テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
潮の匂いと冷たい夜風が混ざり合う、深夜二時の杜王港。 街の明かりは遠く、波が岸壁を叩く低く重い音だけが暗闇に響いていた。
「……で、本当にこんな時間に『怪獣』が出るんスか、承太郎さん?」
手に懐中電灯を持った東方仗助は、大きなあくびを噛み殺しながら隣を歩く男を見上げた。 白のロングコートを夜風になびかせる空条承太郎は、目線を海に向けたまま静かに答えた。
「怪獣かどうかは分からん。だが、ここ数日、杜王港の漁師たちの間で『仕掛けた網が何者かに切り裂かれる』『水深数メートルの浅瀬で、丸太のような巨大な黒い影が泳いでいた』という報告が相次いでいる」
承太郎はポケットから小さなスナップ写真を取り出し、仗助に見せた。引き揚げられた無残な漁網の切れ端——刃物で切られたというよりは、鋭利な「何か」で噛みちぎられたような痕跡だった。
「吉良の件もある。念のため、幽波紋使いの仕業か、あるいは……未知の海洋生物かの確認をしておく必要がある」
「なるほどね……。まあ、もし変なスタンド使いなら、俺たちの手でサクッと解決してやりますよ」
仗助は拳を握り締め、ニシシと笑った。
二人は水銀灯の光が届かない、港の最奥部にある旧埠頭へと足を進めた。かつて資材置き場だったその場所は、今は使われておらず、水面に気味が悪いほど濃厚な暗闇が広がっている。
「……止まれ」
突然、承太郎が静かに片手を制した。
「……え?」
「水面を見ろ」
仗助が懐中電灯の光を海面に向けると、そこには不自然な波紋が広がっていた。 ザバッ……と、重く湿った音が暗闇に響く。 水深わずか数メートルの浅瀬の底から、ゆっくりと「巨大な影」が浮上してきていた。長さは三メートルを超えている。光を反射して青黒くヌメリを放つその背甲には、無数の鋭い突起が並んでいた。
「うおっ!? マジで出たぞ……! なんスかあれ、ワニ!? いや、トカゲか!?」
仗助は即座に『クレイジー・ダイヤモンド』の構えをとった。闇の中から、ギチギチと硬質な関節が擦れ合う気味の悪い音が漏れてくる。影はゆっくりと陸地を目指し、岸壁の梯子に巨大な爪をかけた。
(幽波紋か……!? 攻撃してくる気か!?)
緊張が走る。仗助が前に踏み出そうとしたその時、承太郎の低い声がそれを制した。
「待て、仗助。攻撃するな」
「えっ、でもあいつ陸に上がってきますよ!?」
「よく見ろ。スタンド特有の生命エネルギー(オーラ)が出ていない。……それに、あの動きだ」
承太郎は一歩前に出ると、懐中電灯の光を直接その生物の頭部へと照射した。 照らし出されたのは、太古の甲冑を思わせる重厚な鱗と、つぶらで光を嫌う小さな瞳。その巨大な口には、網を容易に噛みちぎるであろう鋭い鋸状の歯が並んでいた。
「あれは……オオサンショウウオの亜種、あるいは深海域に適応した巨大な海洋爬虫類の未知の個体だ。……幽波紋ではない」
「ええっ!? じゃあ、ただの『本物の生き物』なんスか!?」
「ああ。おそらく最近の時化(しけ)で深海から沿岸の温かい浅瀬に迷い込み、餌を求めて港に居着いてしまったんだろう。人間を襲う気はない……ただ、光と音に怯えているだけだ」
承太郎の言葉通り、懐中電灯の強い光を浴びた巨大生物は、「ギィ……」と悲しげな低い鳴き声をあげると、巨体をすくませて身を守るように丸くなった。その体には、漁船のスクリューか何かに接触したと思われる、痛々しい大きな傷口がパックリと開いていた。
「……可哀想に。網を破っていたのは、腹が減って引っかかった魚を食べようと必死だったからか」
承太郎の眼差しには、冷徹なハンターのものではなく、命あるものを慈しむ海洋学者としての温かさが宿っていた。
「仗助。お前の『クレイジー・ダイヤモンド』なら、あの傷を直せるな?」
「……へい! もちろんっスよ!」
仗助は笑うと、そっと巨大生物へと近づいた。 生物は最初、威嚇するように身を震わせたが、仗助の体から溢れる温かな『クレイジー・ダイヤモンド』の波動を感じ取ったのか、次第に大人しくなった。
「痛かったろ? じっとしてろよ……『クレイジー・ダイヤモンド』!」
仗助のスタンドが放つ桃色の光が、巨大生物の傷口を包み込む。一瞬にして肉が塞がり、壊れた鱗が綺麗に元通りに修復されていった。
「……うわ、すごいっスね。皮膚がツルツルになったぜ」
「ギィ……」
痛みが消えた巨大生物は、嬉しそうに頭をすり寄せるように低く鳴いた。
「よし、これで大丈夫だ。……承太郎さん、こいつ、どうやって海に帰すんすか?」
「俺が少し『手伝い』をする」
承太郎は『スター・プラチナ』を出現させると、時を止める間もなく、その圧倒的なパワーで巨大生物の巨体を優しく抱え上げた。そして、深場へと続く海の沖合に向かって、静かに水面へ滑り込ませた。
バシャーン!
大きな水沫をあげて海へと戻った巨大生物は、一度だけ水面にその大きな尾ヒレを覗かせると、深い闇の底へと帰っていった。
静寂が戻った港。
水銀灯の下で、承太郎はポケットからタバコを取り出し、火をつけた。紫煙が風に乗って夜の海へと消えていく。
「やれやれ……幽波紋使いの刺客じゃなくて拍子抜けしたか?」
「いやいや! むしろホッとしましたよ。街の平和が保たれて、怪我した動物も助けられたんだ。最高じゃないっスか」
仗助は防波堤に腰掛け、海を見つめながら言った。
「……承太郎さんって、本当に海の生き物が好きなんスね」
「ふむ……言葉を持たん生き物だがな、彼らはただ生きるために必死なだけだ。人間が勝手に作り出した境界線で傷つくのは、いつだって彼らの方だからな」
寂しげだが、どこか誇り高い承太郎の横顔。
仗助は、この頼れる年上の甥(自分の甥なのだと改めて思うと少しおかしいが)が持つ、圧倒的な強さの裏にある「優しさ」の根源を見た気がした。
「よし! じゃ、一件落着したところで、帰りにコンビニで肉まん買って行きましょうぜ! 承太郎さんの奢りで!」
「……フッ、勝手に決めるな。だが、付き合ってやる」
承太郎の唇の端が、ごくわずかに緩んだ。
深夜の杜王港に、二人の足音が並んで響いていく。 深海からの珍客が去った後には、澄み切った潮風と、二人を繋ぐ確かな信頼の温もりだけが残されていた。
コメント
1件
ええ〜っ!承太郎さんカッコよすぎん?!😭💕 怪獣かと思ったら怪我した深海生物で、助けるためにクレイジー・ダイヤモンド使う仗助も、スター・プラチナで海に還す承太郎さんも、優しさがにじみ出てて胸熱すぎた…!「言葉を持たん生き物」の話、沁みるよ…。最後のコンビニ肉まんの流れも最高!二人の信頼関係がじんわり伝わってきてめっちゃ好きなエピソードでした!✨
琥珀
343
63
てぃらの。
217
#jojo