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第2話 飛行機が怖すぎる
結婚式の翌日。
私たちは、東京から鹿児島へ向かう飛行機に乗っていた。
今日から私は――鹿児島で暮らす。
昨日までとは、生活が全部変わる。
そう考えながら、私は座席に座っていた。
そして、飛行機が離陸する。
「……」
私は完全に固まった。
シートに背中をつけ、前だけをじっと見つめる。
隣に座っている仁ちゃんが、ちらっと私を見る。
「……彩乃?」
「……」
「彩乃?」
「……なに?」
やっと返事をする。
仁ちゃんは私の顔を見ながら、
「……固まってる?」
「固まってない」
「いや、固まってるだろ」
「……」
私は窓の外を見ないようにした。
だって、怖い。
飛行機が苦手なのだ。
「……飛行機、怖いの?」
仁ちゃんに聞かれて、私は小さく頷く。
「……うん」
「そんなに?」
「落ちそう……」
「落ちないよ」
「でも……」
「大丈夫だから」
淡々とした声。
だけど、その言葉に少しだけ安心した。
私は膝の上で手をぎゅっと握る。
それに気づいた仁ちゃんが、自分の手を私のすぐ近くに置いた。
触れてはいない。
でも、何かあったら支えられるくらいの距離。
「ここにいるから」
「……え?」
「俺がいるから」
「……」
胸が少しだけ温かくなる。
「別に……心配してるわけじゃないから」
「……分かってる」
私は小さく笑った。
その直後、飛行機が少し揺れた。
「……っ!」
私は反射的に仁ちゃんの腕を掴んだ。
「……」
「……」
気づいて慌てて手を離す。
「ご、ごめん!」
「別に」
仁ちゃんは怒らない。
むしろ、
「怖いなら、着くまで掴んでていいよ」
と言った。
「……いいの?」
「うん」
私は少し迷ってから、そっと仁ちゃんの腕に手を添えた。
「ありがとう」
「……別に」
しばらくして。
ようやく飛行機の揺れが落ち着いてきた。
私は少しだけ呼吸を整える。
そして、ふと窓の外を見る。
雲の向こうに広がる景色を見ながら、私は小さく呟いた。
「……私、本当に鹿児島に住むんだ」
仁ちゃんがこちらを見る。
「……今さら?」
「だって……」
私は窓の外を見つめた。
「私、ずっと福島にいたから」
「うん」
「東京に出てきたときも、実家には帰ろうと思えば帰れたし……」
「……」
「でも鹿児島って……遠いね」
仁ちゃんは少し黙ってから、
「……まあ、遠いな」
と答えた。
「しかも、私の親戚みんな宮城県にいるんだよ?」
「知ってる」
「福島から宮城なら、会おうと思えば何回か会えるけど……鹿児島からだと、そう簡単には会えないよね」
さっきまで飛行機が怖かったはずなのに。
今度は別の意味で胸が苦しくなった。
結婚する。
夫と暮らす。
鹿児島に住む。
頭では分かっていた。
でも、実際に福島から離れていくと、その現実が急に大きく感じた。
「……大丈夫?」
仁ちゃんが聞く。
「飛行機が怖いだけじゃなくて?」
「……うん」
私は小さく頷いた。
「なんか……急に実感した」
「何を?」
「私、今日から鹿児島の人になるんだなって」
仁ちゃんは少し考える。
「福島の人じゃなくなるわけじゃないだろ」
「……」
「実家もなくならないし、家族もいなくならない」
「うん」
「帰りたくなったら帰ればいい」
私は仁ちゃんを見る。
「……帰っていいの?」
「当たり前だろ」
「でも、結婚したら……」
「結婚したからって、家族に会えなくなるわけじゃない」
仁ちゃんは淡々と言った。
「俺が止める理由もないし」
その言葉に、私は少し安心した。
「……ありがとう」
「別に」
また、その言葉。
でも今度は、少しだけ優しく聞こえた。
私は窓の外を見る。
遠く離れていく故郷、福島。
そして、これから暮らす鹿児島。
「……私、ちゃんと暮らせるかな」
「暮らせるだろ」
「即答……」
「彩乃なら大丈夫」
「……」
その一言に、私は少し驚いた。
仁ちゃんは前を向いたまま。
まるで何でもないことを言ったような顔をしている。
でも私は、その言葉が嬉しかった。
政略結婚で始まった私たち。
まだ夫婦らしいことなんて、何もない。
それでも――
今日から私は、この人と鹿児島で暮らす。
不安で。
怖くて。
少し寂しくて。
それでも、ほんの少しだけ楽しみだった。
そして仁ちゃんもまた。
隣で静かに眠る彩乃を見ながら、まだ自分でも気づいていない感情を抱き始めていた。
コメント
1件
第2話、読み終わったよ〜😭💕 飛行機怖い彩乃ちゃんかわいすぎるでしょ!完全に固まってるの想像したらもう…🤭💗 でも仁ちゃんが「掴んでていいよ」って言うところ、マジでキュンが止まらんかった…!! 「別に」って言いながら絶対気にしてるやつ〜!照れ隠し丸出しじゃん!!! 鹿児島でこれから始まる二人の生活、すごく楽しみだよ🌸 政略結婚から始まった関係がどう変わっていくのか、ゆめかは全力で見守るよ〜⋆♡