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遥か遠い昔。朧気な記憶ながら___
「ねえママ。ひまも皆みたいに遊びたい!」
「ダメよ。貴方はお受験して、良い子になるんだから。」
「でも……。」
「何?」
「…ご、ごめんなさい。」
いつも、窓から年相応に遊ぶ同年代の姿を見ていた。自由奔放に遊んでいるのを見ると、羨ましく思う。
「お友達出来たから……遊びに行ってもいい?」
「……いいですか?でしょう。」
「は、はい……。」
「……ダメです。怪我したらどうするの?」
「えっ……な、なんで!」
「それにその友達って誰?」
「誰、って……。そんなの知ってどうするんですか…?」
「貴方に悪影響を及ぼすかもしれないじゃない。」
「で、でも…みんないい子で!」
「だめ。」
「えっ……。」
「私は、貴方のために言っているのよ。」
「……っ。」
「わかった?」
「はい……。」
「それに、その子とも縁を切りなさい。良くないわ。」
「……っ。」
「外に行くのも極力辞めてよね。」
下を向いたら涙が出そうだった。鼻が赤くなっていくのが自分でもわかる。掌に爪の跡が残るほど、強く握りしめていた。
なんで?なんでなの…?折角出来た友達なのに……。
反論したら、殴られて…。見捨てられる。
「見て…。今回のテスト、学年1位だったんです。」
「あら。凄いじゃない。貴方もやれば出来るのね。」
「!」
なんだ、言う通りに…『良い子』になれば認めてくれるじゃん。
たかがこれっぽっちの自分の感情を、押し潰すだけで。簡単…じゃん。
「ね…簡単だよね。」
ほら、本当はいつも、ずっとひとり。
友達じゃなくていい。誰か…誰か。
人が欲しい。
冷たい風が首元をすり抜ける。もう春とはいえど、寒いのは変わらない。それに、太陽が隠れ、日差しもないからだろうか。
高校の入学式。周りは偏差値の高い、いわばエリートの学校に受かった事を親やら友達に褒め称えられ、キラキラした目をしている。薄らメイクをしている女や、背伸びしてヘアセットをしている男。そんな奴らに虫酸が走る。
1人だけ異質な雰囲気を発している赫浦奈津は、良くいえば優等生。悪くいえばガリ勉の根暗。
別に高校生活に期待なんかしてない。高校とは勉強をして、進学する為の場所だから、とそう思う。
本当は、青春というものを味わっては見たいけれど、この人生を選択した時点で、諦めるべきだろう。
掲示されているクラス分けを確認すると、その教室に向かった。
ガラガラと音が鳴る古びたドアを開け、教室に入ると、いわゆる奈津とは真反対な___一軍系の人達が、もうグループをつくっている。流石に早すぎでは無かろうか。そういう人たちの考えは一生理解出来ないだろう。
そんなクラスの中心のグループの中心の、妙な染め方をしている奴と目が合う。
嫌な予感がした。
そいつは馬鹿にしたような不愉快その物の笑いと、仲間にコソコソと話す、奈津にとっては『気分を悪くするオンパレード』をしてみせた。天賦の才でしかない。
取り敢えず、そういう面では特別目立たないようにしておこう。成績が悪くなるだけだから、無駄でしかないと、そう思った。
「なぁ、お前。」
なんでだろう。目立たなくしたはずなのに、目の前にはあの妙な染め方をしているやつがいるじゃないか。
「……なんですか。」
「あんまり調子乗んじゃねぇぞ。」
そう間近で言われるが、調子乗ったつもりは全くもってない。偶然目が合ってしまっただけだ。
でも、そんな事言ったらもっと反感を勝ってしまう。
「…わかりました。」
そう言うと、そいつは去って仲間の元へ戻っていった。本当になんだったんだろう。
「ま…いいや。」
気にしたら負けと言うのはこの様な時に使うのか。少し明日からが不安だが、行ってみれば何とでもなるはずだ。
ちなみに、あいつの名前を確認してみると、夢羅咲いるまというらしい。珍しい名字に珍しい名前だなというのが第一印象で、それ以上もそれ以外もなかった。
窓の外を見ると、雨雲が近づいてきたみたいで、更に暗くなっていた。