攻で自爆しようとしたのだ」
「でもね、彼女はその行動すら読んでいたんだ。おかげで接触するギリギリで僕らを救出して船だけを爆発させたんだ~」
「なぜ、彼女はそんな行動を?」
「彼女は教えてくれたよ。この世界の事、オーラの事、そして幸太を狙う真の理由をね~」
ジダイは彼らにフミネから聞いた内容を説明した。
「つまりこの地球の世界政府の裏にある組織ウロボロスは何度も滅亡を繰り返すこの世界を本気で滅亡から救おうとしているってこと。でも、その方法はオーラの力による完全支配。それは僕らの星と似た末路を辿るかもしれない。つまり人が人として生きれなくなるってことなんだ……」
「なに……」
「オーラには代償が存在するんだ。誰かを幸福にしたいと願えば誰かが不幸になる。誰かに死ねと願えば自分が死ぬかもしれないんだ。だから世界を生きる人間とオーラの代償を受ける人間に分けるんだ。そして代償の矛先をうまくコントロールして代償を受ける人に与えれば多くの人間は助かり遥か先に必ず訪れる滅亡を防げるんじゃないかって彼らは本気で思っているみたいなんだよ」
「しかしこれまでの歴史でそれ以外でこの先訪れる未来の滅亡は防げない事が証明されている。人が変わらぬ限り。そして直近で起きている幸太の力による異常気象はいずれ世界を滅亡させる。彼らの組織は直近の滅亡も未来の滅亡も防ぐために幸太が必要だったのだ。彼女は直近の滅亡を防ぐことには賛成であるが、その後の未来の滅亡を防ぐ方法を彼女は良しとは思わなかった。だがそれ以外に方法がない事もわかっている。迷う彼女は我らを殺さずにこの事を話して、ホニャ国のモパンのアジトに俺らを下ろした。恐らく我らに判断を委ねて止めるのなら止めてほしいと思ったのだろう」
「そして僕たちは船を新造して君たちを探してようやくここまで来たんだ!オーラによる支配なんて止めるためにね!そして幸太達を助けるために!」
「ゼコウ、再び我らに協力をしてほしい。世界を救うために、そして彼らを救うために!」
「もちろんです!我々の志は同じですから!」
激しい暴風の中、彼らは共通の志の元に動き出した。
世界の滅亡まで残り13日。
これにて第24話、おしまい。