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■緊急招集
その日、ヒカルは訓練施設で通常勤務に入ろうとしていた。
突然、構内スピーカーが鳴る。
「SAT全隊員へ、緊急招集。
コード“ブラック・ゼロ”。
繰り返す、コード“ブラック・ゼロ”。」
隊員の表情が一斉に変わった。
(ブラック・ゼロ最悪レベルの都市型武装事件!)
ヒカルは一気に胸が高鳴った。
南條班長の声が飛ぶ。
「日向!フル装備だ。五分で装着しろ!」
「はい!」
防弾ベスト、通信機、MP5、そして
狙撃用ライフルL96A1。
ヒカルは汗ばむ手で確認しながら、車両に飛び乗った。
■都心ビルジャック
現場は 東京都新宿区の高層複合ビル。
・武装グループ7名
・自動小銃
・ビル内に約40名の一般人
・すでに数名の負傷者
報道ヘリが上空で旋回し、生中継されていた。
「SATが到着しました! 現場は完全に封鎖されています!」
ヒカルの顔は映らない。
だが、彼女はすでに “歴史的事件” の内部にいた。
■狙撃班、配置に
南條班長が冷静に指示を出す。
「日向、ビル南側の屋上へ。
お前が第一狙撃手だ。
射線確保までが任務だ。」
「了解!」
ヘリからロープで降下すると、
強風が頬を打つ。
ヒカルは素早く腹這いになり、
スコープを覗いた。
(早い。動きも武装も素人じゃない)
ターゲットは3階のオフィスフロア。
窓の奥で武装犯が見張りをしていた。
心拍は高い。
手が少し震える。
その瞬間、背後から無線が入る。
『日向、深呼吸しろ。
お前なら出来る。
視界は俺が確認してる。』
南條班長の短く落ち着いた声。
ヒカルは呼吸を整え、
ゆっくりとスコープの中心に照準を合わせた。
■第一目標、排除
隊内無線が叫んだ。
突入班、10秒後に突入する!
狙撃班、援護を!』
(来る)
ヒカルはトリガーに指をかけた。
3
2
1
パン!
乾いた銃声。
ビルの窓が一瞬だけ光る。
『見張り一名排除』
無線の声が跳ね上がる。
ヒカルは額に汗を流しながら、唇を噛んだ。
(やった)
報道ではこの瞬間 “遠距離狙撃による先制排除” と速報が流れていた。
■予想外の展開
しかし。
突入班が進もうとした瞬間、
ビルの内部で大規模な爆発が起きた。
ドォォォォンッ!!
炎が吹き上がり、
ガラス片が雨のように降る。
無線が騒然となる。
『爆発確認!内部構造が変わった!』
『人質の位置が不明!』
ヒカルはすぐさまスコープを覗き込む。
(煙で見えない……どうする?)
そこへ静かな声。
「日向。
お前はここで“見つけろ”。
人質の影でも、武装犯の影でもいい。
一人でも見つけたら、突入班の命が助かる」
ヒカルは強く頷く。
「了解」
■スコープ越しの影
煙の中、人の影が一瞬動いた。
体の大きさ、銃の形状、腕の角度─
ヒカルは訓練通り、冷静に判別する。
(武装犯。間違いない)
「南條班長、3階左端、武装犯1名!」
「撃てるか?」
「撃てます!」
パン!
影が崩れ落ちた。
そして─
その音を合図に、突入班が一気に雪崩れ込む。
『突入成功!
残りの犯行グループを制圧する!』
次々と制圧報告が入り、
やがて事件は終息した。
ニュースはすぐに大きく報じた。
『SATが迅速対応』
『正確な射撃で突入班を救う』
南條はそれを横目で見て、わずかに笑った。
「ふん。派手なデビューだな、日向」
ヒカルは少し恥ずかしそうに答えた。
「まだまだ、もっと強くなりたいです」
「なら、明日も朝5時から訓練だ」
「えぇっ!? 仕事もあるのにですか!?」
「SATは24時間、何時でも
戦える体じゃないと務まらないぞ」
「うぅ…了解です…。」
だがヒカルの声は、どこか誇らしげだった。
■10年後のヒカル
32歳。
ヒカルは警視庁SATの中でも、
最年少クラスで「狙撃班・班長」へ昇進していた。
身長は小柄なまま。
だが目は鋭く、身体は完全に“戦う者”のそれになっていた。
後輩隊員からは、
「日向隊長は化け物じみた集中力」
と言われている。
だが─
普段のヒカルは柔らかく笑える女性だ。
しかし、訓練場では鬼。
職場の廊下では優しい先輩。
休日はロジンと猫と過ごす。
しかし、
彼女には誰にも言えない“二つの顔”があった。
・警視庁の職員
・特殊部隊の狙撃手”
家族でさえ、深い部分は知らない。
■心に残った、最初の事件
ヒカルは時々、ふっと思い出す。
22歳、突入初任務で
最初の一発を撃った瞬間。
(あのときの私……震えてたな)
だが今は、震えない。
必要なら、迷わず撃つ。
それが狙撃班隊長の責務だからだ。
しかし──
感情がなくなったわけではない。
撃った瞬間、
心に影のような痛みが走る。
「これは…誰にも言っちゃいけない」
そんな秘密の感情を、10年間抱え続けていた。
■新宿上空の不穏な知らせ
深夜。
ヒカルのスマホが震えた。
【SAT・緊急指令:コード《レッド・サークル》】
ヒカルの表情が一瞬で変わる。
(コード・レッド
“複数死傷の可能性が高い爆発物処理案件”)
制服に着替え、迎えの後輩の車に飛び乗る。
眠っていたロジンには何も言えない。
「ただの呼び出しよ」とだけメモを残した。
車内で、後輩の隊員が言った。
「隊長…緊張、してます?」
ヒカルは少し笑った。
「してるよ。
緊張しなきゃ“人の命”なんて守れない」
後輩は驚いたように黙った。
ヒカルは続けた。
「でも私は“恐怖”はもう感じない。
感じちゃいけない立場だから」
心の奥にだけ、別の声が囁いていた。
(本当は…怖いよ。
でもそれを言った瞬間、私は狙撃手じゃなくなる。)
■現場:都心の通信ビル
現場は都内中心部にある通信センター。
武装犯グループは以下の状況だった。
・建物を占拠
・死傷者3名
・人質20名
・爆発物多数
・リーダーは“元軍人”
状況は“最悪級”。
ヒカルは無線で現場指揮官と連絡を取る。
「狙撃班、配置につきます。
隊長の日向ヒカルです」
『日向隊長か、頼りにしてる。
ビルの三階にリーダーと思われる男がいる』
「了解。目視でき次第、報告します」
■敵の狙撃手
スコープを覗いた瞬間、ヒカルは異常に気づいた。
(待って。
あれは“向こう側も狙撃手がいる”)
普通の武装犯とは明らかに違う構え。
プロ。
軍事訓練を受けた者。
ヒカルはすぐに無線で叫ぶ。
「各班に通達!
敵狙撃手が一名、ビル北側にいる!
突入は待て!」
その瞬間。
パァンッ!!
敵の弾丸が、
ヒカルがいた屋上のコンクリを弾いた。
後輩隊員が叫ぶ。
「隊長ッ!危ない」
ヒカルは冷静に動いた。
「落ち着いて。
今ので位置が分かった」
呼吸を整え、
心拍数を落とし──
(撃つ……!)
パァン!
わずか0.1秒の勝負。
沈黙。
無線が入る。
『敵狙撃手、排除確認!』
ヒカルは、そっと息を吐いた。
(怖かった。
でもこれを顔に出したら…隊長失格だ)
■事件はさらに最悪へ
だが、ここで終わらなかった。
ビル内部で新たな爆発。
通信回線が一時遮断。
武装犯リーダーが要求を変更。
『SATを下げろ。
応じなければ、10分毎に人質を殺す』
隊員たちの顔から血の気が引いた。
後輩隊員が震えながら言う。
「た、隊長…どうしますか?」
ヒカルは静かに答えた。
「後輩を死なせないのが、私の仕事。
人質も絶対に救う。
敵も、ここでは生かして返さない」
その瞳は鋼のように冷たかった。
しかし胸の奥では、
誰にも言えない声が叫んでいた。
(こんな仕事、家族に言えるわけない。
撃った数だけ…心に傷が残るのに。
でも私がやるしかない。
私じゃなきゃ、人が死ぬ。)
■ヒカル、突入を決断
ヒカルは無線で全SAT隊員に指示した。
「これより─
狙撃班が先行し、突入班は私の“撃った瞬間”に進め。
敵リーダーを排除し、人質全員を救う」
南條が昔くれた言葉を思い出す。
(“狙撃は、心の競技だ”)
ヒカルは深い呼吸を一度だけした。
「行くよ。
みんな、私が撃つ。
その一発で…未来が変わる」
隊員たちは緊張の中、
静かに頷いた。
■ヒカル、狙撃位置につく
ビルの屋上の縁。
冷たい風が吹く。
ヒカルは狙撃銃の脚を立て、
頬をストックに当てる。
スコープに映るのは─
爆弾のスイッチを握り、人質の少女を盾にしている“敵リーダー。
ヒカルは眉を寄せた。
(この距離で、人質を盾にしてる…
最悪のパターン。でも、私が外せば…全員死ぬ)
後輩隊員が小声で訊く。
「撃ちますか…?隊長」
ヒカルは答えず、呼吸を整える。
心拍を落とす。
世界がスローモーションになる。
■“撃てるポイント”を探し続ける狙撃手
普通の狙撃手なら撃てない角度。
ミリ単位で誤差が許されない。
しかし─
ヒカルの目は、別の一点を捕らえた。
(右肩の、防弾プレートの隙間。
撃ち抜けば、手が痙攣する…スイッチから指が離れる)
ヒカルの脳裏に、10年間の訓練と実戦が蘇る。
・初任務で震えた夜
・南條に教わった“狙撃は心”
・先輩を失った事件
・後輩を守れなかった後悔
・守れた命のぬくもり
(この一発に、全部を込める)
■トリガーを絞る
『日向隊長、突入班準備完了。
合図を待つ』
ヒカル
「了解。
私の“一発”が合図になります」
後輩が固唾を飲み見ている。
ヒカルは呟いた。
「あなたたちの未来を守るために、私は撃つ」
小さく吸って─
大きく吐き─
指が、決意とともに引かれる。
■“正義の一発”
パァンッ!!!
銃声は乾いた音を響かせた。
─0.15秒後。
敵リーダーの右肩から血が散り、
反射的にスイッチから手が離れた。
人質の少女も弾かれるように倒れ─
スイッチは床に転がった。
ヒカルの狙撃は、完全に成功した。
■突入
無線が爆発するように叫ぶ。
『突入班、今だァッ!! GO!!』
ビル入口、窓、非常階段──
あらゆる方向からSAT隊員が雪崩れ込んだ。
爆音、閃光弾、怒号。
ヒカルはスコープを覗きながら
味方の動きをすべて追っていく。
「右、クリア…
左階段に二名…排除」
『敵、制圧中!』
『人質確保! 死者ゼロ!』
『爆発物解除完了!!』
ヒカルは、ふぅ…と息を吐いた。
(よかった…誰も死ななかった)
その瞬間、
初めて足が震えた。
■現場指揮官の声
『日向隊長、よくやった…
あんな角度、普通の狙撃手じゃまず無理だ』
ヒカル
「後輩が、人質、巻き添えにならなければそれでいいです」
『お前は真の隊長だな。
全員を救った。誇っていい』
ヒカルは黙って頷いた。
だが心の奥では──
“自分が撃った”という重さがひっそりと疼く。
(また一つ心に傷が増えた。
でも、それで救える命があるなら私は撃つ)
■現場からの帰路
作戦終了後。
夜の高速道路を戻る隊車の中。
後輩がぽつりと話す。
「日向隊長…今日の狙撃、
まじで…神業でした。
尊敬します」
ヒカルは少し笑い、静かに言った。
「尊敬なんてしないで。
これは褒められる仕事じゃない」
後輩は驚いた。
「え…?」
「これは“誰かがやらなきゃいけない役目”なだけ。
私は…その役がたまたま私だっただけだよ」
窓の外に、雨が降り始めた。
(言えないよ…本当は、怖くてたまらないなんて)
■ニュース速報
その夜、ニュースが流れた。
〈都心の通信ビル占拠事件 SATの迅速な突入で解決〉
アナウンサーの言葉
「SAT隊員による精密な狙撃が成功し、
人質全員が無事に救出されました」
ヒカルの名前は、当然出ない。
国家機密だから。
しかし─
テレビを見ていたロジンは悟った。
(ヒカル、危険な仕事してたんだね…)
■ヒカルの孤独
その夜、
ヒカルは一人で暗い部屋に座り、
手のひらを見つめていた。
(この手は今日、命を奪った
でも同時に…命を救った)
その矛盾に、
涙がひと粒だけ落ちた。
誰にも見せない涙。
(私は…“普通の警察官”には戻れない)
でも──
彼女は目を閉じ、ゆっくり呼吸を整えた。
「でも私は、この道を進む。
守るために」
強く、静かに。
ヒカルはまた、隊長として立ち上がった。